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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる素朴な疑問は、
-ic なのか-ick なのかという、つづり字に関する問題ですね。
これ、語尾に現れるときの、この-ick という発音ですね。これに対応するつづり字なんですけれども、
-ic の場合と、-ick の場合があります。
-ick の方から行こうと思うんですが、これは例えば、ブリック、キック、スティックのように、大抵一音接合ですね。
そして、-ick の発音が語幹の中に埋め込まれている、語幹の一部であるという-ick の場合は、
-ick というつづり字で、これは我々は見慣れていると思うんですね。
ところが、設備字としての-ick は、常に-ic なわけです。
つまり、この場合、語幹の一部なんではなくて、あくまで他の有意味な要素にくっついて、
典型的に形容詞を作るというような、外来の単語がほとんどなわけですが、
例えば、パブリック、ミュージック、スペシフィック、ベーシック、ドメスティック、
トラフィック、デモクラティック、サイエンティフィック、キャラクタリスティック、
エクデミック、なんていうときの、あの-ick ですよね。
これなどは、もう見慣れているので、-ic ということで、
同じ-ick という発音だからといって、これが-ick だったら、
少しうるさい、この-k がうるさいなというふうにきっと思うと思うんですね。
このように、同じ-ick の発音でも、英語には2種類ある。
単語の中に語幹として埋め込まれているような、典型的一音接語、
kick、sick のような、このようなものは ick なんだけれども、
設備詞としての-ick、この場合、発音にアクセントは落ちないんですよね。
パブリック、ミュージックのように、語尾に表れるものに関しては ick というふうに
キープが決まっているわけです。ただ、一つ例外的なものがあって、
例えば、ピクニックとかパニックという単語がありますね。
これは ick と綴るわけなんですが、これが動詞として用いられる場合に、
例えば、ピクニックで言いますと、過去形、ピクニックとなるときは、
k が現れるんですね。p-i-c-n-i-c-k-e-d というふうに、裸の形ではピクニックと ic なんですが、
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picknicked がつくと、これがちょうどkicked などと同じような形で ick-ed となる。
他に、ピクニックをする人という er の設備字がついても同じです。
picknicked というふうに、k が出てくるっていうことなんですね。
こうしたちょっとイレギュラーな コツ維持の問題がありますが、
基本的には語幹に埋め込まれた ick というパターンと、あくまで設備字であるからということで
ic と綴る2種類がある。はっきり分かれているといえば分かれているんですね。
これ見慣れていますし、そういうもんだろうと思ってきたかもしれませんが、
実は近代の英語なんかでは、これがのきなみ ick に統一されていたんですね。
例えば、1755年に出版された、サミュアル・ジョンソンですね。
ジョンソン博士なんて言われている、18世紀を代表する文豪ですけれども、
このジョンソンがですね、1755年、 A Dictionary of the English Language という英語の辞書を出しました。
ほぼ一人で、お手伝いさんはいたんですけれども、ほぼ独立と言っていいでしょうね。
作り上げた、非常に画期的な、そして権威ある辞書、当時のですね、だったわけです。
これはですね、すべて ic 語をですね、今で言う ic で綴られる語は ick として綴られていたんですね。
もちろんキックとかスティックのような、今でも ick のものも、当時もやっぱり ick ということで、
つまり ick で一貫していたっていうことですね。
これでずっとやってきたわけなんですけれども、ここにですね、次のキャラクターが登場しますね。
これ誰かというと、アメリカの辞書編参者、ノア・ウェブスターです。
これアメリカ系の辞書としてはですね、この The American Dictionary of the English Language っていうものがですね、
このノア・ウェブスターが編参して1828年に出たわけなんですが、
もうアメリカでは辞書の代名詞ですね。このウェブスター辞書とかウェブスター系の辞書というのは、
辞書の代名詞になっているくらい影響力ある人なんですが、この1828年のアメリカで出版された辞書ではですね、
例えばパブリックで言いますと、これ ic ですね。この綴り字が見出し語として掲げられている。
そしてこのウェブスターの圧倒的な影響力のもとでですね、19世紀にはもう一気にその後ですね、
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ic の綴り字っていうのがパブリックだけでなく、今まで ick だったものが ic というふうに綴り字直されてきたってことなんですね。
これがですね、アメリカ英語のみならず、イギリス英語にも拡大していった結果、現代のような分布になっていると。
単音節の、そして語源的に言うと、実はもともとの英語であるものが多いですが ick のものと、そうではなくあくまで節微字の ick ということを、
綴り字上ですね、分ける関修ができたきっかけっていうのは、明らかにこのアメリカのノアウェブスターの辞書ですね。
これによるところが大きいです。
ただ、ノアウェブスターの影響は確かに大きいんですけれども、それ以前から ic の綴りですね、今につながるこのパブリックのような ic の綴り字が全くなかったわけではなくて、
マイノリティとしてはあったけれども、それをウェブスターが採用したことでですね、その後一気に爆発的に増えて、
もともとの ick の綴り、これを駆逐していったという流れになっているんですね。
ウェブスターがなぜですね、この節微字の ick を ic にして、そちらの後者のほうをですね、採用したかっていうのは、よくわからないといえばわからないんですけれども、
結果として同じ ick の発音でもですね、しかも語末に現れるという意味では一緒でも、系統が異なって、 ick のやつと ic のやつが場合分けされてしまったっていうのは、
学習する側、綴り字を学習する側としてはですね、揃えておいてくれよと言いたくなるわけですが、こうして二手に分かれたってことですね。
もちろん理屈としてはですね、冒頭から述べている通り、本来語で一音節にあるもの、典型の場合には ick、それに対してあくまで節微字の外来の語源を持つ単語なんだよってことが、
ic の綴り字でわかるっていうような、そういう利点もないわけではないですけれども、それにしても二手に分かれてしまったっていうのは、やや学習上ですね、問題を引き起こすかなと思いますね。
そもそもどれだけ多くの人がですね、パブリックとかデモクラティックとかアカデミックならなんとなくわかるんですが、
どれくらいの人がミュージック、これは実はミューズに ic をつけた節微字をつけた語源なんだよっていうことを知っていたかっていう話なんですね。
そんな全く知識もなくミュージックということを普通は使ってきていたんじゃないかと思いますし、
合わせるといって ick、ミュージックとかパブリックを ick にすると、今となって目が慣れていないので変だなと思いますよね。目の慣れっていうのは怖いもので、
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どんなに不合理だったり、あるいはそれがですね、表面的にはきれいに説明できないものであっても、目が慣れてしまうと、それで定着しちゃうっていうのもまた、
つづり字の一つの特徴なんですね。つづり字の問題を説明する、あるいは英語詞的な観点から解説しようとしてもですね、
必ずしもきれいに理屈だけでいかない。慣れてしまったらそれが定着するもんだということもつづり字の問題としてはですね、あるからなんですね。
これがなかなか難しいというところですが、また調べていくと面白い、奥が深いという話題でもあります。それではまた。