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スピーカー 2
あの,日本が抱える最も深刻な危機の一つに,
世代間の繋がりの完全な崩壊というのがありますよね。
スピーカー 1
本当に深刻な問題です。
スピーカー 2
で,これをですね,木の駒とか,一本の紐だけで解決しようとしている人たちがいると言ったら,あなたはどう思いますか?
スピーカー 1
いや,最初はちょっと冗談かなって思うかもしれませんね。
スピーカー 2
ですよね。でもこれ決して冗談じゃないんですよ。
スピーカー 1
はい。
スピーカー 2
今回の徹底探求ではですね,私たちが普段単なるノスタルジーとか,お年寄りの趣味として片付けてしまいがちな,
剣玉やおはじき,ベーゴマといったいわゆる昔遊びがテーマです。
スピーカー 1
昔遊びですね。
スピーカー 2
この昔遊びが実は現代日本においていかに高度な社会インフラとして機能しているかを解き明かしていこうかなと。
スピーカー 1
なるほど。ただのレクリエーションではなくて,地域社会を支える非常に成功なシステムデザインのお話ということですね。
スピーカー 2
そうなんです。今回,科研の研究成果報告書ですとか,学術論文,自治体の事例集とか,おもちゃ博覧会の案内,YouTubeの動画テキストなんかをいろいろと読み込んでいったんですが,
スピーカー 1
はい,滝に渡る車両でしたね。
スピーカー 2
いろいろ見ていてふと思ったんですけど,現代の昔遊び広場って,地域コミュニティのためのモバイルバッテリーみたいなものなんじゃないかと。
スピーカー 1
モバイルバッテリーですか?
スピーカー 2
はい。一見すると,おじいちゃんおばあちゃんと子どもたちが過去へタイムスリップして遊んでいるように見えるんですが,
実はあれ,枯渇しかかっている地域の未来のエネルギーを過去の知恵を使って急速チャージしているんですよ。
スピーカー 1
地域の活力を充電するモバイルバッテリー,それはすごく面白い視点ですね。
スピーカー 2
ですから,今これを聞いているあなたが,教育関係者であれ,ビジネスパーソンであれ,あるいは最近近所の人と全然話してないなーって感じている一人の生活者であれ,
この遊びの裏に隠されたシステムから学べることは驚くほど多いはずなんです。
スピーカー 1
間違いないですね。
スピーカー 2
よし,じゃあ早速ひも解いてみましょう。
そもそもなんですが,なぜ今わざわざ意図的な広場を作る必要があるんでしょうか?
スピーカー 2
昔は道端とか茶の間でみんな勝手に遊んでましたよね?
えっと,そこがまさに私たちが直面している問題の核心でして,勝手に遊んでいた時代はもう終わってしまったんです。
スピーカー 2
終わってしまった?
スピーカー 1
はい。データを見ると日本の社会構造の変化は私たちの想像以上に劇的なんですよ。
スピーカー 2
というと?
スピーカー 1
例えば1989年には3世代が同居している世代は全体の約14.2%ありました。
スピーカー 2
はいはい。
スピーカー 1
それが2011年にはなんと7.4%にまで半減しているんです。
スピーカー 2
えーと半分以下ですか?
スピーカー 1
そうなんです。つまりおじいちゃんおばあちゃんから孫へとか,近所の路地裏で年上の子から年下の子へっていう遊びが自然に受け継がれるエコシステムが物理的に消滅してしまったということなんです。
スピーカー 2
なるほど。日常的な伝承遊びが自然発生しなくなった背景にはそういう明確な数字の落ち込みがあるんですね。
スピーカー 1
ええ。でこの自然な継承の断絶がいかに深刻かを示す例として,長野県天龍村の坂部地区の事例が非常に象徴的なんですが,
スピーカー 2
あーUTVの資料にあった村ですね。
はい。ここでは坂部の冬祭りというなんと600年も続く伝統的なお祭りがあります。
600年,室町時代からずっと途切れずやってきたわけですか?
