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宮沢賢治が描く恋愛と嫉妬心/土神ときつね
2026-09-22 41:37

宮沢賢治が描く恋愛と嫉妬心/土神ときつね

自信のなさから、惹かれる相手と恋敵に対して苦しい思いをつのらせる土神。神ともあろう自分がこんな気持ちでいるのは情けないと、正直な気持ちを抑えようとするほど、苦しさは増していくのです。

きつねは不正直です。惹かれる相手に等身大でいられない自分を許せず、しかしつい大きく見せてしまいます。

土神ときつね、どちらに共感しますか?

感想

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サマリー

アスは、宮沢賢治の作品の中でも特に好きな「土神ときつね」を、自分が老後に聞き返す記録として朗読する。幼少期に読んだこの作品をきっかけに天文台へ通うようになり、作中の星座や星雲、ドイツの望遠鏡ZEISSという言葉にも思い入れがある。物語では、カバの木をめぐって、粗暴だが正直な土神と、上品だが見栄から嘘をつく狐が対照的に描かれる。 狐は星や美学について詳しく語り、持っていない望遠鏡を注文したとカバの木に話してしまう。土神は狐への嫉妬と、カバの木に惹かれる自分への羞恥に苦しみ、苛立ちから木こりを弄ぶなど、神としての自分を責めながら感情を抑えられない。秋になって心が軽くなった土神の前に狐が現れ、約束していた本と望遠鏡を見せる約束を告げると、土神の嫉妬が再燃して狐を追いかける。 土神は狐を捕らえて踏みつけ、狐の死体から望遠鏡ではなく茶色のかもがやの穂が二本出てくる。自分が狐を殺してしまったことに気づいた土神は、狐の上で雨のように涙を流す。

宮沢賢治と「土神ときつね」への思い
アスチャンネルのアスです。 今日は宮沢賢治という私の大好きな作家さんの一番好きな
土神ときつねっていう 作品を朗読させていただきます。
私 このアスチャンネルを続けている一つの理由として、老後の自分の楽しみっていうのがありまして
老人ホームとかに入って退屈すぎて何もすることがないときに ベッドの上とかでも聞けるっていうような
何か楽しみがあったらいいなって思っていて その時に若かった自分が何を考えてたかとか何を頑張っていたとか何を悩んでたかとか
そういうのの記録があったら退屈しのぎになるかなって思って やってる部分もあるんです
Spotifyが自分が老人になった時に存在しているかわかんないですけど なんかそういうのって
ミクシーとかXとかノートとかいろいろあって そういうののデータもできるだけ長くあったらいいなって思ってるんですけど
Spotifyもどうにかどこかで残ってくれるといいなと思っています
ということでこれを私が 70歳80歳になった時にもしかしたら聞いてるかもしれないから
その自分に向けて個人的な理由で読ませていただきます ただこれとってもいい話で小学生の時に
買った子供用の短編集の中に入っていったものです
もう表紙もどっか行っちゃってボロボロの状態で持っているんですけれども このちがみとキツネばっかりすごく読みました
宮沢賢治には珍しい恋愛のストーリーになっていて この話の中に出てくる天文台に関する言葉もすごく好きで
そのイメージがずっとあって 大人になってから天文台に通うようになったっていうのもあります
星座とか星雲とか あとドイツの望遠鏡でサイスっていうのが出てくるんですけど
カメラを買ってからこのサイスっていう言葉が出てきて レンズのメーカーとして出てきて感動したりして
買おうかなって思ったんだけど あんまりちょっと値段が張ったので買えなかったんですけど
私の好きなことのルーツに宮沢賢治が結構あって そういうのもあって皆さんももし興味あったら聞いて欲しいなって思うので
よかったら聞いてみてください じゃあ読みます
カバの木と土神・狐の出会い
土神と狐 宮沢賢治
1 ポンギの野原の北のはずれに 少しこだかく盛り上がったところがありました
