00:01
つづれさせ
小川みめ
おばあさんは、明かりの下に針箱を置き、お仕事をなさっていました。
そのうち、押入れから氷を出し、何かお探しになりました。
おばあさん、何をなさるの?
と、たけちゃんは言いました。
つづれさせが泣くから、うかうかしていられません。
と、おっしゃいました。
つづれさせって?
ほら、りーりーと泣くでしょ。
コオロギのこと、どうしてつづれさせって言うの?
と、たけちゃんが聞きました。
あの泣き声を、昔の人は、
時期寒くなるから、冬の支度をせよと聞いたので、
コオロギをつづれさせというのです。
と、おばあさんはお答えになりました。
昔って、遠い前のことなの?
そう。
おばあさんの、そのまたおばあさんのころから、
夜が長くなると、みんな夜なべをしたものです。
たけちゃんは黙って、
りーりーと泣くコオロギの声を聞いていました。
いい月夜で、窓の柿の葉が黒くうつりました。