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いちです。おはようございます。
今回のエピソードの音は、未解読文字についてお届けをします。
このポッドキャストは、僕が毎週お送りしているニュースレター、
STEAMニュースの音声版です。
STEAMニュースでは、
科学、技術、工学、アート、数学に関する話題をお届けしています。
STEAMニュースは、スティームボートの取り組みのご協力でお送りしています。
改めまして、いちです。
このエピソードは、2024年5月16日に収録しています。
このエピソードでは、
STEAMニュース第180号から未解読文字についてお届けをします。
今からおよそ120年前、1900年に見つかった未解読文字、
1000文字Bを中心に未来へメッセージを残す方法も一緒に考えてみたいと思います。
僕たちは毎日文字を使っています。
よくよく考えてみると、これは結構な奇跡で、
ホモサピエンスおよそ30万年の歴史の中で、
文字の歴史はおよそ5000年から6000年、つまり2%しかありません。
文明の歴史を12000年と見積もっても、文字の歴史はその半分しかありません。
こう考えると、文字は比較的新しい発明とも言えるのではないでしょうか。
なお、文字とは何かについて大変に長い議論になってしまうので、
このエピソードでは簡単にまとめておきます。
文字とは、言語を視覚的に表現し保存・伝達するための記号・シンボルと符号・コードというふうにします。
記号またはシンボルとは、音や意味を抽象的に表す図柄で、
符号・コードとは情報伝達のための規則ということになります。
さて、文明の半分しか歴史がない文字ですが、すでに多くの未解読文字があります。
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外国語や古文のようにわかる人が見れば読めるというものではなく、現代人の誰もが読めないものなんです。
なので正確に言うと文字かどうかも疑う必要があります。
それでも未解読文字と呼ぶのは、その図柄がやはり文字として使われたであろうと、
つまり言葉や音声を書き表すために使われたであろうと強く信じられているからです。
未解読文字にはインダス文字やエトルリア文字、それにロンゴロンゴなどがあります。
少し変わったところでは模様なのか文字なのかはっきりしないボイニッチ主公、
あるいは文字としてはアルファベットなのに意味がわからない、
これは彫刻なんですが、クリプトスという作品も未解読文字に含める場合があります。
そしてですね、最近になってやっと解読された文字もあります。
その代表例がこのエピソードでご紹介する千文字B、あるいはリニアBというかつての未解読文字です。
千文字Bは紀元前1450年から紀元前1200年ごろに
ミケーネ文明で使用されていた文字体系です。
ミケーネ文明というのはみんなが思い浮かべる古代ギリシャよりも前の時代の文明です。
これミケーネ文明を現代ではこの古代ギリシャに含めることが多いので、
あえてみんなが思い浮かべる古代ギリシャというふうな言い回しにさせていただいたのですが、
みんなが思い浮かべる古代ギリシャといえば、やはりですね、ヘレニズム前世紀であるとか、
その少し前の時代にあたる古典ギリシャの時代になろうかと思うのですが、
それよりもさらに古い時代のミケーネ文明、ギリシャ文明の下地ということにもなるのではないかと思います。
ヨーロッパ人やヨーロッパ系アメリカ人は自分たちのルーツを古代ギリシャに求めるものなのですが、
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そのルーツのルーツというわけですね。
そのわけで考古学的な関心も非常に高い時代、高い時期になります。
これを無理に日本に例えてみると、日本人のルーツが大和の国、現代のアスカだと思っていたら、
そのもっと昔に和の国があったという感じでしょうかね。
和国、こちらが現代の奈良にあったのか、九州北部にあったのかというのはわからないのですが、
ともかく大和の時代よりも前の時代があったという感覚なんじゃないでしょうか。
もちろんそうなると考古学的関心、地域的関心というのはさらに膨らんでいくわけですね。
そんなミケーネ文明で使われていた文字が現代に残っているのはある奇跡が理由なんです。
古代都市ミケーネとは、営業界を挟んでタイガにあるクレタ島のクノソス宮殿に勤める、
これはおそらく役人だと思うのですが、
この役人が年度盤に人名や職業、物品目録などを書き込んでいたんです。
年度盤ですから時代とともに文字は薄れていってしまったり、
年度盤そのものが崩れていったりしてしまうのですが、
どうやら大きな火災があったようで、年度盤がこんがりと焼かれました。
当時の人々にとっては迷惑だったことだと思うのですが、
