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2024-11-14 18:18

S2E23 ヒトはなぜキスをするのか

キスはウイルスから子供を守るためにするという仮説について話します。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19828260/

以前に一度配信した内容ですが、さらに情報を増やして、よりわかりやすく原稿を作り直して、再録音したものをお届けします。

サマリー

このポッドキャストエピソードでは、ヒトがキスをする理由に関するさまざまな仮説が紹介され、特にキスが不妊や流産に関連するウイルスのリスクを減少させるという興味深い視点が提案されています。また、キスの文化的側面や進化的観点についても考察され、聴衆に新しい視点が提供されています。このエピソードでは、キスが子どもを守るための生物学的役割に関する仮説が述べられており、この考え方はウイルスに対する免疫を通じて、ヒトの繁殖パターンが進化してきたことに関連しています。

キスの文化と仮説
あの、ヒトはなぜキスをするのかって疑問に思ったことないですか?
セックスそのものっていうのは子供を産むのに必要だから、主として存続するために必要だっていうのはよくわかるんです。
でもキスってどうしても必要なものじゃないですから、なんで存在するんだろうって疑問に思うわけです。
実際、すべての人がキスをするっていうわけでもなくて、キスをしない文化っていうのも多いそうなんです。
でも人口にすると90%以上はキスをする文化圏に生活しているんです。
だからこれだけ普遍的に行われているっていうことは何か理由、メリットがあるだろうと考えられます。
いや、もちろんキスをしたいっていう気持ちがあるだろうし、実際すると気持ちよかったり嬉しかったりするから、だからするんだと、キスをするのは当たり前だというふうに思うかもしれません。
キスに関する研究っていうのもあって、キスをするとストレスホルモンであるコルチゾールが減るっていう報告があります。
さらには人と人との結びつきに関係があるオキシトシンっていうホルモンが増えるっていう報告もあるんです。
だからそういうふうに感情に対する効果があるっていうわけで、だからキスをするんだっていうことなんですけど、でもこれは進化的な理由とは言えないんですよね。
なんていうか、キスが何かに役に立つからキスをすると脳が気持ちよく感じるように進化してきたって考えるわけなんです。
つまり、セックスをしたいっていう欲求があって、すると快感が得られるわけなんだけど、それはセックスには子孫を残すっていうメリットがあるから、動物はそういう欲求を持つように進化してきたわけです。
あとはご飯を食べるとかも同じなんですよね。
ご飯を食べると幸せになるんだけど、でもだから食べているわけではなくて、栄養をとって体を維持するために食べているわけなんです。
で、それをやるように仕向けるために脳はお腹いっぱい食べることで快感を感じるようになったわけです。
だからキスに関してもそういうふうに欲求があるわけなので、するように仕向けるだけの何か理由があるはずです。
でもキスっていう行為そのものには特に何のメリットもなさそうなので、なぜ行うのか疑問に感じるわけなんです。
今日は、人はなぜキスをするのかを説明する面白い仮説、キスはワクチンであるっていう仮説を紹介したいと思います。
フォットサイエンティストへようこそ、さとしです。
で、この仮説を話していく前に、その他の仮説っていうのもまず話しておきたいと思います。
まず一つは、赤ちゃんに離乳食を与える時に、以前は親が紙砕いて口移しで与えていたっていう考えがあって、それがキスになったというものです。
でもそもそも口移しをする民族が少ないですし、数少ないする民族ではキスをしないんだそうです。
それにこれは子供と大人のことですから、これが大人の男女がキスをする必然的な理由とは言えなそうです。
他にはたくさんの狩猟採集民族を調べた研究があって、キスをするのは寒い地方に住むイヌイットだけで、温暖な地方の狩猟採集民族はキスをしないんだそうです。
そこから肌を露出して生活しているとキスはしなくていいんだけど、寒い地方で服を着ると露出しているのは顔だけになるので、そこを接触させるという考えがあるんですね。
で、それがキスであるということなんです。
でもなぜ接触させるのかの説明がはっきりとはしていません。
さらに別の仮説としては、唾液を交換することによって化学物質をやりとりして相手を見定めているというものがあります。
唾液に含まれる成分の味とか臭いを感じ取って、それで相手が健康かとか相性がいいかとか、そういうのを無意識に確かめているっていう、そういう考えです。
人間以外の動物でキスをするものは少なくとも知られている限りではかなり少ないんですが、他の動物は鼻がいいのでくっつかなくても臭いで相手のことがよくわかるという考えなんですね。
でも人間は鼻が悪いのでくっついてキスをすることで相性を調べるという方法をとっているという説明がされます。
で、この立場の研究者っていうのも結構いるみたいなんです。
でもキスはリスクもあるんです。
唾液っていうのはウイルスとか細菌とかがたくさんあるわけで、キスによって相手の持っている病気が移ることがあります。
相手の健康状態とか相性は嗅覚に加えて視覚的に見てもわかるわけなので、病気のリスクを犯してでもキスをするだけのメリットがないのではないかっていう考えもあるんです。
それにこの仮説でいけば、カップルとなった後にはキスをする理由がないように思えます。
サイトメガロウイルスの影響
でも実際はカップルがキスをしているわけなんです。
そこで紹介したいのが2010年に発表されたコリン・ヘンドリーとゲイル・ブリュワーによって提唱された仮説です。
で、これはむしろ唾液に含まれているウイルスが大事なんだっていう、そういう仮説になります。
