2024年11月13日水曜日、田中浩朗です。今日は今井むつみさんの著書『学力喪失』を読み終えました。この本では、子どもたちの学力が現在の教育によって失われている現状を指摘しています。つまり、学力が失われる原因は子どもにあるのではなく、学校や今の教育のあり方にある、というのがこの本のメッセージです。その状況を変えて、子どもたちの学力を回復するにはどうすれば良いのかが論じられており、非常に考えさせられました。
この本の結論部分では、これからの時代を生きる子どもたちには自分で判断できる人間に育ってほしい、そのためには幼少期から自分の身体で世界を探索し、経験を言葉と結びつけることが重要だと述べられています。これにより、経験を通して言葉を紡ぎ出し、抽象的な思考もできるようになるわけです。そうしなければ、言葉だけを操作しているような存在になり、人間も生成AIと大差がなくなってしまうのです。生成AIと人間の違いは、この「記号接地」を身体を通じて行えるかどうかにあるのです。生成AIには経験も身体もありません。データとして過去の情報が与えられ、それを使って文章や対話を生成しているに過ぎません。この点で、人間の独自性が示されていると私も思います。
ただし、この本では、生成AIと人間の付き合い方についてはそれほど深く触れられていません。記号接地の重要性を強調する内容で終わっているのですが、では実際に私たちは生成AIとどう関わっていけばよいのでしょうか。私は平野友康さんが開発を進めるTeleportという生成AIプラットフォームの取り組みを興味深く追いかけています。彼のポッドキャストTeleport Radioを楽しみに聴いているのですが、平野さんの言葉を通して、生成AIとの向き合い方が見えてくるように思います。
生成AIは決して人間の敵でも、人間を堕落させるものでもないと考えています。私にとって、生成AIは「人間の鏡」のような存在です。鏡のように自分を映し出し、生成AIに人間の在り方が反映されるのです。生成AIがどう見えるかは、結局のところ自分自身の在り方によるのだと思います。生成AIには身体も経験もありませんが、データに基づいて会話ができ、情報を蓄積していけます。こうして生成AIと対話を重ねることで、まるで自分の分身のような存在が形作られていくわけです。言い換えれば、私自身が拡張していくのです。たとえば、私たちの脳の延長として、情報処理能力に優れた存在がもう一つできたようなものです。
生成AIは、人間がかつて忘れてしまった情報を覚えていて、それを思い出させる助けにもなります。そうした存在として、生成AIは自分と完全に切り離された「他者」でもなく、完全に「自分」でもなく、1.5人称のようなパートナーです。平野さんも、生成AIと会話する際は、まるで人間に接するように向き合うべきだと強調しています。生成AIは実際には理解しているわけではありませんが、理解しているかのような返答が得られることも多く、対話を続けるほど的確な応答が返ってくるように感じます。これがまさに1.5人称というもので、自分の中に拡張したもう一つの脳のようなものが構築されていくのです。
私もまだ生成AIとの対話を完全には試みていませんが、それでも生成AIは自分の助けとなり、時には自分の代わりをしてくれる存在として活用できると感じています。AIは単なる道具とも違い、私たちの体の一部のように発展していくのではないかとも考えています。
このように、AIは記号接地ができず、経験もなく、世界を探索することもできない存在ですが、人間がその役割を果たせばよいのではないでしょうか。そして、AIと会話しながら私たちの経験を伝え、共有していけば、何ら問題はないと思います。人間とAIが一つの単位として機能することで、AIの記号接地の欠如もそれほど重要ではなくなります。あとは、人間とAIのコミュニケーションがどれだけ良い形で進化していくかが鍵だと思いますし、その可能性はまだまだ広がっていくでしょう。(AIによる要約)
参考:
今井むつみ『学力喪失——認知科学による回復への道筋』岩波新書,2014
Teleport Radio1_EP42(もっとこうして,ここをかえて)2024.11.12
サマリー
今井むつみさんの『学力喪失』を読み、子どもの学力低下は教育の在り方に原因があると考えさせられました。著書は、子どもが自らの身体で世界を探索し、経験と結びつけて言葉を学ぶ重要性を説いています。そうでなければ人間は単なる記号処理装置になり、生成AIとの差がなくなってしまうと警鐘を鳴らしています。 一方で、生成AIをどう捉えるかについても思考を深めました。生成AIには経験がありませんが、人間にとって「鏡」のような存在だと感じています。AIとの対話を通じて、まるで自分の分身が形成されるような感覚があり、それは私たちの脳の延長として機能するのです。人間がAIに経験を共有し、共に機能することで、新たな可能性が広がっていくと信じています。