客のほとんどが、20代と30代だった
4泊5日で韓国に行ってきた。飲んで食べて、感じることはいろいろあったのだけれど、いちばん引っかかったのは、街で飲み食いしている客のほとんどが若者だったことだ。年配の人がゼロではない。ただ、本当に少ない。人気店に入れば8割、9割が20代から30代という感じだった。夫婦らしき二人連れが食事している場面は、ほとんど見かけなかった。
韓国は日本を上回る超少子化社会である。それなのに街には若者が溢れている。首都圏に人口の半分近くが集中しているという事情はあるにせよ、5日間ずっとそうだったのだから、偶然ではないはずだ。帰ってきてからAIと壁打ちをして、国の統計や民間の調査を片っ端から当たってみた。精密な結論ではないけれど、なんとなく見えてきたものがある。
食費より教育費が高い世帯
まず、若者に余裕があるのかというと、そんなことはない。成人全体の月平均支出が156万ウォン程度なのに対して、20代は83万ウォンほど。ほぼ半分だ。25歳から29歳の雇用率は7割を超えているので、働いてはいる。ただ、自由になる金があるわけではない。では、なぜそれより上の世代が街に出てこないのか。新韓銀行の調査に、中高生の子どもがいる40代世帯の平均像がある。総所得683万ウォン、月の消費が371万ウォン。その内訳の第1位が教育費で、100万ウォンを超える。消費全体の28%だ。食費は75万ウォン、住居費は62万ウォンだから、教育費のほうが食費より高い。
結婚しているが子どものいない世帯だと、教育費は15万ウォンまで落ちて、支出の1位は食費の57万ウォンになる。子どもができた瞬間に、家計の重心が食から教育に移る。日本でここまで極端な世帯は、そう多くないと思う。なぜそこまでかけるのか。韓国は財閥経済だから、大韓航空や現代のような大企業か、あるいは役所。そこに入れなかった人には中小企業しかない。日本のようなグラデーションになっていないので、賃金差は倍近くひらく。子どもをどちら側に送り込むかが、教育費という形で家計にのしかかっている。
40代がピークで、53歳で降りる
さらに厳しいのは、所得の波だ。年齢別の所得は40代の451万ウォンがピークで、50代は429万ウォンと下がりはじめる。60代はもっと減る。法定定年は60歳だが、そこまで同じ職場で勤め上げる人はごく一部で、生涯でいちばん長く勤めた職場を離れる平均年齢は53歳である。理由は事業不振、休廃業、健康問題、家族の介護、そして退職勧告。離職しても雇用率自体は40代、50代でも8割程度あるから、別の場所で働いている。その受け皿が不動産業や飲食店だ。韓国で仕事を辞めた人が「チキン屋でもやるか」と言うのは有名な話で、ヤンニョムチキンという名作料理はそこから生まれた。つまり、狭き門をくぐって大企業に入れたとしても、稼ぎのピークは40代で、そこから降りはじめる。そのいちばん高いところで、稼ぎの3割近くが教育費に持っていかれている。つまり、40代以上は街で飯を食っている余裕がない。だから、いないのだ。
彼らは、食べに来ているのではない
では、20代30代はなぜ街にいるのか。見ていると、彼らは一人ではない。何人かで来て、ずっと喋っている。男女混合が多く、女性だけの集団も見た。そして、女性達はやたらと写真を撮る。正面からではなく、髪を整えて横顔や後ろ姿を、いちばん映える角度で撮る。観光地でも同じ光景を見た。あれをインスタに上げるのだという。日本のインスタは人の投稿を見るものだが、韓国では自分のショーケースとして使われている。要は、相手を探しているのだ。彼らの結婚観は「いい人が現れたら考える」「いい人に出会えなければしなくていい」を合わせると6割ほどになるという。結婚するかどうかが、最適な相手に出会えるかどうかに変換されている。ならば、出会うための仕組みが要る。マッチングアプリのような能動的なやり方ではなく、もっと受動的に、きれいに撮れた自分を置いておく。そして街に出て、いろんな人と喋ってみる。だから、料理をどんどん頼んでいる様子はない。テーブルに空き瓶は並ぶけれど、飲むこと自体が目的には見えない。韓国は放っておいてもキムチや突き出しが出てくるので、つまみに困らないという事情もある。20代の支出項目の1位が食費だというのは、そういうことなのだと思う。飯代ではなく、場所代に近い。韓国のマッチングアプリがどれくらい使われていて、そこからどれくらい成立しているのかは、調べてもよくわからなかった。だから断言はできない。ただ、あの雰囲気は合コンだと僕は感じた。
賑わいの、向こう側
中高年が集まる食堂も、外から見かけはした。そこではみんな黙って、一人で黙々と食べている。人生のどの段階にいるかで、街で食事をすることの意味がまるで違う。今回僕が行ったのは人気店が多かったから、なおさら偏りがあったのだろう。「ウレオク」のように予約が2時間前から必要な店には年配の客もいて、自分で並ばず誰かに順番を取らせておいて、アウディで乗りつけて食べに来ていた。そこまでしても食べたい店ということだ。
けれど庶民的な店になるほど、若者は食事よりも会話をしていた。もっと言えば、より良い出会いを探していた。彼らを観察すると、親密な仲間内というより、初対面に近い空気があった。日本にも若者が仲間内で集まる店はあるけれど、あの感じとは違う。繁華街は盛り上がって見える。若者は元気に見える。でもその向こうに見えていたのは、韓国社会の困難さだった。今日は若者の話をした。では高齢者はどうなのか。それは明日語りたい。
