はい、それでですね、このだけとしかないっていうの結構昔から言われてはいるんですけど、
これをめちゃくちゃ鮮やかに解き明かしたのが、言語学者の久野進先生。
もうこの先生は日本語の生成文法の3大巨頭の先生の一人なんですけど、
井上和子先生、黒田重幸先生、久野進先生っていうこの3名が、僕のやってるね、生成文法っていう分野の中ではもう3大巨頭。
この久野進先生が99年の論文だったかなって言った話を今日は持ってきました。
久野先生が言ってるのは、このだけとしかないにはメインの意味とサブの意味があると。
彼の言い方を借りるとメインの陳述、第一陳述と第二陳述があると。
それらがだけとしかないで共像関係にある、つまり入れ替わってる。
共像?
ミラーですね。鏡の関係にあるっていうのが大事なんだよっていうふうにレポートしてて。
例えば、もしかしたら100円だけあるって言われたらどういうふうに感じます?
お財布の中に100円だけあるって言われたらですか?
100円玉が1枚コインがあるっていうふうに感じます。
そうですよね。
だから久野先生の言葉を借りると主の意味、メインの意味は100円があるっていう肯定文がメインの意味なんですよ。
そうですね。100円だけあるっていうふうに言う人が結構多いと思うんですけど、
そこには100円があるんだと。その財布の中にはっていうあることが大事っていうニュアンスは感じられるんじゃないかなと思いました。
久野先生の言葉で言う裏の意味、柔の意味というか第二陳述ですね。
100円以外はないよっていうのが裏の意味。
2番手ってことですよね。
2番手として出てくる。だからスポットライトが当たってるのはその100円玉があることにスポットライトが当たってるわけですよね。
ところがこれを100円しかないって言ったらどういうふうに聞こえます?
ないの方が大事というか、周りの世界がないっていう方に、500円玉もないし1円玉もないしっていう方のないことの方が大事で、
これは多分100円しかないっていうふうに、やっぱない側に焦点が当たるんじゃないかなと。
素晴らしい。素晴らしい。そうなんですよ。
さっき言った共存の話なんですけど、しかないとだけっていうのは共存の関係にあるので、しかないって言ったときは主の意味、メインの意味、第一陳述は100円以外はないっていう否定の意味なんですよね。
そっちがスポットライトが当たってて、柔の意味、裏の意味の方は100円があるっていう肯定の意味になってる。
つまりスポットライトが当たってるこっちが大事だよっていうのはそれ以外がないっていうことの方が大事なんですよね。
まあ100円しかないって言ってる方が困ってそうで、100円だけあるっていう方がポジティブな人なのかなっていう。
大丈夫、100円あるからみたいな。コップの水の半分しかない半分もあるの話じゃないですけど、しかないの方が絶望感があるかなというふうには感じます。
で、これ面白いのはしかって言った時っていうのは、本来目の前にある100円を見てるんじゃなくて、あるはずだったのにっていう、あるはずだった欠落の部分に目線が行ってる。
100円がそこにあるっていう100円玉の存在よりも、いやもうちょっとなかったみたいな、見えなくなってしまったというか、なくなってしまった方に焦点が行ってるっていうことですかね。
だから最初の留学生の質問のところに戻ると、日本語しか話さないの方が自然なのは話せない方にフォーカスが欲しいわけよね。
英語とか話せないし。
だから日本語だけ話すっていうより、日本語しか話せないっていう方が自然に感じるよねっていうことだったわけですね。
で、これを彼女に話したら、なるほどそういうことかというふうに納得して、でもこれは使い分け難しそうだなっていうふうに言ってましたけど。
それでは今日の101号室はこの辺で次のコーナーに行ってみましょう。
持子の持ち込み
このコーナーでは持子とリスナーの皆さんが日常生活で発見した奇妙な言い回し、新しい若者言葉、謎のビジネス用語、
そんな日常にあふれる不思議な言葉遣いをけいさんに分析してもらうそんなコーナーです。
早速今日のお便り読ませていただきます。