イノコログサがいっぱいに生え その真ん中には一本のきれいな女のカバの木がありました
それはそんなに大きくはありませんでしたが 幹はテカテカ黒く光り
枝は美しく伸びて 5月には白い花を雲のようにつけ
秋は金や赤やいろいろの葉を降らせました
ですから渡り鳥のカッコウやモズも また小さなミソサザイやメジロも
みんなこの木に泊まりました
ただもしも若い鷹などが来ているときは 小さな鳥は遠くからそれを見つけて
決して近くへ寄りませんでした この木に二人の友達がありました
一人はちょうど五百歩ばかり離れた ぐちゃぐちゃの家地の中に住んでいる土神で
一人はいつも野原の南の方からやってくる 茶色の狐だったのです
カバの木はどちらかといえば狐の方が好きでした
なぜなら土神の方は神という名こそはついていましたが
ごく乱暴で髪もボロボロのもめん糸の束のよう
目も赤く着物立ってまるでわかめに似 いつも裸足で爪も黒く長いのでした
ところが狐の方は大変に上品な風で
めったに人を怒らせたり気にさわるようなことをしなかったのです
ただもしよくよくこの二人を比べてみたら
土神の方は正直で狐は少し不正直だったかもしれません
狐が語る星と望遠鏡の知識
夏の始めのある晩でした
カバには新しい柔らかな葉がいっぱいについて
いい香りがそこらじゅういっぱい
空にはもう天の川がしらしらと渡り
星は一面ふるえたり揺れたり灯ったり消えたりしていました
その下を狐が獅子をもって遊びに行ったのでした
下手下ろしの今度セビロウキ
赤皮の靴もキッキッと鳴ったのです
実に静かな晩ですね
ええ
カバの木はそっと返事をしました
サソリボシが向こうを張っていますね
あの赤い大きなやつを昔はシナではカといったんですよ
火星とは違うんでしょうか
火星とは違いますよ
火星は惑星ですね
ところがあいつは立派な光星なんです
惑星、光星ってどういうんですの?
惑星というのはですね
自分で光らないやつです
つまり他から光を受けてやっと光るように見えるんです
光星の方は自分で光るやつなんです
お日様なんかはもちろん光星ですね
あんなに大きくて眩しいんですが
もしど方もない遠くから見たら
やっぱり小さな星に見えるんでしょうね
まあお日様も星のうちだったんですわね
そうしてみると空にはずいぶんたくさんのお日様が
あらお星様が
あらやっぱり変だわお日様があるんですね
狐は応用に笑いました
まあそうです
お日様にはどうして
赤いのや黄色や緑のやあるんでしょうね
狐はまた応用に笑って腕を高く組みました
刺繍はぷらぷらしましたが
なかなかそれで落ちませんでした
星に橙や青やいろいろあるわけですか
それはこうです
全体星というものは
はじめはぼんやりした雲のようなもんだったんです
今の空にもたくさんあります
例えばアンドロメダにもオリオンにも
リョウケンザにもみんなあります
リョウケンザのは渦巻きです
それからリングネピュラというのもあります
魚の口の形ですから
フィッシュマウスネピュラともいいますね
そんなのが今の空にもたくさんあるんです
まあ私いつか見たいわ
魚の口の形の星だなんて
まあどんなに立派でしょう
それは立派ですよ
僕水様の天文台で見ましたがね
まあ私も見たいわ
見せてあげましょう
僕実は望遠鏡をドイツのZEISSに注文してあるんです
来年の春までには来ますから
来たらすぐ見せてあげましょう
キツネは思わずこう言ってしまいました
そしてすぐ考えたのです
ああ僕は
たった一人のお友達にまたつい嘘を言ってしまった
ああ僕は本当にダメなやつだ
けれども決して悪い気で言ったんじゃない
喜ばせようと思って言ったんだ
後ですっかり本当のことを言ってしまおう
キツネはしばらくシーンとしながらこう考えていたのでした
カバの木はそんなことも知らないで喜んで言いました
まあ嬉しい
あなた本当にいつでも親切だわ
キツネは少ししょげながら答えました
ええそして僕はあなたのためならば
他のどんなことでもやりますよ
この刺繍ご覧なさいませんか
はいねという人のですよ