スピーカー 1
ええ。このお祭りには神子という舞を披露する重要な役割があるんですけども,
過疎化と高齢化が極限まで進んでしまって村の若者だけでは担い手が全くいなくなってしまったんです。
スピーカー 2
うわーそれは厳しいですね。
スピーカー 1
結果としてどうなったかというと,実に8年もの間その役割が空席のままになってしまいました。
スピーカー 2
8年間の空白,いやー600年続いてきたものが自分の世代で途切れてしまうっていう村の人たちの焦りとか喪失感はちょっと想像を絶しますね。
スピーカー 1
そうですよね。で最終的には地域おこし協力隊として外部からやってきた若い男性がその役割を引き受けることでようやく復活を果たしたんです。
スピーカー 2
あー良かった。でもそれってもう村の中だけでは完結しなかったということですよね?
スピーカー 1
まさにそこなんです。ここで注目すべきは伝統文化や世代間のつながりというものがもはや放っておいても自然に受け継がれるものではなくなってしまったと。
外部の力とか明確な意図を持って介入する一つのプロジェクトとして設計しなければ生き残れない時代になったという現実なんです。
スピーカー 2
いやでもちょっと待ってください。かつては茶の間で自然に行われていたことをわざわざプロジェクトとか企画として人為的に作り出すのって少し不自然というか息苦しくないですか?
スピーカー 1
不自然と言いますと?
スピーカー 2
なんかこうはい今から3数えますから世代を越えて自然に笑いあってください。1,2,3って言われてるような自然に死滅していく文化ならそのまま寿命を迎えさせるのも一つの道なんじゃないかなって。
スピーカー 1
おっしゃる意味はよくわかります。ある種の人工的な感じは否めませんよね。しかしここで重要なのはなぜそこまでして人為的にデザインしなければならないのかという理由なんです。
スピーカー 2
理由。
スピーカー 1
結論から言うとこれは単なる文化の保存ではなくて、現代の地域包括ケアシステムを成立させるためのいわば生存戦略なんですよ。
スピーカー 2
地域包括ケアシステム。よく聞くお役所言葉ですけどリスナーの生活に落とし込むと具体的にどういうことなんでしょうか。
スピーカー 1
簡単に言えば医療や行政だけではもう高齢者や子どもを支えきれないからご近所同士で日常的に見守り合う安全網、つまりセーフティーネットを作りましょうという構想です。
スピーカー 2
なるほど。
スピーカー 1
でも今日からご近所で助け合ってくださいって言われても普段挨拶もしない隣人を突然助けることなんてできないじゃないですか。
スピーカー 2
確かにマンションの隣に誰が住んでるかもしれないのにいきなり見守り合いましょうは無理がありますよ。
スピーカー 1
だからこそ昔遊びというコンテンツを口実にして意図的に顔を合わせる場をデザインする必要があるんです。
スピーカー 2
ははーなるほど。
スピーカー 1
遊びを通じて人間関係というインフラを構築しておかないと、いざという時の孤立死や子どもの見過ごされた貧困といった致命的な社会リスクを回避できないんですよ。
スピーカー 2
あー腑に落ちました。自然の森が切り開かれてしまったから生き残るために都市の中に計画的に公園とか緑地を作らなきゃいけないみたいな切実な理由があるんですね。
スピーカー 1
まさにそういうことです。
スピーカー 2
じゃあその人為的な場作りが不可欠だとして、実際に現場ではどうやってあの不自然さを乗り越えて実装しているんでしょうか。
いくつか事例を見ると大きく3つのアプローチで展開されているようですが。
