春の陽気が作業着の判断を迷わせる日、ひとつの抽選会が静かに畑の地図を塗り替えた。応募者はひとりだった。つまり、迷いも競争もなく、ただ土地が向こうからやってきた。100坪のハウスが増える。アストランティア、アルケミラ、アスチルベを植え込む計画が頭のなかで芽吹きはじめ、乾ききった床土を想像するだけで胸が弾む。しかしその弾みに影が差すように、やるべきことの重さもどかりと心に落ちてきた。ワクワクと憂鬱は同じ重力で引き合うらしい。
午後、娘と向かった図書館は祝日休館だった。でも駐車場のゆるキャラの周りで追いかけっこになり、縁石の上を走る娘を追いかけすぎてしまった。転んで泣いた娘を抱えて家に戻り、また畑へと軽トラを走らせる。この往復が農家の一日だ。
ハウスの西側と東側で土の顔が違う。造成で削り出した西は水はけが良すぎて痩せていて、東は元来の畑土として肥えている。土壌診断では5点平均しか出ないが、畝ごとの差は肌で知っている。データが均すものを、体が覚えている。数字の網の目から零れる情報を農家の勘が拾う——そういう知の形がある。
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