1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #009 封書を受け取った人
2024-01-27 07:25

#009 封書を受け取った人

生き方の流派が独特な人の話。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

【小島ちひり】
劇作家・脚本家。朝ドラと猫をこよなく愛する。
https://twitter.com/child_skylark

#ラジオドラマ #朗読 #モノエフ朗読 #物語
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サマリー

真っ白な封筒の宛名は彼でした。彼の家族は驚きもせず、封筒を開けるように彼に促しました。

離婚協議申し入れ書
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
何だこれ?
テーブルに置いてあった真っ白な封筒の宛名は俺だった。
リビングで洗濯物をたたんでいた家内は、何でもないように。
開けてみたら?と言った。
まあ、それもそうかと思い、家内に。
ハサミ!と言うと、家内は顔だけ俺に向けて、冷たい声で、
私はハサミではありません。と言った。
昔は俺の言うことは何でもはいはいと言い、働き者だった家内は、
最近こんな調子だ。
定年退職したら、二人で旅行に行ったり楽しく暮らそうと思っていたのに、
家内は俺が近づくものなら離れていき、汚いものを見るような目で俺を見る。
まったく、女のくせに可愛げがない。
俺は仕方なく封筒の端をビリビリと破り、中の紙を取り出した。
離婚協議申し入れ書
被・通知人 丑山恭平殿
通知人 丑山信子
離婚の相談
鑑賞
早速ですが、以下の通りご通知させていただきます。
突然の書面による申し入れとなりましたこと、どうぞご容赦ください。
私は紀伝と昭和59年3月15日に結婚し、
私たちの間には、広紀37歳と春紀35歳の二人の子供に恵まれました。
私は我が家に無子養子に入り、家業を継いでくれた紀伝のために、私なりに尽くしてきたつもりです。
しかしながら、紀伝は、あろうことか、私の実家の会社の秘書だった園田美智子と40年にわたる不倫関係を継続しており、
また、平成29年からは、派遣社員の橋本ゆずとも不倫関係を継続しております。
今朝、ニュースで今日は今年一番の冷え込みだと言っていたことを思い出した。
しかし俺は今、額から油汗がだらだらと出ている。
背中でカナエの様子を伺う。先ほどから変わらず、洗濯物をたたんでいるように思う。
俺は、恐る恐る、なるべくゆっくり、後ろを振り返った。
洗濯物を膝の上に置いたカナエと、バチッと目が合った。
カナエは感情のない表情で俺を見ている。
感情がないはずなのに、鬼と目が合ったような気がした。
無理っすよ、無理無理、と目の前の弁護士は言った。
渡された名刺をちらりと見ると、岩崎涼と書いてあった。
不倫の証拠はバッチリ取られているし、しかも相手は二人でしょ。
さっさといしゃりを払って別れるのが一番だと思いますけどね。
岩崎はボールペンで頭をコリコリ書きながら言った。
ふざけるな、俺は無子養子なんだぞ。あそこを追い出されたらもう行くところがないんだ。
いやいや、だったらなんで不倫したんですか。自業自得でしょうよ。
岩崎は軽蔑の目で俺を見ている。
俺はずっと牛山家に尽くしてきたんだ。浮気の一つへ二つ、男の解消だろうが。
俺は父ちゃんに、母ちゃんに尽くすのが男の解消と教わって育ったんで、ちょっと流派が違うんですよね、と岩崎はのんきに言った。
そして、流派というより衆派ですかね、はは、と、面白くもない自分の冗談に笑っている。
俺はイライラしながら弁護士事務所を出て、ひろきに電話した。
あ、ひろきか。悪いガキを止めてくれないか。
電話の向こうから大きなため息が聞こえた。
いやだよ。ひろきはそう言った。なんでだよ。俺は父親だぞ。
浮気するような男を嫁さんや息子に会わせるわけにはいかねえよ。
ひろきはそう言うと電話を切った。
ちくしょうが、俺を誰だと思っているんだ。
ふと、ひろこのことを思い出した。
ひろきのヒロは、ひろこからとった。
新卒で入ったメガバンクの後輩だった。
その年に入った女の子の中で一番の美人だった。
俺が地方転勤になってもニコニコしながら、待ってると言っていた。
けど俺は仕事で出会ったこの土地の王子主に気に入られて、その娘である信子と結婚した。
噂によると、ひろこはその後も結婚はせず定年まで勤め上げたらしい。
もしもひろこと結婚していたら、俺は家を追い出されずに住んだのだろうか。
風がビューッと吹いて、俺はブルリと震えた。
どうにもこうにも、俺は今、今日泊まるところを探さねばならない。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。小島千尋でした。
07:25

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