翻訳ですけれどもなかなかよくできてるんです
まあお借りしていいんでしょうかしら
構いませんともどうかゆっくりご覧なすって
じゃあ僕もう失礼します
はてな何か言い残したことがあるようだ
お星様の色のことですわ
あそうそうだけどそれは今度にしましょう
僕あんまり長くお邪魔しちゃいけないから
あらいいんですよ僕また来ますから
じゃあさよなら
本はあげていきます
じゃあさよなら
キツネは忙しく帰ってきました
そしてカバノキはその時吹いてきた南風に
ざわざわ葉を鳴らしながら
キツネの置いていった刺繍を取り上げて
浜の川や空一面の星から来る
かすかな明かりに透かしてページを送りました
そのハイネの刺繍にはローレライや
様々美しい歌がいっぱいにあったのです
そしてカバノキは一晩中読み続けました
ただその野原の三時過ぎ
東から金牛急の上る頃
少しとろとろしただけでした
夜が明けました
太陽が上りました
草には梅雨がきらめき
花はみんな力いっぱい咲きました
その東北の方から
溶けた銅の汁を体中にかぶったように
朝日をいっぱいに浴びて
土神がゆっくりゆっくりやってきました
いかにも分別臭そうに腕をこまねきながら
ゆっくりゆっくりやってきたのでした
カバノキはなんだか少し困ったように思いながら
それでも青い葉をキラキラと動かして
土神の来る方を向きました
土神の嫉妬と木こりへの暴力
その影は草に落ちて
チラチラチラチラ揺れました
土神は静かにやってきて
カバノキの前に立ちました
カバノキさんおはよう
おはようございます
わしはねどうも考えてみると
わからんことがたくさんある
なかなかわからんことが多いもんだね
まあどんなことでございますの
たとえばだね
草というものは黒い土から出るのだが
なぜこうも青いもんだろう
木や白の花さえ咲くんだ
どうもわからんね
それは草の趣旨が青や白を持っているためではないでございましょうか
そうだまあ見えばそうだが
それでもやっぱりわからんな
たとえば秋のキノコのようなものは
種子もなし全く土の中からばかり出てくるもんだ
それにもやっぱり赤や黄色やいろいろある
わからんね
キツネさんにでも聞いてみましたらいかがでございましょう
カバノキはうっとりゆうえの星の話を思っていましたので
ついこう言ってしまいました
この言葉を聞いて
土神はにわかに顔色を変えました
そして拳を握りました
なんだキツネ
キツネが何を言いよった
カバノキはオロオロ声になりました
何もおっしゃったんではございませんが
ちょっとしたらご存じかと思いましたので
キツネなんぞに神が物を襲わるとは
いったい何たることだえい
カバノキはもうすっかり怖くなって
プリプリプリプリ揺れました
土神は歯をキシキシ噛みながら
高く腕を組んでそこらを歩き回りました
その影は真っ黒に草に落ち
草も恐れて震えたのです
キツネのごときは実に世の外役だ
ただ一言も誠はなく
卑怯で臆病で
それに非常に妬み深いのだ
うぬ
畜生の文才として
カバノキはやっと気を取り直して言いました
もうあなたの方のお祭りも近づきましたね
土神は少し顔色を和らげました
そうじゃ
今日は5月3日
あと6日だ
土神はしばらく考えていましたが
にわかにまた声をあらげました
しかしながら人間どもは不届きだ
近頃はわしの祭りにも
供物一つ持ってこん
今度わしの寮分に最初に足を入れた者は
きっと泥の底に引きずり込んでやろう
土神はまたキリキリはがみしました
カバノキはせっかくなだめようと思って言ったことが
またもやかえってこんなことになったので
もうどうしたらいいかわからなくなり
ただちらちらとその葉を風にゆすっていました
土神は日光を受けて
まるで燃えるようになりながら
高く腕を組み
キリキリはがみをして
そのへんをうろうろしていましたが
考えれば考えるほど
何もかもしゃくにさわってくるらしいのでした
そしてとうとうこらえきれなくなって
吠えるように唸って
あらあらしく自分の家地に
帰っていったのでした
土神の住んでいるところは
小さな競馬場ぐらいある
