00:00
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、様々な人がいることをテーマにお送りいたします。
オランダで結婚式?
オランダで結婚式しようか、と、里氏は言った。
俺は口を開けたまま固まり、フォークに巻かれたパスタがスルスルと落ちていった。
俺の反応を見て、里氏は、オランダが遠いなら台湾でもいいよ。
タツヤはタケシード似合うだろうな。黒もいいけどグレーかな。ネイビーもいいかも、などと妄想を広げ始めた。
いやいやいや、待てよ。結婚式ってそんなのできるわけないじゃん。
俺は慌てて言ったが、里氏はキョトンとした表情で、
なんで?と言った。
だって、俺たち男同士だぜ。
里氏は、それこそ今さらだよ。何のために付き合ってんだよ、と呆れたように言った。
何のために付き合うのか、そんなこと考えたこともなかった。
とりあえず俺は、この関係の先に結婚なんて考えたことなかった。
次の日、ぼんやりした頭のまま稽古場へ行った。
モトキの相談
俺が着いた頃にはもう、新人の女の子たちが掃除を終わらせていた。
今年入ったばかりのモトキメイト、タシロコトが、元気に挨拶してきた。
挨拶を返すと、もじもじするモトキに対し、タシロが肩をぶつけている。
不思議に思っていると、モトキに、
あ、あの、竹本先輩って、彼女さんとかいるんですか?と聞かれた。
あー、なるほどなるほど。
恋人ってこと?
確認してもしょうがないことを、ついつい確認してしまう。
モトキは緊張した面持ちで、
は、はい、というので、軽い感じで、いるよ、と答えた。
すると、モトキとタシロは目を見合わせ、きゃっきゃと喜び始めた。
思っていた反応とちょっと違う。
モトキは目を輝かせながら、
今、好きな人がいるんです。今度相談に乗ってください。
と言ってきた。
俺は勢いに押され、
お、おお、と言ってしまった。
タシロは、ずっと男の人に相談したかったんですけど、
まともな人がなかなかいなくて、と訴えるように言った。
俺別にまともじゃないよ、と言ったが、
まともな人は自分はまともだと言いませんから、
とタシロは自信満々に言った。
確かにそれは言えるかもしれない。
その時、演出家の吉田さんが入ってきた。
吉田さんは大きな声で、
だからよ、あいつホモだったんだよ、
まともじゃねえよ、あんなに女のファンがいるのによ、
と言いながら入ってきた。
一緒に入ってきた制作の伊藤さんも一緒に、
マジでキモいっすねえ、ホモはダメですよ、
オファーしなくて正解でしたね、
と言っているのが聞こえる。
胸の奥がギュッと締め付けられるような気がした。
元木とタシロがひそひそ声で言う、
キモいのはどっちよ、女優のおっぱいしか見てないくせに。
俺は驚いて新人の二人を見た。
元木とタシロは慌てて、
シーッと口に人差し指を当て、
今私たちが言ったことは内緒ですよ、
と言うので、
俺も同じ気持ちだよ、と返した。
稽古が終わった後、いつも通りデリバリーの仕事をした。
依頼を受け、荷物を受け取り、自転車を声で届ける。
その繰り返し、車道を走っていると、
歩道に高齢の女性と親子が何か話していた。
親子の方の母親が高齢の女性に怒っているようだ。
親子はこちらの方向に向かって歩き出し、
すれ違いざまに顔を真っ赤にした母親と目があった。
自分を傷つけるような奴なんか相手にしなければいいのに。
赤信号で止まり、振り向いてみる。
小さく見えたさっきの親子の向こうに、
大きな虹が見えた。
俺は突然、どうして俺を傷つける奴と一緒にいるんだろうと思った。
サトシに電話をかける。
サトシは仕事中だったはずなのに、すぐに電話に出た。
どうした?何かあったのか?
俺、劇団やめるよ。
サトシは驚いて、は?と言った。
劇団やめて、サトシと結婚式する。
サトシからなかなか返事が返ってこなかった。
何か言うべきか迷っていると、
オランダの式場は最短で来月取れそうだけど、と返ってきた。
仕事ができる奴は話が早すぎて困る。
でも、それくらいの勢いが必要なのかもしれない。
いかがでしたでしょうか。
感想はぜひ、ハッシュタグプリズム劇場をつけて、各SNSにご投稿ください。
それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。