なぜa penなのにan appleなの?
おはようございます。heldio 英語史ラジオの配信を本日から開始します。 慶応義塾大学の堀田隆一です。
私は普段英語の歴史を研究していますが、このチャンネルでは英語に関する素朴な疑問を入り口として、リスナーの皆さんを広く深い英語史の世界に招待します。
英語史と聞くと難しそうと思うかもしれませんが、心配いりません。 実は皆さんが英語に対して日常的に抱いている
「なぜ?」に優しく答えてくれる頼もしい味方なのです。 英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も教えてくれなかった数々の謎が
スルスルと解決していく快感を味わってください。 ついでに英語の豆知識を得るにとどまらず、言葉の新しい見方にも気づくことになると思います。
なお、チャンネル名のheldioはThe History of the English Language Radio にちなみます。
初回となる今回は、なぜ、a pen なのに、an apple なの?という英語の素朴な疑問に歴史的に迫ります。
皆さん、英語を学び始めた最初の頃に、一つのものには名詞に「a」がつくと習いますね。
This is a pen. This is a dog. This is a house. のように言います。
ところが、母音で始まる名詞には、「a」ではなくて、「an」がつくとも習いますね。
This is an apple. This is an elephant. This is an orange. のように言います。
その時、なぜ、母音の前では、「an」にしなければならないの?と疑問に思いませんでしたか。
この質問を英語の先生に投げると、大抵こんな答えが返ってきたのではないでしょうか。
英語は母音が連続するのを嫌う言語である。 それを避けるために、「n」という詞音を挿入して発音しやすくするのです。
というわけですね。
This is a apple では言いにくいので、This is an apple. 同じように、This is a elephant.
ではなく、This is an elephant. This is a orange. ではなく、This is an orange.
確かにこれによって、母音が連続するのを避けることができています。
しかしです。本当に母音連続って発音しにくいでしょうか。
日本語では母音連続など当たり前のようにあるので、ちょっと信じがたい説明なんですね。
2つの絵が追いかけっこをしているという状況を指して、追い合う絵と言えると思うんですね。
母音が5連続ですが、全く問題ありません。
いや、日本語口では発音しやすいかもしれないけれども、英語口では母音連続ダメなんだと言われるかもしれません。
しかしですね、英語でも母音連続は実はザラにあるんです。
2 apples 2つのリンゴという場合の2 apples では、うーわというふうに母音連続が起こっていますし、
3 apples でも同じです。3 apples なのでイーエッという母音連続が起こっています。
もしもこのような場合にもですね、2 napples であるとか、3 napples のようになるんであれば、
n を挿入するという点で、a napple と一緒で、一貫しているので理屈が通っているようにも思えますが、
実際には 2 napples 3 napples と言わないんですね。
2 apples 3 apples 母音連続が来ています。
a の場合にだけ母音連続を避けるために、a napple となるという説明は、ちょっととってつけたような説明のような気がしてきませんか。
さらにこの説明には問題があります。
不定冠詞aとanの起源と解釈
挿入するシーンが、なぜ n でなければならないのかということがわからないことです。
m でもいいじゃないかと。そうすると、a mapple となりますね。k でもいいじゃないか。a kapple
s でもいい。a sapple それなのに、なんでとりわけ n なのかということがよくわかりません。
この問題は、英語詞の観点から見ると、きれいすっきり解決します。
この a n という一つのという意味の不定漢詞と言いますね。これは一つのという意味を表すわけです。
言われるまで、なぜ気がつかなかったのかと皆さん思うかもしれませんが、これ語源は実は数字の1を表す one なんですね。
一つのですから one です。この one が弱まって an になりました。
さらにこの an から n が脱落して、変化してできたのが a ということです。
つまり不定漢詞としては、デフォルトは an の方なんですね。a ではないんです。an です。
つまり an apple というのは one apple の弱まった形にすぎないので、これ何も説明する必要はないんです。
なぜ挿入されるシーンがですね m でも k でも s でもなくて n なのかというのは当たり前すぎる話です。
one の n ですから。むしろ説明を要するのは a pen の方なんですね。
なぜもともとは one pen だったものが a pen になってしまったのかということです。
古くは one pen が弱まった an pen というのが用いられていたんですね。
ところが不定漢詞というのはそもそも弱い発音なので、詩音の前で an の n が落ちてしまったというわけです。
つまり詩音連続を避けるかのように an の n が脱落していって a になった。a pen になったということなんです。
従来の説明は母音連続を避けるために n を挿入したということでしたが、
英語史の説明はあべこべです。むしろ詩音連続を避けるために n が脱落したということになります。
これが英語史的な見方、英語史的な説明ということになります。
以上ヘルディオ英語史ラジオの紹介は、なぜ a pen なのに an apple なのという英語の素朴な疑問を取り上げました。
第1回ということで one に引っ掛けた話題をお届けしましたがいかがでしたでしょうか。
英語史の面白さが感じられたのではないでしょうか。 言葉についての謎は身近なところにゴロゴロ転がっています。
本チャンネルでは英語に関する素朴な疑問を取り上げ、 英語史の観点から解き明かしていく予定です。
ヘルディオ、今後ともよろしくお願いします。 なお日々 web 上でヘログ、英語史ブログというブログも運営しています。
英語史に関心を持った方はぜひそちらもご覧ください。 ではまた。