冷たい湿地で
苔やからくさや
短い足などが生えていましたが
またところどころには
狭みや背の低い
ひどくねじれた柳などもありました
水がじめじめして
その表面にはあちこち
赤い鉄の渋がわきあがり
煮るからどろどろで
気味も悪いのでした
その真ん中の小さな島のようになったところに
丸太でこしらえた高さ一馬ばかりの
土神のほこらがあったのです
土神はその島に帰ってきて
ほこらの横に長々と寝そびりました
そして黒い痩せた足を
がりがりかきました
土神は一羽の鳥が
自分の頭の上をまっすぐかけていくのを見ました
すぐ土神は起き直って
シッと叫びました
鳥はびっくりして
よろよろっと落ちそうになり
それからまるで羽物にもしびれたように
だんだん低く落ちながら
向こうへ逃げていきました
土神は少し笑って起き上がりました
けれどもまた
すぐ向こうの川の木の立っている高みのほうを見ると
はっと顔色を変えて棒立ちになりました
それからいかにもむしゃくしゃするというふうに
そのぼろぼろの髪の毛を両手でかきむしっていました
その時
家地の南のほうから
一人の木こりがやってきました
三森山のほうへ稼ぎに出るらしく
家地の縁に沿った
細い道を大股に行くのでしたが
やっぱり土神のことは知っていたとみえて
時々気づかわしそうに土神のほこらのほうを見ていました
けれども
木こりには土神の形は見えなかったのです
土神はそれを見ると喜んで
ぱっと顔をほてらせました
それから右手をそっちへ突き出して
左手でその右手の手首をつかみ
こっちへ引き寄せるようにしました
すると期待なことは
木こりは道を歩いていると思いながら
だんだん家地のほうに踏み込んでくるようでした
それからびっくりしたように足が速くなり
顔も青ざめて口をあいて息をしました
土神は右手のこぶしをゆっくりぐるっと回しました
すると木こりはだんだんぐるっと
まるーくまわって歩いていましたが
いよいよひどくあわてだして
まるではぁはぁはぁはぁしながら
何べんも同じところをまわりだしました
なんでも早く家地から逃げて出ようとするらしいのでしたが
あせってもあせっても同じところをまわっているばかりなのです
とうとう木こりはおろおろ泣きだしました
そして両手をあげて走りだしたのです
土神はいかにもうれしそうにニヤニヤニヤニヤ笑って
寝そべったままそれを見ていましたが
まもなく木こりがすっかりのぼせてつかれて
ばたっと水の中にたおれてしまいますと
ゆっくり立ちあがりました
そしてぐちゃぐちゃ大股にそっちへ歩いていって
たおれている木こりのからだを
向うの草原のほうへポンと投げだしました
木こりは草の中にどしりと落ちて
うーんといいながら少し動いたようでしたが
まだ気がつきませんでした
土神は大声に笑いました
その声はあやしい波になって空のほうへ行きました
空へ行った声はまもなくそっちからはねかえって
がさりとカバの木のところにも落ちていきました
カバの木ははっと顔色をかえて
日光に青くすきとおりせわしくせわしくふるえました
土神はたまらなそうに
両手で髪をかきむしりながらひとりで考えました
おれのこんなにおもしろくないっていうのは
第一キツネのためだ
キツネのためよりはカバの木のためだ
キツネとカバの木のためだ
けれどもカバの木のほうはおれはおこってはいないのだ
カバの木をおこらないためにこんなにおれはつらいのだ
カバの木さえどうでもよければ
キツネなどはなおさらどうでもいいのだ
おれはいやしいけれどもとにかく神のぶんざいだ
それにキツネのことなど
気にかけなければならないというのはなさけない
それでも気にかかるからしかたない
カバの木のことなどは忘れてしまえ
ところがどうしても忘れられない
けさはあおざめてふるえたぞ
あのりっぱだったことどうしても忘れられない
おれはむしゃくしゃまぎれに
あんなあわれな人間などをいじめたのだ
けれどもしかたない
だれだってむしゃくしゃしたときは
なにをするかわからないのだ
土神はひとりでせつながってバタバタしました