おかげで年度盤はその後の3500年を生き延びたんです。
実はこのクノソス宮殿からは、
正確文字、千文字A、千文字Bの3種類の文字が見つかっています。
これらのうち、これまた口音が重なって千文字Bだけが解読されました。
1952年、イギリスの建築家でアマチュア言語学者のマイケル・ベントリスが千文字Bを解読しました。
彼は考古学者ではなく未解読文字の専門家でもなかったのですが、
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それゆえに画期的な方法でこの未解読文字の解読に取り組めたのです。
第一に、マイケル・ベントリスは語学ができました。
彼は英語のほかにフランス語、ドイツ語、ポーランド語、ギリシャ語などを流暢に話せました。
そして第二に、彼は自分の発見を独り占めにする必要がありませんでした。
1936年10月、マイケル・ベントリスが14歳の時、美術展覧会でイギリスの考古学者アーサー・エヴァンズと出会います。
彼こそがクノストス宮殿で3種類の未解読文字を見つけた人物でした。
若きマイケルは当時85歳になっていたアーサー・エヴァンズに、
この年度版はまだ解読されていないとおっしゃるのですね、というふうに聞いたそうです。
アーサー・エヴァンズは1000文字Bの解読に心血を注いでおり、数字に関しては解読していたのですが、
他の文字に関しては行き詰まっていました。
アーサー・エヴァンズが袋工事にはまった理由は、結果論から言えば間違った過程から出発したからです。
彼は1000文字Bを小型文字の一種だと考えましたが、
実際には日本語の漢字と万葉仮名の混ぜ書きに近いものでした。
また、ミケーネ文明は古典ギリシャよりも古いため、
ギリシャ語とは関係のない言語だとも仮定をしていました。
しかし彼が袋工事にはまった最大の理由は、
自らが第一人者となるべく、
およそ3000枚発見した粘土版のうちおよそ200枚しか公開しなかったことだと僕は睨んでいます。
一方のマイケル・エヴァンズはアマチュアだったので、
驚きの方法で1000文字Bの解読に取り組みました。
ヨーロッパとアメリカの専門家たちに手紙で聞いたんです。
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また彼は自分が聞いたことは全て連絡するとも約束しました。
ここで彼の語学の才能が大いに役立ったようです。
これは1949年末のことでした。
この頃になると、すでに亡くなっていたアーサー・エヴァンズの遺言執行人でもあった考古学者ジョン・マイヤーズによる1000文字B資料の出版、
そして古典学者アリス・コーバーによる1000文字Bの語形変化の発見などが進んでいました。
実際マイケル・ベントリスもこの出版に協力していました。
マイケル・ベントリスは専門家たちへのインタビューを公開しただけでなく、
自身の解読の試みもリアルタイムに公開していました。
当時はこういったポッドキャストであるとかブログニュースレターがなかった時代ですから、
もちろんSNSもなかった時代ですから、
マイケル・ベントリスは自身の報告書を研究者たちに定期的に郵便で送っていたのです。
ここでもう一つマイケル・ベントリスにとって幸福なことがありました。
1952年にリリシャ本土のピュロスという町で、
考古学者カール・ブレーゲンが新たに1000文字Bを刻んだ年度版を発見したのです。
彼はクレタ島の年度版に書かれているが、
ピュロスの年度版には書かれていない単語を探しました。
それはきっとクレタ島に固有の何か、
おそらく地名を表していくと直感したのです。
そしてついに彼はクノッソスという地名を年度版の中に発見します。
いや、この時は発音まではわからなかったのですが、
おそらくクノッソスを意味する単語を発見したのです。
そしてマイケル・ベントリスはクノッソスを意味する単語が、
もしクノッソスと発音されたならという仮定の下、
もう一度年度版を見ていきました。
驚いたことに、年度版のあちこちがギリシャ語で読めたのです。
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ここでも彼の語学力がいきました。
1953年にはさらに多くの年度版から、
1000文字Bが古いギリシャ語であることを示す十分な証拠が得られました。
1000文字Bはついに解読されたのです。
3年後の1956年、マイケル・ベントリスは交通事故で亡くなりました。
34歳でした。
ただ、彼の死は未だに謎に包まれており、
1000文字Bへの興味を失ったことも、
彼が死を急いだ一因とも言われています。
2003年、コンピューター用の文字コードであるユニコードの
用字及び記号のための追加多言語面という機能の第一号として、
1000文字Bが収録されました。
つまり、皆さんのお使いのパソコンやスマホで、
1000文字Bを表示することができるようになったのです。