ラジオネーム漢字ドリルさん。けいさん持子さんこんばんは。
私は職場で部下の喋り方が気になって夜も眠れません。
彼らは職場の雰囲気を良くしましょうと真顔で言うんです。
雰囲気ですよね。漢字を見れば一目瞭然です。
PCで雰囲気と打っても変換されないのになぜ彼らは気づかないのでしょうか。
これは単なる無教養なのかそれでも私の耳がおかしいのでしょうか。
というお便りいただきました。ありがとうございます。
ありがとうございます。これまた良い観察ですね。
結構多いですよね雰囲気っていう人。
言いやすいですもん。
授業で僕学生とか教えてても良い雰囲気でっていう学生結構多いんですよ。
雰囲気。雰囲気。
なんでこういうのが起きるかというとこれ言語学的にはメタセサスとか日本語にすると音位転換かな。
名前がついてる現象なんですね。
一応名前がついてるんですよ。
ただの言い間違いが継承されてしまったとかじゃなくて。
ではなくてもちろん雰囲気の場合はそういうのもあるかもしれませんけどね。
もうかなり皆さん使ってるから継承されてるパターンもあるかもしれませんけど。
専門用語としては音位転換音の位が転換する変わっちゃうという風に言うんですね。
要はさっきもち子さんが言ってくれたみたいに言いやすいからそういう風に変わっちゃう入れ替えちゃうっていうことが言語の中では時々起きるんですね。
今回の雰囲気も本来は雰囲気なんですけど。
んの後にいいの音が来るっていうのはすごく言いにくいというか口の動きが大きくなって言いにくいので雰囲気っていう風に流れを良くするっていう。
んといんだったらいの方が言いやすいですもんね。
そうそう。んがすごく言いにくいのでひっくり返しちゃおうっていうことを脳が勝手にしちゃうんですね。
なのでもちろん間違って覚えてらっしゃる方も中にはいるかもしれませんけど。
一概に全部が間違いというわけでもなく実は脳が経済的にというか効率的に発音したいっていう欲求があって起きてるっていう風に考えられています。
結構省エネ派ですよね。
そう人間の脳って結構効率派というか省エネなんですよね。
でまあこの有名なメタアセス音韻転換他の例としては新しいとか。
新しい。
あの新しいって今はまあ形容詞でnewという意味で使ってますけどこれたの送り柄がついてたらなんて読みます。
あらたに。
うんあらたにでしょ。
おー確かに。
あたらにじゃないよね。
あたらにじゃないですね。あらたにです。
あらたにとかあらたなでしょ。
あらたな。
だからもともとはあらただったんですよこれ。あらたしいだったんです。
あらたしい。
あらたしい。
あらたには言えるけどあらたしいは言いにくいですね。
言いにくいですよね。
だから結果的にそれが歴史の中で新しいになっちゃってもうひっくり返ったまま定着しちゃったんですよこれ。
むしろそれが今だって漢字テストであらたしいって書いてあるバズって言ってたもんね。
そうですね。
なんでもしかしたらあと数百年後には雰囲気は雰囲気になってるかもしれない。
国の偉い人がねもうこれからは雰囲気だって。雰囲気の時代だって言ったら。
雰囲気になっちゃうかもしれないよね。
他にもあってお宅の聖地。
秋葉原。
あれももともと秋葉原なんですよ。
ふざけて秋葉原って言ったりしますけど。
また戻ってんの?
そうそう。でも秋葉原も今秋葉原になっちゃってますけどもともと秋葉原だったのは省略形は秋葉。
秋葉。
秋葉じゃないでしょ。
秋葉じゃない。
だから秋葉原だったんで秋葉っていうところで切れてるわけですよね。
漢字もそうですよ。
漢字見ても秋葉原ですよね。だからそういうふうに結構言語の中では時々起きる現象なんですよね。
だから漢字習った時にあれって思ったのだとやっぱりむしろ雰囲気もそう雰囲気も音の方が先に入ってきてて漢字で見てあれって思ったのとか。
あと当て字半分当て字だけどサザンカとかも漢字を見た時にあれ山じゃん山坂じゃんみたいな。
そうですねサザンカもそうですね。
のは結構音で先に知ってて漢字を見た時にあれっていうふうに思ったのはやっぱ何個かあるなという印象はありますね。
そういうのはみんなこの音韻転換の結果なんですね。
なるほど。