そらをまたいっぴきのタカがかけていきましたが
土神はこんどはなんともいわず
だまってそれをみました
ずっとずっととおくで
きへいのえんしゅうらしいパチパチパチパチ
しおのはぜるようなてっぽうのおとがきこえました
そらからあおびかりがどくどくとのはらにながれてきました
それをのんだためか
さっきくさのなかになげだされたきこりはやっときがついて
おぞおぞとおきあがり
しきりにあたりをみまわしました
それからにわかにたって
いちもくさんににげだしました
みつもりやまのほうへ
まるでいちもくさんににげました
土神はそれをみてまたおおきなこえでわらいました
そのこえはまたあおぞらのほうまでいき
とちゅうからばさりとかばのきのほうへおちました
かばのきはまたはっとはのいろをかえ
みえないくらいこまかくふるいました
土神はじぶんのほこらのまわりをうろうろうろうろ
なんべんもあるきまわってから
やっときがしずまったとみえて
すっとかたちをけしとけるように
ほこらのなかへはいっていきました
土神が抱える恋心と劣等感
4
8がつのあるきりのふかいばんでした
土神はなんともいえずさびしくて
それにむしゃくしゃしてしかたがないので
ふらっとじぶんのほこらをでました
あしはいつのまにか
あのかばのきのほうへむかっていたのです
ほんとうに土神はかばのきのことをかんがえると
なぜかむねがどきっとするのでした
そしてたいへんにせつなかったのです
もろはたいへんにこころもちがかわって
よくなっていたのです
ですからなるべくきつねのことなど
かばのきのことなどかんがえたくないと思ったのでしたが
どうしてもそれがおもえてしかたありませんでした
おれはいやしくもかみじゃないか
いっぽんのかばのきがおれになんのあたえがあると
まいにちまいにち土神はくりかえして
じぶんでじぶんにおしえました
それでもどうしてもかなしくてしかたなかったのです
ことにちょっとでもあのきつねのことをおもいだしたら
まるでからだがやけるぐらいつらかったのです
土神はいろいろふかくかんがえこみながら
だんだんかばのきのちかくにまいりました
そのうちとうとうはっきりじぶんがかばのきのところへ
いこうとしているのだということにきがつきました
するといわかにこころもちがおどるようになりました
ずいぶんしばらくいかなかったのだから
ことによったらかばのきはじぶんをまっているのかもしれない
どうもそうらしい
そうだとすればたいへんにきのどくだ
というようなかんがえがつよく土神におこってきました
土神はくさをどしどしふみ
むでをおとらせながらおおまたにあるいていきました
ところがそのつよいあしなみもいつかよろよろしてしまい
土神はまるであたまからあおいろのかなしみをあびて
つったたなければなりませんでした
狐の見栄と土神の焦燥
それはきつねがきていたのです
もうすっかりよるでしたが
ぼんやりつきのあかりによどんだきりのむこうから
きつねのこえがきこえてくるのでした
ええもちろんそうなんです
きかいてきにしんめとりのほうそくにばかりかなっているからって
それでうつくしいというわけにはいかないんです
それはしんだびです
まったくそうですわ
しずかなかばのきのこえがしました
ほんとうのびはそんなこていしたかせきしたような
もけいのようなもんじゃないんです
たいしょうのほうそくにかなうっていったって
じつはたいしょうのせいしんをもっているということぐらいのほうがのぞましいのです
ほんとうにそうだと思いますわ
かばのきのやさしいこえがまたしました
土神は
こんどはまるでべらべらしたももいるのひで
からだじゅうもされているようにおもいました
いきがせかせかしてほんとうにたまらなくなりました
なにがそんなにおまえをせつなくするのか
たかがかばのきときつねとの
のはらのなかでのみじかいかいわではないか
そんなものにこころをみだされて
それでもおまえはかみといえるか
土神はじぶんでじぶんをせめました
きつねがまたいいました
ですからどのびがくのほんにも
これくらいのことはろんじてあるんです