たくさんの人が感染しているウイルスで、ヒトサイトメガロウイルスっていうのがあるんですね。
多くの人は子供の頃にかかったりするんですけど、型が何種類もあって、1回かかった人でもまた別の人からウイルスをもらって感染したりします。
さらには大人でも感染したことがないっていうような人もいて、大人でもよく感染することがあるんです。
でも大人がサイトメガロウイルスに感染しても全然健康被害がないんですね。
つまり感染してウイルスが体の中で増えるのは増えるんだけど、別に何の症状もないんです。
でも女性が妊娠しているときに感染すると、その胎児に悪影響が出るっていうことがわかっているんです。
だから妊婦には影響がないんだけど、お腹の中の子供が流産したりとか、異常を持って生まれてくることとかが、このウイルスの感染によって起きることがあるんです。
流産っていうのはいろんな理由で起きるわけで、単純に赤ちゃんが持っている遺伝子の異常の場合も多いんですが、流産の理由としてこのサイトメガロウイルスも割と多くの割合を占めています。
オーストラリアの調査では、死産の約15%がこのウイルスによるものだという報告もあるんです。
だからこのウイルスの被害っていうのは深刻なんですね。
でもそうは言っても、死産っていうのは割合としては少ないわけで、正常に生まれてくる赤ちゃんの方がずっと多いとも言えます。
そのサイトメガロウイルスはそこら中にいるんですけど、多くの人はこのウイルスの悪影響なしに生まれてくるわけです。
それはなぜなのかというと、それは人がキスをしているからだっていう、そういう仮説になります。
まずちょっとここで男女のカップルがいて、その男性の方がサイトメガロウイルスに感染していて、女性の方は感染していないっていう状態を考えてみます。
サイトメガロウイルスなんですけど、感染すると人間の唾液とか尿、それから性液なんかに多く分布するみたいなんですね。
だからその男女が性行為をしたりすれば、男性から女性にこのウイルスが感染するのを避けるのは難しいわけです。
キスの生物学的役割
しかも大人では症状がないですから、男性が感染してそうだから今は避けようとかいうこともできないわけです。
それで女性が感染して、その感染したタイミングでもし妊娠していれば、その胎児に悪影響が出てしまうっていうことになります。
でもキスをすることによってこれが起きる可能性を減らしてくれるっていうことなんですね。
唾液にもたくさんのウイルスが含まれてますから、この男女がキスをすると高い確率で男性から女性に移るわけです。
でも大人は症状がなくて、しばらくすると免疫が働いてウイルスを攻撃して排除します。
それから当面はこのウイルスに対する免疫が働いて体を守ってくれるから、このウイルスには感染しなくなるわけです。
だからこういうふうに免疫ができてから妊娠すれば、お腹の中の子供に悪影響がないっていうことになるわけです。
つまりキスすることによって、あらかじめこのウイルスに感染することによって、これから妊娠する子供を守るっていうことになるんです。
でもって免疫とウイルスの性質を考えると、6ヶ月間くらい同じパートナーといると、このウイルスに対する防御が最大になるだろうと、この仮説を発表した論文の中で述べられていました。
その実際問題として人間の繁殖パターンっていうのはこれに適しているんです。
男女がキスするような関係になってすぐに妊娠するのは結構稀で、しばらくしてから子供を産むことが多いわけですね。
そのキスをしてすぐに性行為をするわけでない場合も多いですし、もちろん現代社会では否認っていうのもあるわけです。
それにそうでなくても人間っていうのはそんなに妊娠の効率の良い動物ではないので、必ずすぐに妊娠するわけではないんです。
さらに言うと、むしろこれは逆で、サイトメガロウイルスやこういった感染をする病気に対応するためにキスをしてすぐには妊娠をしないっていう繁殖のパターンを人間は進化させてきたという可能性もあるわけです。
それからこの論文では複数のサイトメガロウイルスの型があることが、人では一夫一婦性が多いことに寄与している可能性があると論じています。
つまりしばらく同じパートナーとキスしていることで子供が守られるわけですが、そういう固定のパートナーがいないという形であれば、別の男性から別の方のサイトメガロウイルスに感染してしまう可能性があるわけです。
だからウイルスから子供を守るためには特定のパートナーとの方が都合がいいということになります。
一応この説明でいくと、会ってすぐに妊娠するとか、あるいは浮気をしているとサイトメガロウイルスでの異常になりやすいということになるわけなんですが、このウイルスは別の経路からでも感染します。
特にそのカップルの前の子供、上の子が持ち込む可能性はこの論文でも言及されていましたし、
そもそもこれはあくまで仮説ですから、仮に流産してしまった人とかサイトメガロウイルスによる異常を持った子供が生まれた人を見て避難するようなことをするのは間違っているということだけは補足しておきます。
というわけで、今回紹介した仮説は、キスっていうのはウイルスをあえて感染させるために行うワクチンみたいなものだということで、人はなぜキスをするかというと、子供を守るためであるというものでした。
仮説の考察
もちろん、こういうことはどの仮説が正しいとかはっきり証明できるものではなくて、これは一つの仮説ですし、結論が出ることはきっとなくてずっと仮説のままだと思うんです。
だいたいキスもイップ、イップ性も文化的あるいは社会的な観点から説明されることが多いみたいなんです。
でもこの仮説でいけば、ウイルスに対応するためにキスとかイップイップを人間が好むように進化してきたっていうふうに、完全に生物学的な角度から説明できるっていう点が面白い仮説だと思いました。
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