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4泊5日で韓国に行ってきた。飲んで食べて、感じることはいろいろあったのだけれど、いちばん引っかかったのは、街で飲み食いしている客のほとんどが若者だったことだ。年配の人がゼロではない。ただ、本当に少ない。人気店に入れば8割、9割が20代から30代という感じだった。夫婦らしき二人連れが食事している場面は、ほとんど見かけなかった。
韓国は日本を上回る超少子化社会である。それなのに街には若者が溢れている。首都圏に人口の半分近くが集中しているという事情はあるにせよ、5日間ずっとそうだったのだから、偶然ではないはずだ。帰ってきてからAIと壁打ちをして、国の統計や民間の調査を片っ端から当たってみた。精密な結論ではないけれど、なんとなく見えてきたものがある。
食費より教育費が高い世帯
まず、若者に余裕があるのかというと、そんなことはない。成人全体の月平均支出が156万ウォン程度なのに対して、20代は83万ウォンほど。ほぼ半分だ。25歳から29歳の雇用率は7割を超えているので、働いてはいる。ただ、自由になる金があるわけではない。では、なぜそれより上の世代が街に出てこないのか。新韓銀行の調査に、中高生の子どもがいる40代世帯の平均像がある。総所得683万ウォン、月の消費が371万ウォン。その内訳の第1位が教育費で、100万ウォンを超える。消費全体の28%だ。食費は75万ウォン、住居費は62万ウォンだから、教育費のほうが食費より高い。
結婚しているが子どものいない世帯だと、教育費は15万ウォンまで落ちて、支出の1位は食費の57万ウォンになる。子どもができた瞬間に、家計の重心が食から教育に移る。日本でここまで極端な世帯は、そう多くないと思う。なぜそこまでかけるのか。韓国は財閥経済だから、大韓航空や現代のような大企業か、あるいは役所。そこに入れなかった人には中小企業しかない。日本のようなグラデーションになっていないので、賃金差は倍近くひらく。子どもをどちら側に送り込むかが、教育費という形で家計にのしかかっている。
40代がピークで、53歳で降りる
さらに厳しいのは、所得の波だ。年齢別の所得は40代の451万ウォンがピークで、50代は429万ウォンと下がりはじめる。60代はもっと減る。法定定年は60歳だが、そこまで同じ職場で勤め上げる人はごく一部で、生涯でいちばん長く勤めた職場を離れる平均年齢は53歳である。理由は事業不振、休廃業、健康問題、家族の介護、そして退職勧告。離職しても雇用率自体は40代、50代でも8割程度あるから、別の場所で働いている。その受け皿が不動産業や飲食店だ。韓国で仕事を辞めた人が「チキン屋でもやるか」と言うのは有名な話で、ヤンニョムチキンという名作料理はそこから生まれた。つまり、狭き門をくぐって大企業に入れたとしても、稼ぎのピークは40代で、そこから降りはじめる。そのいちばん高いところで、稼ぎの3割近くが教育費に持っていかれている。つまり、40代以上は街で飯を食っている余裕がない。だから、いないのだ。
彼らは、食べに来ているのではない
では、20代30代はなぜ街にいるのか。見ていると、彼らは一人ではない。何人かで来て、ずっと喋っている。男女混合が多く、女性だけの集団も見た。そして、女性達はやたらと写真を撮る。正面からではなく、髪を整えて横顔や後ろ姿を、いちばん映える角度で撮る。観光地でも同じ光景を見た。あれをインスタに上げるのだという。日本のインスタは人の投稿を見るものだが、韓国では自分のショーケースとして使われている。要は、相手を探しているのだ。彼らの結婚観は「いい人が現れたら考える」「いい人に出会えなければしなくていい」を合わせると6割ほどになるという。結婚するかどうかが、最適な相手に出会えるかどうかに変換されている。ならば、出会うための仕組みが要る。マッチングアプリのような能動的なやり方ではなく、もっと受動的に、きれいに撮れた自分を置いておく。そして街に出て、いろんな人と喋ってみる。だから、料理をどんどん頼んでいる様子はない。テーブルに空き瓶は並ぶけれど、飲むこと自体が目的には見えない。韓国は放っておいてもキムチや突き出しが出てくるので、つまみに困らないという事情もある。20代の支出項目の1位が食費だというのは、そういうことなのだと思う。飯代ではなく、場所代に近い。韓国のマッチングアプリがどれくらい使われていて、そこからどれくらい成立しているのかは、調べてもよくわからなかった。だから断言はできない。ただ、あの雰囲気は合コンだと僕は感じた。
賑わいの、向こう側
中高年が集まる食堂も、外から見かけはした。そこではみんな黙って、一人で黙々と食べている。人生のどの段階にいるかで、街で食事をすることの意味がまるで違う。今回僕が行ったのは人気店が多かったから、なおさら偏りがあったのだろう。「ウレオク」のように予約が2時間前から必要な店には年配の客もいて、自分で並ばず誰かに順番を取らせておいて、アウディで乗りつけて食べに来ていた。そこまでしても食べたい店ということだ。
けれど庶民的な店になるほど、若者は食事よりも会話をしていた。もっと言えば、より良い出会いを探していた。彼らを観察すると、親密な仲間内というより、初対面に近い空気があった。日本にも若者が仲間内で集まる店はあるけれど、あの感じとは違う。繁華街は盛り上がって見える。若者は元気に見える。でもその向こうに見えていたのは、韓国社会の困難さだった。今日は若者の話をした。では高齢者はどうなのか。それは明日語りたい。
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