はい、環境や目的に合わせて非常に賢く実装されています。
スピーカー 1
まず一つ目が学校教育連携型ですね。
宇都宮市の石井小学校や天理市の福島小中学校などで授業の一環として地域の老人クラブの方々を昔遊びの名人として招くパターンです。
スピーカー 2
ここで私が面白いなと思ったのは天理市の学校のケースなんですが、ただコマを回して楽しかったねーで終わらないんですよね。
今の遊びと昔の遊びの違いを考えさせるというステップが組み込まれている。
スピーカー 1
そうなんです。
スピーカー 2
例えば今の子供たちの遊び道具ってほとんどがプラスチック製で壊れたら捨てるブラックボックスじゃないですか。
スピーカー 1
直せないですよね。
スピーカー 2
でも昔の遊び道具は木や竹などの身近な素材でできていて、壊れても自分たちで削って修繕できる。
スピーカー 1
はい、単に遊び方を教わるだけではなくて物質文化の違いや持続可能性、つまりSDGs的な視点を体験を通して学ばせているんです。
素晴らしいですね。
スピーカー 2
そして2つ目のアプローチが地域福祉拠点型。
社会福祉協議会などが主導するパターンですが、大阪の堺市の事例は本当に柔軟性が高くて驚きました。
スピーカー 2
あー、みんな集まれ交流広場ですね。
スピーカー 1
はい。高齢者と子供が遊んでいる最中に誰かがお腹が空いたってポロッとこぼしたそうなんです。
普通ならじゃあお家に帰ってご飯食べなさいって終わりますよね。
スピーカー 1
そうですよね。しかし彼らはその小さなつぶやきを見逃さずに、なんと翌日にはプログラムにホットケーキ作りを追加したんです。
スピーカー 2
いや、このフットワークの軽さ。
スピーカー 1
さらに冬休みにはバザーや食事会を閉鎖するようになりました。
スピーカー 2
これ実はすごいことですよね。遊びを入り口にして集めつつ、最終的には子どもや高齢者の孤食、つまり一人ぼっちでご飯を食べるという現代の大きな問題を解決するセーフティーネットの機能まで果たしてしまっている。
スピーカー 1
その通りです。
大阪の大正区や千葉県の阿鼻子市のイベントなんかでも、あやとりやけん玉のイベントに100名以上が集まるほどの熱気だったと。もう立派な地域のハブですよね。
スピーカー 1
本当にハブとして機能しています。そして3つ目が屋外常設型、いわゆるプレーパークです。
スピーカー 2
プレーパーク?
スピーカー 1
はい。1979年に誕生した羽木プレーパークなどを筆頭に全国に広がっていますが、特に興味深いのは荒川区の西日暮里公園の事例です。
スピーカー 2
ああ、あの事例ですね。2009年に地域の人たちが立ち上がった当時のその公園って、薄暗くて子どもが近寄りがたい、ちょっと治安の悪い場所だったそうじゃないですか。
スピーカー 1
ええ、そうなんです。しかしそこに、ベーゴマや竹トンボといった昔遊びを持ち込んで、大人が本気で遊ぶ場を作ったんですね。
スピーカー 2
大人が本気でというのがいいですね。
スピーカー 1
すると公園が活気を取り戻して、子どもたちが安心して過ごせる場へと劇的に生まれ変わったんです。
スピーカー 2
へえ、すごい効果だ。
スピーカー 1
福島県藍洲若松市の事例でも、普段の公園では禁止されがちな焚火とか竹を使った巨大なピタゴラ装置作りなど、ダイナミックな非日常体験を提供しています。
スピーカー 2
これら3つのアプローチを聞いていて思ったんですけど、これってまるでオープンソースのソフトウェアみたいじゃないですか。
スピーカー 1
オープンソースと言いますと?
