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忘れるのはやめにした。眠れなくなった。
今日も、あの日のことが、頭の中でまた繰り返していた。
時計を見なくても、朝が近いのはわかっていた。
自転車に乗った。行く宛などなかったけど、動き出さなくてはならなかった。
気持ちを置いてけぼりにできるのなら、僕は精一杯、ペダルを漕いだ。
まさか、未だに思い出すとは、もう何年経ったのだろう。
それが、僕の気持ちは薄まりはしなかった。
空が白くなってきた。少し汗ばんで、ようやく気持ちが心の真ん中に戻ってきた気がした。
さらにペダルを漕いだ。風を頬に当てて、きっと自分を取り戻せるはずだった。
急に、何かがこみ上げてきて、スピードを上げた。
あれから、数え切れないほどの人に出会ったはずなのに、
あなたに好きだと言えなかったことだけが、いつまでも忘れられない。
日が昇り出した。澄み切った空を見つめた。
気持ちだけ、僕から分離させて、そこに置いてくることはできなかった。
あなたの笑った顔よりも、なんだか悲しい顔が思い浮かんだ。
僕にとって、その表情の方が印象に残ってしまった。
あれから、数え切れないほどの人に出会ったはずなのに、
あなたに好きだと言えなかったことだけが、今も心の中にある。
やっぱり、忘れるのはもうやめた。あの日のことはもう僕の一部なんだ。
今度は、家に向かって自転車を漕いだ。帰り道はゆっくり進んだ。
でも、気がつくとすぐ、見慣れた場所にいた。
あの日、きっとあなたは僕の答えを待っていた。
でも僕は、それを曖昧にしたまま、背中を向けた。
その背中にそっと置いてくれた手。その手の温かさを、今でも感じられる。
これから、数え切れないほどの人に出会うだろうけど、
あなたに好きだと言えなかったことを生きた証にしてみよう。
それが、僕にとって今一番大事な気持ちなんだと気がついた。
忘れるのはこれでやめよう。明日も思い出せばいい。
そして、この気持ちと生きていこう。