本当に謎だらけの存在ですよね。今回はこの壮大な謎を読み解くために、かなり多様な分野のソースをご用意しました。
はい、どんなデータがあるんでしょうか?
アリゾナ大学による放射性炭素年代測定のレポートとか、あとは言語学、最新のAIによる解析論文ですね。
AIも使われているんですね。
それに加えて植物学的なアプローチからの考察や、歴史的にどう伝わってきたかという記録なんかもあります。
なるほど。今回の私たちのミッションは、この手書を単なる都市伝説とかオカルトとして扱うのではなくてですね。
はい、データと歴史的科学的な観点から一体何を意味しているのかを探ることですね。
その通りです。相反する無数の諸説から共通項を洗い出して、なぜ600年もの間解読されていないのか、その真実にあなたと一緒に迫っていきましょう。
まずは、この手稿が物理的にどんなものなのか、全体像を整理しておきましょうか。
そうですね。ボイニッチ手稿は、動物の皮から作られたベラムと呼ばれる羊皮紙に書かれた、大体240ページくらいの本なんです。
結構なボリュームですよね。
左から右へと流れるように未知のボイニッチ語が書かれているんですが、何より目を引くのがその冴えなんですよ。
独特な絵ですね。
はい。見たこともない植物が延々と描かれていたかと思えば、謎の星座標があったりして、さらには緑色とか青色の液体が貼られた奇妙なチューブみたいな管の中で、ぽっこりとお腹の出た裸の女性たちが水浴びをしている絵まであるんです。
初めて見たらかなり異様ですよね。
正直なところ、この中、エイリアンが描いたような脈絡のない絵を見ていると、私の最初の直感としてはですね。
はい、どう思いました?
後世の誰かが面白半分で作ったものすごく精巧な近代の偽造品なんじゃないかって疑っちゃうんですよ。
ああ、なるほど。実はその直感、多くの歴史家が最初に抱いたものと全く同じなんです。
やっぱりそうですよね。
でも、2009年にアリゾナ大学の研究チームが行った放射性炭素年代測定によって、その疑いは完全に晴れたんですよ。
完全にですか?
はい。彼らはこの抵抗が後から誰かに継ぎ足されたものじゃないってことを証明するために、すごく慎重なアプローチを取っています。
どうやったんですか?
具体的には、フォリオ8、26、47、68というそれぞれ違う特徴を持つ4つのページから、ごくごく小さなサンプルを切り取って分析したんです。
なるほど。1ページだけ古い紙を使ったわけじゃないって証明するために、あえてバラバラの4箇所を調べたんですね。
まさにその通りです。その結果、4つのサンプル全てが95%の確率で、1404年から1438年の間に作られた羊皮紙であると、完全に一致したんです。
1400年代初頭、そんなに昔なんですか。コロンボスがアメリカ大陸に到達するずっと前ですよね。
そうなんですよ。つまりこの本は間違いなく15世紀初頭に作られた神聖な中世の遺物だということが科学的に確定したわけです。
へー、でもその年代が科学的に確定したことで、これまでの歴史の定説がひっくり返った部分もあるんじゃないですか。
ええ、ここで面白いのがですね、かつて神聖ローマ皇帝ルドルフ2世は、この手稿を現在の価値で数千万円にもなる大金で購入しているんです。
数千万円、すごい金額ですね。
彼はこれを13世紀の偉大な哲学者ロジャーベーコンの著作だと信じていたんですよ。
でも年代測定によってベーコンの死後100年以上経ってから作られたことが判明して。
あっちゃー、皇帝の信じた説はあっけなく崩れ去っちゃったわけですね。
うーん、全体で筋が通らないなら解明とは言えませんね。でも、あの、婦人科の秘密でもなく、ラテン語の速記でもなく、どうしても読めないとしたら。
としたら?やっぱりこれ、皇帝から大金を巻き上げるために作られたただのデタラメな詐欺本なんじゃないかって思えてきます。
それが3つ目の有力な仮説、完全な滅造説、いわゆるホークス説ですね。イギリスのゴードンラグラが提唱したもので、16世紀に実在したカルダングリルという暗号作成の道具を使えば、意味のない文字列をいかにも言語らしく大量生産できるというものです。
カルダングリル、それはどうやって使うんですか?
ちょっと想像してみてください。まず、適当な音説がびっしり書かれた大きな表を用意します。次に、数箇所に四角い穴を開けた厚紙、これがグリルなんですけど、それを表の上に置きます。
はいはい。
そして、穴から見えている音説だけを書き写す。書き終わったら、厚紙を1行下にずらして、また穴から見える音説を書き写す。これを繰り返すだけで、一見すると規則性のある言語のようなものが自動生成されるんです。
おお、それなら、手稿に書き間違いや修正の跡が一切ない理由も説明がつきますね。
そうなんですよ。
頭で文章を考えて書いているわけじゃなくて、ただ穴から見える文字を機械的に作業として書き写しているだけだから、間違えようがないんですね。意味がないんだから修正の跡がないっていうのは妙に納得しちゃいます。
非常にエレガントな説明ですよね。熱造説は、なぜ読めないかに対する最もシンプルな回答のように思います。しかし、ですね。
しかし、まだ何かあるんですか?
ええ。言語学的なデータと現代のAIが、この熱造説の前に大きな壁として立ちはだかっているんですよ。全体像を俯瞰してみると、デタラメでは済まされない事実があるんです。
どういうことですか?
もし、カルダングリルで機械的に生成されたデタラメな文字列なら、単語の出現頻度は比較的均等に散らばるはずですよね。
まあ、サイコロを振るようなものですからね。
そうなんです。ところが、ボイニッチテコーのテキストは、ZIPの法則という自然言語だけが持つ明確な統計的特徴に完全に合致しているんです。
ZIPの法則ですか?例えば、英語なら、THEやANDみたいな単語は頻繁に出てくるけど、COVERみたいな特定の単語は滅多に出てこないみたいなことですか?
ええ、まさにそれです。そういう単語の出現頻度の偏りが、数式で表せるような美しいカーブを描くんですよ。
へえ。
デタラメな穴埋め作業で、この自然言語特有の数学的なカーブを偶然作り出すことは不可能です。
さらに決定的なのが、暗号解読者のプレスコット・カリエーが発見した事実ですね。
どんな事実ですか?
彼は単に文字の並びだけじゃなくて、筆質、つまりインクの筆地や文字の傾き、ループの形状といった物理的な特徴を詳細に分析しました。
すると、テコーの中には明らかに筆質が異なり、かつ使われる単語の傾向も違うA言語とB言語という2つのシステムが混在していることを突き止めたんです。
違う言語が混ざっている?
ええ。後の研究では、何と少なくとも5人の異なる筆者者が関わっているとされています。
ちょっと待ってくださいよ。皇帝を騙して、金儲けをするためだけの詐欺本を作るのに、わざわざ5人も筆者者を雇って、それぞれの筆跡に合わせて使う単語の傾向まで変えて、しかも全体がZIPの法則という言語の法則に合致するように設計するんですか?
常識的に考えると不自然ですよね。
そんなこと中世の詐欺師がやるとは到底思えません。朗読が全く似合ってないですよ。