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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、英語の発音の規範を定めた John Walker、という話題です。
みなさん、英単語の発音を学習するときに、大抵異挙するのは、辞書にある発音記号であったり、
あるいは、それに基づいてネイティブスピーカーが発音した実際の音声、音源だったりを聞きながらですね、
これが正しい、規範的な発音なんだというふうに覚えていると思うんですね。
つまり、標準英語の発音を当然、我々は学ぶべきなんであって、
そうではない方言の発音であるとか、○○英語、つまりA、Bではない、○○英語という世界に多数あるですね、
いわゆる一般的ではない英語の発音をマスターするというわけではないということですね。
あくまで、第二言語としてですね、外国語として英語をマスターする限りにおいては、
やはり標準的な、一般的な発音を覚えておいた方が、世界に広く通用するわけですよね。
ということで、標準発音ってことなんですが、一歩強く言うとですね、
規範的な発音、これが守るべき発音であり、学習すべき発音であり、実際に使うべき発音だというふうに、
標準よりも少し強まると、規範というふうに呼ばれますね。
この言葉に対しては発音のみならずですね、文法であるとかスペリングなんかもそうですが、
規範意識というのが結構強く存在するわけですね。
これから外れたら間違いであるとか、通じないかもしれないというようなものですね。
これは規範というものです。
我々にとって、この規範というのはですね、言語において比較的強いものだという意識があって、
それを守ろうとするのは当然である、こういう発想があるんですが、
この発想自体がですね、実は近代的なものでして、英語の世界でもですね、英語ネイティブの世界でも、
せいぜいできたのはですね、きちっとした形で、強い規範意識として定まったのは18世紀ぐらいのことなんですね。
それ以前からも流れはあるんですけれども、最終的にこれぞ規範というべきものができたのが18世紀。
しかも18世紀の後半なんですね。
この18世紀という時代はイギリスではですね、規範の時代であるとか、あるいは理性の時代、
すべて理性的に物事を考えて行動すべきだというような雰囲気が蔓延していたという時代なので、
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言葉に関してもですね、規範というものが作られやすい、そういう雰囲気にあったってことです。
言葉において規範というのは、まずもってつづり字っていうのがありますね。
それから、語とか語の意味みたいな問題もあります。
それから文法もあります。
そして今回取り上げている発音というのも、規範に従うべきだというプレッシャーが強いものですね。
この各分野においてですね、大体18世紀後半にズバッとこれぞ規範という、
ザ・規範みたいなものが出来上がってくるんです。
まず、つづり字であるとか、いわゆる単語の語形、意味みたいな問題ですね。
これは何と言ってもですね、1755年にサミュエル・ジョンソン、当時の文豪ですけれども、
ドクター・ジョンソンなんて呼ばれますね。
ジョンソン博士のほぼ独力で編纂したDictionary of the English Languageという、
その名前こそ平凡なんですけれども、これが決定的な影響力を持ちました。
つづり字なんかですね、大体これで定まって、現代にまで引き継がれていると。
現代でも規範として仰がれているっていうことですね。
250年以上前なんで、実は多少変化はあったんですが、事実上、90何パーセントということで、
このジョンソンの辞書でもって、つづり字はこれで規範が確定と言っていいと思うんですね。
で、文法に関してもですね、ほぼ同じようなタイミング。
その7年後なんですが、1762年にロバート・ラウスという人物が書いた文法書があります。
Short Introduction to English Grammarというもので、これが爆発的な人気を得ることになるんですね。
ここで文法の細かいことまで色々と書いてあって、これに従うというのが、文法の規範に従うってことなんだということで人気を得た。
その後もですね、1795年にリンドリー・マリーという人がですね、やはり似たような影響力のある文法書を書いて、それも非常に売れることになったんですが、
元祖という言い方で言えば、この1762年のロバート・ラウス、Short Introduction to English Grammar、これが元祖だと言っていいと思うんですね。
さあ、最後に発音なんですけれども、これは少し遅れましたが、18世紀の後半になって、1791年。
この年にですね、ジョン・ウォーカーという人物が、Critical Pronouncing Dictionaryという批判的発音の辞書とでもいいんですかね、これを出した。
当時正しい、権威ある発音を求めていた18世紀のイギリス人たちに、確かな発音上の道しるべを与えた重要な一冊と言っていいと思うんですね。
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初版以降、100以上の版を重ねて人気を博したということで、英米ではElocution Walker、Elocutionというのは有弁術ってことですが、この場合発声法とか正しい発音の仕方ぐらいですね。
それにウォーカーをつけて、Elocution Walkerなんていうふうに大名詞的に呼ばれたものすごい影響力のある辞書、発音辞書ですね。
題材は辞書ということで単語があって、それに意味、語彙が定義が与えられているんですが、重要なのはそこに付された発音記号で、これを見てですね、ウォーカーといえば発音だと。
ウォーカーの辞書の発音を真似すればこれが批判ということなんだというふうに定まったと言っていいと思うんですね。
このウォーカーが最初だったわけではなくて、発音系の辞書っていうのはやはり18世紀後半を中心に一人との関心事だったので、いろいろ出てるんですね。
ライバル辞書としては、その10年ほど前に1780年に、トマス・シェリダンという人も類書、辞書を出しています。
A General Dictionary of the English Languageというものですね。
ですが、最終的によく売れた人々に好まれたのは、このジョン・ウォーカーのA Critical Pronouncing Dictionaryという1791年の出版の辞書だったということなんですね。
この本のタイトルなんですけども、本当はもっと長くてですね、当時の本っていうのはやたらと長いんです。
もう2行3行にわたる文句が、全体があるんで、発書って最初の部分だけ取って、A Critical Pronouncing Dictionaryとだけ言ってますが、実はこれぐらい長いんですね。全部読んでみますね。
A Critical Pronouncing Dictionary and Expositor of the English Language, to which are prefixed principles of English pronunciation, rules to be observed by the natives of Scotland, Ireland and London for avoiding their respective peculiarities, and directions to foreigners for acquiring a knowledge of use of this dictionary.
ということで、これ誰を対象に変算されて、この本を売ろうとしているのかということまで書いてあるわけですね。見合わせているわけです。
これ、スコットランド、アイルランド、そしてロンドンのネイティブズで生まれて英語を喋る人にとって、学ぶべき、真似るべきルールがあるよということです。
つまり、このルールで喋っている規範となる党人は誰なのかというと、もうおそらくイングランドのあるいはロンドンの上流階級というか偉い人々という感じですね。
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先ほど、タイトルにThe Natives of Scotland, Ireland and Londonとありますが、このロンドンというのはスコットランドとアイルランドと比べてのロンドンなので、いわゆるロンドン生まれの国国であるとか、ああいうものを念頭に置いているんだと思うんですね。
そういった生ったあるいは社会的に低いとされる英語を喋っている人は気をつけて、このジョン・ウォーカーの辞書にある発音を真似るんですよというような趣旨の辞書なわけです。
さあ、こうして1791年に出たこの辞書が非常に影響力を持ったんですが、次の世紀、そしてさらに次の世紀、つまり19世紀から20世紀にかけてイギリスではReceived Pronunciation、容認発音という名で引き継がれてですね、現代に至る、そういうことです。それではまた。