文字としてですよ。
画像ではなく、文字として1000文字Bが使えるようになったのです。
ところで、映画10万年後の安全というのをご記憶でしょうか。
これは少し古いドキュメンタリー映画なのですが、
この映画の中では、10万年の保管を要する放射性廃棄物の処理をテーマにしています。
この作品の中で、10万年後の人類に、
どのようにしてメッセージを伝えたらよいのかという問いかけがなされています。
考古学者たちの情熱と幸運が積み重なって、
解読できた1000文字Bが使われたのは、およそ3200年前まででした。
もう少し古い、おそらく3500年前まで使われていた文字である、
1000文字Aはまだ解読されていません。
10万年後にメッセージを残すことがどれだけ困難なことか、
考古学者たちの取り組みが教えてくれています。
そしてまた、どのようなヒントを未来に残せばよいのかも、
未解読文字の解読を通して知ることができます。
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10万年後にメッセージを伝えるのは、
考古学者と計算機科学者とデザイナー、
そして言葉を使う僕たち全員、
リスナーの皆さん全員の共同作業になると僕は信じています。
というわけで、このエピソードでは未解読文字、
その中でも特に解読された1000文字Bという、
現代では使われていないのですが、
解読された文字についてもお届けをしていきました。
この未解読文字の研究、現在でも盛んに進められています。
この1900年代20世紀の未解読文字研究と、
現代21世紀の未解読文字研究の大きな違いというのは、
コンピューター、そしてAI技術の発達というものもありますし、
この暗号学の研究者たちが、
未解読文字の研究も手がけるようになってきたということも、
あるんじゃないかなと思います。
実際に高校学系の学会なんかに参加しましても、
未解読文字の研究発表があったりして、
発表者のお話を伺うと、
専門が暗号学ですよとか、
専門が情報セキュリティですよという方もいらっしゃったりして、
これは非常に学際的な研究分野の一つになっています。
またメインパートで、
この1,000文字Bというのが2003年にユニコードに収録された、
パソコン、スマホで使われている文字体系に取り込まれたというお話をさせていただきましたが、
この2003年の時点ではすでに1,000文字Bは解読されていたので、
これを文字体系に含めるというのはありだと思うんですが、
その後、1,000文字Aの方、つまり解読されていない文字の方、
本当の未解読文字もユニコードに収録されました。
つまり現在のパソコン、スマホには読めない文字、
人類が読むことのできない文字も一応文字体系として収録されているんです。
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いつかは読めるようになるだろうという期待があって収録されていたりとか、
あるいはもう永久に読めなかったとしても、かつて人類が使った文字なんだからということで収録されたのか、
そこら辺の議論はどっちか、僕もはっきり分からないんですが、ともかく収録されています。
未解読文字というと、他にボイニッチシュコーというものも大変有名です。
これは15世紀頃に作られた本ではないかと言われているんですが、
絵本のような感じなんですね。絵と文字が書かれているんですが、
絵も若干奇妙なんですが、文字が全く読めないという非常に不思議な本なんですね。
これ、何年かに一度解読に成功したというニュースが流れてきては、やっぱり読めてませんでしたみたいなニュースが流れてくるという、
人々の興味を引きつけてやまない未解読文字であったりとか、
これを未解読文字と呼ぶのかどうかは分からないんですが、
一応、ウィキペディアなんかでは未解読文字の項目に入れられている、
これアメリカの彫刻で、クリプトスという彫刻があるんですね。
これ1990年に作られた彫刻で、アルファベット、アメリカのアルファベットが、
アメリカのってなんか頭悪いですね。
英語のアルファベットが刻まれているんですが、
アルファベット自体は文字としては認識できるんですけれども、何が書いてあるかが分からない。
4つのパートに分かれていて、3つ目までは解読されているんですが、4つ目が分からないというね、
これも割と新しい彫刻なんだけれども、読み方が分からないというね、
未解読文字としても分類されている彫刻があります。
ニュースレター、スティーブニュースの本でより詳しくご紹介していますので、
ご興味があれば、ウェブでお読みいただければと思います。
というわけでお付き合いいただき、ありがとうございました。
イチでした。
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ご視聴ありがとうございました。