1. 朗読 de ポッドキャスト
  2. #05【青空文庫】気絶人形
2021-10-04 03:49

#05【青空文庫】気絶人形

spotify

原民喜「気絶人形」

--------------------------------------

Hara Tamiki title:Stunned doll

00:00
気絶人形、ハラタミキ。くるくる、くるくる、くるくる、ぐるぐる。
その人形は、さっきから目が回って、気分が悪くなっているのでした。
ぐるぐる、ぐるぐる、くるくる、くるくる。
その人形のセルロイドの頬は、真っ青になり、目は美しくふるえています。
みんながべちゃくちゃべちゃくちゃ、耳元でしゃべり続けているのです。
暗いボール箱から出してもらい、薄い髪の目隠しを外してもらい、
ショーウィンドウに出して並べてもらったので、みんなは大はしゃぎなのです。
自動車が見えるよ。
あの人、かわいいのを連れて楽しそうに歩いています。
おー、早くクリスマスがやってこないかな。
お人形たちはみんなてんでにこんなことをしゃべっていましたが、
その中に一人、今とても気分が悪くなっている人形がいました。
初めて目の前に街の景色が見えてきたり、
あんまりいろんなものが見えるので、その人形は目が回ったのかもしれません。
その人形の顔はとてもさびしそうでした。
そのうちに、他のお人形たちもその人形の様子に気がつきました。
まあ、どうしたの。お顔が真っ青よ。早くお薬。
と、誰かが心配そうに言いました。
そう言われると、その人形は一層青ざめてきました。
とうとう足が震えて、バタンと前に倒れてしまいました。
人形屋の主人は倒れているそのお人形を取り上げて、足のところを調べてみました。
別に足が痛んでいるわけでもなかったので、また元通りショーウィンドウの中に立たせておきました。
くるくるくるくる、ぐるぐるぐるぐる。
そのお人形はまた目が回って気分が悪くなりそうでした。
べちゃくちゃべちゃくちゃ、みんなはすぐ耳元でしゃべり続けています。
まあ、あんたどうしたの。お顔が真っ青。
また誰かがこんなことを言いました。
でも今度は一生懸命我慢しました。
そのお人形はあんまりいろんなものが見えてくるので疲れるのかもしれません。
生まれつき他の人形たちより弱いのかもしれません。
03:01
でもじっと我慢している姿はとても美しく立派に見えました。
今にもバタンと前に倒れそうなのに、目は不思議に輝いていました。
ショーウィンドウの前に立って熱心に人形を眺めていた一人の少女は、
人形屋の主人を呼んでその人形を指差しました。
それからその人形は少女の手に渡されました。
その温かい手の中に握られると、急にその人形の頬の色は生き生きとしてきました。
もうこれからは気絶したりすることはないでしょう。
03:49

コメント

スクロール