スピーカー 2
昔遊びっていう誰でも無料で使える基本のソースコードがあって、それを現場のニーズに合わせて自由にカスタマイズしている。
スピーカー 1
ああ、なるほど。
スピーカー 2
学校という教育のハードウェアにインストールすればSDGs学習モットになり、福祉施設に入れれば固食防止バージョンになり、公園に入れれば治安回復非日常体験モットになるっていう。
スピーカー 1
非常に的確なアナロジーですね。
基本のソースコードが極めてシンプルで、かつ長年の歴史でバグ出しが済んでいる堅牢なものだからこそ、どんな環境にもインストールしてアップデートできるわけです。
スピーカー 2
でもここで一つ素朴な疑問が湧くんですよ。リスナーの皆さんもきっと思っているはずです。
はい、なんでしょうか。
スピーカー 2
なぜ、あえて昔遊びじゃなきゃダメなのって。
スピーカー 1
ああ、なるほど。
スピーカー 2
現代にはもっと洗練されたレクリエーションがありますよね。おじいちゃんと孫が交流するなら、一緒に任天堂スイッチでマリオカートをやればいいじゃないですか。なぜ木のおもちゃにこだわるんでしょうか。
スピーカー 1
それには、農科学的な裏付けと深い心理学的メカニズムが関係しているんです。
スピーカー 2
ほう、農科学。
スピーカー 1
まず子供側のメリットですが、けん玉やおはじきといった伝承遊びは、画面をタップするのとは次元の違う手先の高知性、つまり極めて微細な物理的コントロールを要求します。
スピーカー 2
はいはい。
これが子供の脳の前頭葉を直接的に刺激して、認知機能や集中力を発達させることがわかっているんです。
スピーカー 2
確かに、資料にあったけん玉名人のYouTube動画のデータを見ると、けん玉って手先だけの遊びじゃないんですよね。
スピーカー 1
ええ、そうです。
スピーカー 2
曲げて伸ばして、1、2、3のリズムっていうように、膝の屈伸とか全身の強調性、体幹の安定が不可欠なんだと。
ただ遊んでいるように見えて、実は高度な身体的認知的トレーニングになっているんですね。
スピーカー 1
はい。しかし、それ以上に重要なのが、高齢者側にもたらされる心理的メリットなんです。
ここがテレビゲームとの大きな違いになります。
スピーカー 2
というと?
スピーカー 1
心理学の用語に、ジェネラティビティという言葉がありまして。
スピーカー 2
ジェネラティビティ、聞き慣れない言葉ですね。
スピーカー 1
日本語では、次世代への貢献意識などと訳されます。
人は年齢を重ねると、自分は次の世代に何かを残せているだろうかとか、まだ社会の役に立っているだろうかという欲求を持つようになるんです。
ああ、なるほど。
スピーカー 1
学術的な研究データによれば、昔遊びを通じて子どもに何かを教えたり、一緒に遊んだりする経験は、このジェネラティビティを著しく満たして、高齢者の生きがいを優位に向上させるんです。
スピーカー 2
はあ、だから福島県郡山市の実践事例にあった84歳のおばあちゃんがフラダンスを教えたり、75歳のおじいちゃんが自宅の庭を柴桜のフラワーパークに改造して子どもたちを招き入れたりしているのも、まさにそれなんですね。
スピーカー 1
その通りです。
スピーカー 2
彼らは、ケアされるべきかわいそうな高齢者ではなくて、教える側、場を提供するホストとして強烈な自己肯定感を得ているわけだ。
スピーカー 1
ええ。伝統的な昔遊びが絶妙なのは、お年寄りが圧倒的な熟練者として振る舞える、現代において数少ない領域だからなんです。
スピーカー 2
ああ、なるほど。それはゲームじゃ勝てないですね。
スピーカー 1
ただ、ここでさらに面白いパラダイムシフトが起きています。
パラダイムシフトというと?
スピーカー 1
かつては、お年寄りが一方的に子どもに教えるという縦の関係でした。
しかし最近では、日本玩具文化財団が主催するような、おもちゃの歴史展で3世代が一緒にブリキのおもちゃや、現代のプラスチックのおもちゃを見て語り合ったり、
スピーカー 2
はいはい。
スピーカー 1
ケンダマクロスやベイブレードといった、昔遊びを現代風にアレンジしたおもちゃを使ったりする事例が増えているんです。
スピーカー 2
ああ、それならお年寄りにとっても子どもにとっても新しいルールだから、
どっちかが教えるんじゃなくて、双方で一緒に攻略法を考える競争型のコミュニケーションが生まれるわけですね。
教えてあげるから、一緒にクリアするへの進化だ。
スピーカー 1
ええ。物理的な手触りや身体性を伴うアナログなおもちゃは、画面上のゲームよりも失敗した時の動きが予測不可能で、
それがリアルな笑いや直接的な共同を生み出しやすいんです。