1. 志賀十五の壺【10分言語学】
  2. #94 太宰治『走れメロス』朗読..
2020-05-23 06:13

#94 太宰治『走れメロス』朗読 4/4 from Radiotalk

#落ち着きある #朗読 #小説

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道行く人を押しのけ跳ね飛ばし、メロスは黒い風のように走った。野晴れで宿縁のその縁石のまったた中を駆き抜け、宿縁の人たちを行転させ犬を蹴飛ばし大川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の十倍も早く走った。
一乱の旅人とさっとすれ違った瞬間、不吉な会話を小耳に挟んだ。
今頃はあの男も張り付けにかかっているよ。
ああ、その男、その男のために私は今こんなに走っているのだ。
その男を知らせてはならない。
急げメロス、遅れてはならぬ。
愛と誠の力を今こそ知らせてやるがよい。
風胎なんかはどうでもいい。
メロスは今はほとんど全裸体であった。
呼吸もできず、二度三度口から血が吹き出た。
見える、はるか向こうに小さく、シラクスの死の灯籠が見える。
灯籠は夕日を受けてきらきら光っている。
ああ、メロス様。
うめくような声が風とともに聞こえた。
誰だ?
メロスは走りながら尋ねた。
フィロストラトスでございます。
あなたのお友達、セルヌンティウス様の弟子でございます。
その若い石膏もメロスの後について走りながら叫んだ。
もうだめでございます。
無駄でございます。
走るのはやめてください。
もうあの方をお助けになることはできません。
いや、まだ日は沈まぬ。
ちょうど今、あの方が死刑になるところです。
ああ、あなたは遅かった。
お恨み申します。
ほんの少し、もうちょっとでも早かったなら。
いや、まだ日は沈まぬ。
メロスは胸を張り裂ける思いで、赤く大きい夕日ばかりを見つめていた。
走るより他はない。
やめてください、走るのは。
やめてください。
今はご自分のお命が大事です。
あの方はあなたを信じておりました。
刑場に引き出されても平気でいました。
王様がさんざんあの方をからかっても、メロスは来ますとだけ答え、強い信念を持ち続けている様子でございました。
それだから走るのだ。
信じられているから走るのだ。
間に合う。
間に合わぬは問題ではないのだ。
人の命も問題ではないのだ。
私は何だかもっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ。
ついて来い、フィロストラトス。
ああ、あなたは気が狂ったか。
それではうんと走るがいい。
ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。
走るがいい。
ユニアを呼ぶ。
まだ日は沈まぬ。
最後の視力を尽くしてメロスは走った。
メロスの頭は空っぽだ。
何一つ考えていない。
ただ訳のわからぬ大きな力に引きずられて走った。
日はゆらゆら地平線に没しし、まさに最後の一片の残光も消えようとした時、メロスは疾風の如く慶城に突入した。
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間に合った。
待て、その人を殺してはならぬ。
メロスが帰って来た。
約束の通り、今、帰って来た。
遠大声で、慶城の群衆に向って叫んだつもりであったが、喉がつぶれてしわがれた声がかすかに出たばかり。
群衆は一人として彼の到着に気がつかない。
すでに張り付けの柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは徐々に吊り上げられて行く。
メロスはそれを目撃して最後の言う。
戦国、濁流を泳いだように群衆を掻き分け、掻き分け。
私だ、ケーリー。殺されるのは私だ、メロスだ。
彼を人質にした私はここにいる。
と、かすれた声で精一杯に叫びながら、ついに張り付け台に登り、吊り上げられて行く友の両足にかじりついた。
群衆はどよめいた。
あっぱれ、ゆるせ。
と、くちぐちにわめいた。
セリヌンティウスの縄はほどかれたのである。
セリヌンティウス。
メロスは目に涙を浮かべて行った。
私を殴れ、力いっぱいに砲を殴れ。
私は途中で一度、悪い夢を見た。
君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と包容する資格さえないのだ。
殴れ。
セリヌンティウスはすべてを察した様子でうなずき、ゲージをいっぱいに鳴り響くほど音高く、メロスの右砲を殴った。
殴ってから優しくほえみ。
メロス。
私を殴れ。
同じくらい音高く私の砲を殴れ。
私は三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。
生まれて初めて君を疑った。
君が私を殴ってくれなければ、私は君と包容できない。
メロスは腕にうなりをつけて、セリヌンティウスの砲を殴った。
ありがとう、友よ。
二人同時に必死と抱き合い、それからうれし泣きにおいおい声を放って泣いた。
群衆の中からも虚奇の声が聞えた。
暴君ディオニスは群衆の背後から二人の様をまじいまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめてこう云った。
お前らの望みはかなったぞ。
お前らは私の心に勝ったのだ。
真実とは決して空虚な妄想ではなかった。
どうか私をも仲間に入れてくれまいか。
どうか私の願いを聞き入れて、お前らの仲間の一人にして欲しい。
どっと群衆の間に歓声が起こった。
万歳、王様万歳。
一人の少年は火のマントをメロスに捧げた。
メロスはまごついた。
良き友は気を聞かせて教えてやった。
メロス、君は真っ裸じゃないか。
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早くそのマントを着ぬがいい。
この可愛い娘さんはメロスの裸体を皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。
勇者は酷く赦免した。
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