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スピーカー 2
カランコローン
いらっしゃいませ。喫茶クロスロードへようこそ。
スピーカー 1
いよいよ週も後半。
ちょっと疲れたな。今週もなんだかバタバタしていたな。
そんな気持ちが膨らんでくる頃ではないでしょうか。
そんな時こそ一休み。
ここでのんびりしていきませんか。
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
今月のテーマは【食欲の秋】
今日は家族と一緒にご飯作りに向き合ってきたミキティのエッセイを、私、しほがお届けします。
スピーカー 2
それではどうぞ。
スピーカー 1
息子とご飯と私、ミキティ。
苦手な科目は?と聞かれたら、迷わず家庭科と答えるくらい、家事全般は昔から苦手意識が強い。
一人暮らしの時は、それこそ。自分のための食事なんて適当でよかった。
仕事が大好きで、終電ギリギリまで働くことを厭わず。
コンビニで買ったおにぎりをデスクで頬張るなんてことが日常だった。
スピーカー 2
それくらい、私にとって食の位置づけはとっても低かったのだ。
スピーカー 1
そんな私は、結婚を機にさすがになんとかしなきゃと焦り始め、
スピーカー 2
花嫁修行として、某大手クッキングスタジオの料理コースとパンコースに意気揚々と申し込んだのだ。
スピーカー 1
複数人で手分けして作ったオシャレなワンプレート。
スピーカー 2
先生の指導の下作ったまるでお店で売っているような手ごねパン。
スピーカー 1
結局、その場限りの自己満足に終わり、
大金をはたいて契約したコースで学んだことは、一度も自宅で再現されることはなかった。
幸い、夫婦共に仕事が忙しかったので、
おうちご飯については特段、お互いこだわりがなく、なんとかやり過ごしてきたといった状況だった。
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スピーカー 1
その後、第一子の息子が生まれてからは、こんな私でも食にこだわりが出てきてしまって、
今まで気にもしていなかったことが気になりだした。
スピーカー 2
子供のために、母乳のために、と、なるべく安心なもの、体にいいものを取り入れよう、と。
スピーカー 1
だって、それは初めて、自分よりも大切な、守るべき大切な存在ができたからこそ。
その姿を目の前にし、顔を見て、声を聞き、匂いを感じ、お世話をして、
スピーカー 2
ただそこにいてくれるだけで幸せを感じられるなんて、本当に初めてのこと。
スピーカー 1
そして、私のことをこんなにも必要としてくれる長男のことを、とても愛おしく思うと同時に、
スピーカー 2
私がこの子を守らなきゃ、という強い責任感も湧いていた。
スピーカー 1
以前の私は、ご飯よりもおやつの方に興味があって、コンビニスイーツの新作をチェックするのが楽しみだったし、
仕事が終わって帰宅後の夜遅くに、こっそり食べるスナック菓子も好きだった。
スピーカー 2
でも産後に助産師さんから聞いたのは、甘いクリームや脂っこいものは、母乳のつまりの原因になる可能性がある、という話。
スピーカー 1
母親が食べたものによって、母乳の味や質も変わる、と。
スピーカー 2
え、私の食べたものがそんなに影響するの、と心配になった。
スピーカー 1
産前に育児雑誌や両親学級などで知り得た情報から、妊娠中もある程度は気をつけていたけれど、
やはり我が子を目の前にすると、その情報の重みがぐっと増してくる。
よし、私の好きなものは封印して、これからはこの子のために気をつけよう、と、
スピーカー 2
30歳を前にして心を入れ替えたのだった。
でもね、あれもだめ、これもだめって、実際しんどい。
それでも、この子のためなら、と我慢ができる自分がいることにも驚いた。
スピーカー 1
子供の存在ってすごい。母親ってすごいな、って。
スピーカー 2
息子の主要な栄養源が母乳だけの時期が半年ほどたち、いよいよ離乳食が始まる月齢を迎えた。
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スピーカー 1
ちょうど息子の口には上の前歯が少し見え始め、いよいよ本当に始め時なんだな、と覚悟した。
料理が苦手な私にとって、繊細な離乳食は大きな関門だった。
スピーカー 2
離乳食の本を購入し、ある程度の知識・流れを頭に入れ、いざ初日を迎えた。
スピーカー 1
10倍がゆって人生で初めて作った。
それを裏ごししてから、離乳食初期用の小さな小さなスプーンにちょこっとのせて、息子の小さなお口にそっと運ぶ。
食べてくれるかな、どうかな、ドキドキの瞬間。
あ、食べてくれた。
スピーカー 2
お口をもぐもぐした様子を確認した私は、緊張していた肩の力がすっと抜け安堵した。
これからまだまだ先は長いというのに、あの瞬間なんだか報われた気がした。
スピーカー 1
それが息子と私の初めてのご飯の記憶。
あれから11年がたち、息子には弟が2人、妹が1人でき、4人兄弟の長男となった。
スピーカー 2
小学5年生になった長男は、ご飯をよく食べるようになった。
スピーカー 1
4兄弟の中で唯一、好き嫌いなく何でも食べてくれる。
ママのご飯おいしい、と言ってくれることが、私のご飯作りのモチベーションになっている。
スピーカー 2
実は長男が生まれてから10年くらいは、相変わらず料理ができなくて、そのことをずっとコンプレックスに感じていた。
良い母親イコール料理上手という思い込みがあり、そうではない自分のことは母親失格とすら思っていた。
スピーカー 1
ご飯作りに時間がかかったり、○○の素を使ったり、お素材を買ってきたり、
スピーカー 2
常にどこか後ろめたく申し訳なさを感じていた。
スピーカー 1
とにかく母親としての自信がなく、自分のことを認めることができなかった。
スピーカー 2
こんな自分を何とかしたい、この状況から脱却したいと思い、いろいろとリサーチしていた中で出会ったのが、麹だった。
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スピーカー 1
第四子の三級に入ったばかりの頃、初めて麹作しのご飯を食べ、その美味しさに感動し、
麹を通じて生活が、人生が変わった人たちの話を聞き、私も学んでみたいと思い、
スピーカー 2
出産直前に学んだのが麹作りと塩麹、醤油麹、甘酒などの発酵調味料の作り方だった。
スピーカー 1
おかげで産後のご飯作りがぐっと楽になり、家族からも美味しいと喜ばれるようになり、
ようやくようやく私は母親としての自信を取り戻すことができた。
さらに育休中にはサニー・サナエさんの私を整えるご飯という本と出会ったことで、
私の中で長年くすぶっていた、母親としてこうあるべきという思い込みを手放せたのも大きかった。
ご飯作りにストレスを感じている人、良き母親像に縛られている人、自分のことをなかなか認められない人、
スピーカー 2
ぜひこの本を手に取ってみてほしいな。私たちは本来そのままで素晴らしい存在というメッセージから始まります。いかがでしたか。
スピーカー 1
さて名残惜しいですが閉店のお時間です。
今後も喫茶クロスロードはあなたがほっこりした時間を過ごせるよう、毎週月曜日と木曜日、夜9時よりゆるゆる営業していきます。
それでは本日はお越しいただきありがとうございました。またお待ちしております。