1. 志賀十五の壺【10分言語学】
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2020-11-08 05:27

#207 森鷗外『舞姫』朗読 5/9 from Radiotalk

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#落ち着きある #朗読
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ああ、詳しくここに移さんもようなけれど。
与が彼をめずる心のにわかに強くなりて、ついに離れがたきなかとなりしは、この折りなりき。
我が一心の大事は前に横たわりて、まことに気急存亡の時なるに、この行えありしを怪しみ、また、阻しる人もあるべけれど。
与がエルスを愛する情は初めて相見し時より浅くはあらぬに、今我が作気を憐み、また別離を悲しみて不死沈みたる表に、瓶のけの溶けてかかりたる、その美しき意地らしき姿は、
与が悲痛感慨の刺激によりて、常ならずなりたる脳髄をいて、黄骨の間に此処に及びしを如何にせん。
孔子に訳せし日も近づき、我が命は迫りぬ。
このままにて京に帰れば、額ならずして御命を負いたる身の浮かぶせあらじ。
さればとて留まらんには、額死を得べき手立なし。
この時与を助けしは、今我が同行の一人なる藍沢賢吉なり。
彼は東京に在りて、すでに天形白の秘書官たりしが、
与が面官の官報に居れしを見て、某新聞司の編集長にときて、
容舎の通信員となし、ベルリンにそどまりて、政治学芸の事などを報道せしむる事となしつ。
謝の報酬は有に足らぬほどなれど、住処を持つし、昼下に行く食べ物店をも買えたらんには、かすかなる暮らしは立つべし。
渡航を思案するほどに心の精鋭をあらわして、助けの綱を我に投げかけしはエリスなりき。
彼はいかに母を解き動かしけん、与は彼ら親子の家に寄宮する事となり、
エリスと与とはいずよりとはなしに、あるかなきかの収入をあわせて、浮雅中にも楽しき月日を送りぬ。
朝のカフェへはつれば、彼は御宿に行き、さらぬ日には家にとどまりて、
与は器用に被害の間口狭く、奥行のみ糸長き休息所に赴き、あらゆる新聞を読み、
鉛筆取り入れて、かれこれと材料を集む。
この切り開きたる引き窓より光をとれる室にて、定まりたる技なき和行土。
多くもあらぬ金を人に押して、己は遊び暮らす老人。
取引所の行の隙を盗みて、足を休むる秋雨戸などと肘を並べ、
礼なる石机の上にて、急がわしげに筆を走らせ、
子女が持て来る一月のコーヒーの寒露をもかえりみず、
飽きたる新聞の細長き糸切れにはさみたるを、
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幾色となく掛けつらねたる片栄の壁に、
幾度となく行き来する日本人を、知らぬ人は何とか未見。
また一時近くなるほどに、恩賞に行きたる日には帰り時によぎりて、
与と共に店を立ち居ずること常ならず軽き。
症状の迷いをもなし得つべき症状、
怪しみ見送る人もありしなるべし。
我が学問はすさみぬ屋根裏の一頭火に燃えて、
エレスが劇場寄り帰りて、椅子に寄りて縫い物などする傍の机にて、
与は新聞の原稿を掛けり、
昔の法令条目の枯葉を史上に書き寄せしとはことにて、
与は活発発たる政界の運動、文学美術に関わる新現象の批評など、
かれこれと結び合わせて、力の及ばん限り、
ビオルネよりむしろハイネを学びて思いを構え、
様々の踏みを作りしうちにも、
引き続きてウィルヘルム1世とフレデリック3世との訪問ありて、
新帝の即位、ビスマルク公の身体遺憾などのことにつきては、
ことさらつまびらかなる報告をなしき、
さればこのころよりは思いしよりも忙しくして、
多くもあらぬ蔵書をひもとき、
休業をたずぬることもかたく、
大学の席はまだけずられねど、
借金をおさむることのかたければ、
ただ一つにしたる講演だに行きてきくことは稀なりき、
我が学問はすさみぬ、
されど与は別に一種の見識を長じき、
そういかにというに、
およそ民間学のうるふしたることは、
欧州諸国の間にて、
どいつにしくはなからむ。
幾百種の新聞雑誌に散見する議論には、
すこぶる交渉なるもの多きを、
与は通信員となりしひより、
かつて大学に茂く通いしより、
やしない得たる一石の眼光をもて、
読みてはまた読み、
移してはまた移すほどに、
今まで一筋の道をのみ走りし知識は、
おのずから総括的になりて、
同郷の留学生などの多かたは、
夢にも知らぬ境地に至りぬ。
かれらの仲間には、
どいつ新聞の写説をだに、
よくはえ読まぬがあるに。
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