びがくのほうのほんたくさんおもちですの
かばのきはたずねました
ええよけんもありませんが
まあにほんごとえいごと
どいつごのならたいていありますね
イタリーのはたらしいんですがまだこないんです
あなたのおしょさい
まあどんなにりっぱでしょうね
いいえまるでちらわってますよ
それにけんきゅうしつけんようですからね
あっちのすみにはけんびきょう
こっちにはロンドンタイムス
だいりせきのシーザーがころがったり
まるっきりごったごたです
まありっぱだわねほんとうにりっぱだわ
ふんときつねのけんそんのような
じまんのようないきのおとがして
しばらくしんとなりました
土神はもういてもたってもいられませんでした
きつねのゆっているのをきくと
まったくきつねのほうがじぶんよりはえらいのでした
いやしくも神ではないかと
いままでじぶんでじぶんにおしえていたのが
こんどはできなくなったのです
ああつらいつらい
もうとびだしていってきつねをひとさきにさいてやろうか
けれどもそんなことはゆめにも
おれのかんがえるべきことじゃない
けれどもそのおれというものはなんだ
結局きつねにもおとったもんじゃないか
いったいおれはどうすればいいんだ
土神は
むねをかきむせるようにしてもだえました
いつかのぼうえんきょう
まだこないんですのかばのきがまたいいました
ええいつかのぼうえんきょうですか
まだこないんです
なかなかこないです
おうしゅうこうろはだいぶこんざつしていますからね
きたらすぐもってきておめにかけますよ
どせいのはなんかそりゃうつくしいんですからね
土神はにわかにりょうてでみみをおさえて
いちもくさんにきたのほうへはしりました
だまっていたら
じぶんがなにをするかわからないのがおそろしくなったのです
まるでいちもくさんにはしっていきました
いきがつづかなくなってぱったりたおれたところは
みつもりやまのふもとでした
土神は
はたまのけをかきむしりながらくさをころげまわりました
それからおおごえでなきました
そのこえは
ときでもないかみなりのように
そらへいってのはらじゅうへきこえたのです
土神はないてないてつかれて
あけがたぼんやりじぶんのほこらにもどりました
秋の和解の兆しと再燃する嫉妬
そのうちとうとうあきになりました
かばのきはまだまっさおでしたが
そのあたりのいのころぐさはもうすっかりきんいろのほうをだして
かぜにひかり
ところどころすずらんのみもあかくじゅくしました
あるすきとおるようにきんいろのあきのひ
土神はたいへんじょうきげんでした
ことしのなつからのいろいろなつらいおもいが
なんだかぼうっとみんなりっぱなもやのようなものにかわって
あたまのうえにわになってかかったようにおもいました
そして
もうあのふしぎにいじのわるいせいしつも
どこかへいってしまって
かばのきなどもきつねとはなしないならはなすがいい
りょうほうともうれしくてはなすのなら
ほんとうにいいことなんだ
きょうはそのことをかばのきにゆってやろう
っておもいながら
土神はこころもかるくかばのきのほうへあるいていきました
かばのきは
とおくからそれをみていました
そしてやっぱりしんぱいそうに
ぶるぶるふるえてまちました
土神はすすんでいってきかるにあいさつしました
かばのきさんおはよう
じつにいいてんきだな
おはようございます
いいおてんきでございます
てんとうというものはありがたいもんだ
はるはあかくなつはしろく
あきはきいろく
あきがきいろになるとうどうはむらさきになる
じつにありがたいもんだ
まったくでございます
わしはなきょうはたいへんにきぶんがいいんだ
ことしのなつからじつにいろいろつらいめにあったんだが
やっとけさから
にわかにこころもちがかるくなった
かばのきはへんじしようとしましたが
なぜかそれがひじょうにおもくるしいことのようにおもわれて
へんじしかねました
わしはいまならだれのためにでもいのちをやる
みみずがしななきゃならんなら
それにもわしはかわってやっていいんだ
つちがみはとおくのあおいそらをみていいました
