199 書誌 | 今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』(2023) - TanaRadio
今井むつみ・秋田喜美『言語の本質——ことばはどう生まれ,進化したか』中公新書,2023.5,277phttps://www.chuko.co.jp/shinsho/2023/05/102756.html参考:188 書誌 | 今井むつみ『学力喪失』(2024)本エピソードのAIによる要約2023年5月に刊行された今井むつみさんと秋田喜美さんの共著『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)は、全277ページにわたる内容の濃い一冊です。この本に興味を持ったきっかけは、今井さんの著書『学力喪失』を読んだことでした。今井さんの他の本も読んでみたくなり,この本の前年に出版され,2024年の新書大賞を受賞するなど話題にもなっていた本書『言語の本質』を購入して読んでみました。本書はタイトル通り「言語の本質」という壮大なテーマに挑んでいますが、オノマトペ(擬音語や擬態語)を手がかりに、その本質を探るというユニークな視点で書かれています。内容は非常に豊富で、一度読んだだけでは十分に理解しきれない部分もありますが、著者の伝えたいメッセージはおおむねつかめたように思います。本書を読みながら、以前読んだ『学力喪失』の内容も思い出しました。『学力喪失』では、現代の子どもたちが本来持っている「学ぶ力」が失われつつある状況が問題視されています。しかし、子どもたちは幼少期に、誰から教えられるでもなく自分の力で言葉を習得するという驚くべき能力を発揮しています。この本では、その「学ぶ力」と言語習得の関係性について掘り下げられていました。その中でも、特に印象に残ったのが「記号接地」という概念です。これは、言葉を身体的な感覚と結びつける人間特有の力を指します。そして、この力を育むには「経験」が重要だと説かれています。ただし、単に経験すればいいのではなく、「失敗」が学びにおいて非常に大切だという点が強調されていました。例えば、子どもが言葉を誤解したり、言い間違いをしたりすることは、大人から見れば単なる「間違い」に見えますが、実際は子どもなりに推論を働かせた結果であり、非常に理にかなったプロセスです。このような「失敗」を繰り返すことで、子どもは正しい言葉の使い方を学んでいきます。また、この本を読み進める中で、科学の歴史との関連性も思い出しました。たとえば、トーマス・クーンの『科学革命の構造』で提唱された「パラダイム」の概念です。この言葉は、もともと科学史における思考の枠組みを示すものでしたが、現在では一般的に「思考の枠組み」という意味で使われるようになりました。クーンの議論によると、あるパラダイムを習得するには典型的な事例を様々なケースに当てはめてみて、失敗を犯しながらそのパラダイムの適用範囲を身につけていきます。このプロセスは、子どもが言葉を学ぶ際に失敗から学び取るプロセスとよく似ています。つまり、科学知識の習得と言語習得には「アプダクション(仮説形成と修正)」という共通の方法論があるのです。このような学びの本質を考えると、大人が失敗を恐れることが、学びの障害になることがよく分かります。特に外国語学習では、間違えることを恥ずかしく感じるあまり、言葉を発することさえ躊躇してしまう人が多いのではないでしょうか。しかし、失敗を恐れずに挑戦できる環境があれば、大人でも学びを深められるはずです。例えば、AIを活用して外国語を練習することも一つの方法です。AIなら失敗を笑ったり否定したりしないため、自由に試行錯誤できます。もちろん、理想的には人間同士で気軽に失敗できる環境が望ましいですが、AIは恥ずかしさを克服する手段として有効でしょう。『言語の本質』は、言語学や学びの本質について深く考えさせられるだけでなく、関連する多くのテーマに思いを巡らせるきっかけを与えてくれる刺激的な一冊でした。この本を読みながら改めて、学ぶためには失敗を受け入れる環境づくりが重要だと感じました。これからの教育や学びにとって、大切なヒントを与えてくれる本だと思います。#書誌 #言語 #学び #今井むつみ