そのめもくろくりっぱでした
かばのきはまたなんとかへんじしようとしましたが
やっぱりなにかたいへんおもくるしくて
わずかといきをつくばかりでした
そのときです
きつねがやってきたのです
きつねはつちがみのいるのをみると
はっとかおいろをかえました
けれどももどるわけにもいかず
すこしふるえながら
かばのきのまえにすすんできました
かばのきさんおはよう
そちらにおられるのはつちがみですね
きつねはあかがわのくつをはき
ちゃいろのれえんこうとをきて
まだなつぼうしをかぶりながらこういいました
わしはつちがみだ
いいてんきだ
なつちがみはほんとうにあかるいこころもちでこういいました
きつねはねたましさにかおをあおくしながら
かばのきにいいました
おきゃくさまのおいでのところにあがって
しつれいたしました
これはこのあいだおやくそくしたほんです
それからぼうえんきょうはいつかはれたばんに
おめにかけます
さよなら
まあありがとうございます
とかばのきがいっているうちに
きつねはもうつちがみにあいさつもしないで
さっさともどりはじめました
かばのきはさっとあおくなって
またちいさくぷるぷるふるいました
つちがみはしばらくのあいだ
ただぼんやりときつねをみよくってたっていましたが
ふときつねのあかがわのくつの
きらっとくさにひかるのにびっくりして
われにかえったと思いましたら
にわかにあたまがぐらっとしました
きつねがいかにもいじをはったように
かたをいからせてぐんぐんむこうへあるいているのです
つちがみはむらむらっとおこりました
かおもものすごくまっくろにかわったのです
びがくのほんだの
ぼうえんきょうだのと
ちくしょう
さあどうするかみろ
狐の死と土神の涙
といきなりきつねのあとをおいかけました
かばのきはあわててえだがいっぺんにがたがたふるえ
きつねもそのけはいにどうしたのかと思って
なにげなくうしろをみましたら
つちがみがまるでくろくなって
あらしのようにおってくるのでした
さあきつねはさっとかおいろをかえ
くちもまがりかぜのようにはしってにげだしました
つちがみはまるでそこらじゅうのくさが
まっしろなひになってもえているようにおもいました
あおくひかっていたそらさえ
にわかにがらんとまっくろなあなになって
そのそこではあかいほのうがどうどうおとをたてて
もえると思ったのです
ふたりはごうごうなってきしゃのようにはしりました
もうおしまいだおしまいだ
ぼうえんきょうぼうえんきょうぼうえんきょう
ときつねはいっしんにあたまのすみのところで
かんがえながらゆめのようにはしっていました
むこうにちいさなあかはげのおかがありました
きつねはそのしたのまるいあなにはいろうとして
くるっとひとつまわりました
それからくびをひくくしていきなりなかへとびこもうとして
うしろあしをちらっとあげたとき
もうつちがみはうしろからばっととびかかっていました
と思うときつねはもう
つちがみにからだをねじられて
くちをとがらしてすこしわらったようになったまま
ぐんにゃりとつちがみのてのうえにくびをたれていたのです
つちがみはいきなりきつねをちべたになげつけて
ぐちゃぐちゃしごへんふみつけました
それからいきなりきつねのあなのなかにとみこんでいきました
なかはがらんとしてくらく
ただあかつちがきれいにかためられているばかりでした
つちがみはおおきくくちをまげてあけながら
すこしへんだきがしてそとへでてきました
それからぐったりよこになっているきつねのしがいの
レーンコートのかくしのなかにてをいれてみました
そのかくしのなかには
ちゃいろなかもがやのほがにほんはいっていました
つちがみはさっきからあいていたくちをそのまま
まるでとほうもないこえでなきだしました
そのなみだはあめのようにきつねにふり
きつねはにおいよくびをぐんにゃりとして
うすらわらったようになってしんでいたのです
41:37

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