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【試験放送】江戸川乱歩「指」をよむ【青空文庫朗読】
2026-07-22 04:48

【試験放送】江戸川乱歩「指」をよむ【青空文庫朗読】

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「いいだろうか、右手の指を少し動かしても……新しい作曲をしたのでね、そいつを毎日一度やってみないと気がすまないんだ」


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水曜22時ごろに受信できるかもしれない深夜ラジオ「273Hzの空耳」の試験放送です。

#おやすみ前に #睡眠導入 #作業用BGM


本棚の隙間、レコードの穴のむこう、或いは、あなたのみみたぶのかげ。273Hzの空耳が きこえますか?


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サマリー

主人公は、ピアニストである親友の右手首切断という悲劇に直面する。患者はまだ事実に気づいていないが、主人公は彼の指が動くという幻覚を利用し、ピアニストとしての希望を繋ぎ止めようとする。しかし、手術室の棚に置かれた切断された手首が動いているのを目撃し、衝撃を受ける。

手術と患者の意識
患者は手術の麻酔から醒めて私の顔を見た。
右手に厚ぼったく包帯が巻いてあったが、手首を切断されていることは少しも知らない。
彼は名のあるピアニストだから、右手首がなくなったことは致命傷であった。
犯人は彼の名声を妬む同業者かもしれない。
彼は闇夜の道路で、行きずりの人に鋭い刃物で右手首関節の上部から切り落とされて、気を失ったのだ。
幸い私の病院の近くでの出来事だったので、彼は失神したままこの病院に運び込まれ、私はできるだけの手当をした。
「あ、君が世話をしてくれたのか。ありがとう……酔っぱらってね、暗い通りで、誰かわからないやつにやられた……右手だね。指は大丈夫だろうか」
「大丈夫だよ。腕をちょっとやられたが、なに、じきに治るよ」
私は親友を落胆させるに忍びず、もう少し良くなるまで、彼のピアニストとしての生涯が終わったことを、伏せておこうとした。
「指もかい。指も元の通り動くかい」
「大丈夫だよ」
私は逃げ出すようにベッドを離れて病室を出た。
付き添いの看護婦にも、今しばらく、手首がなくなったことは知らせないように、固く言いつけておいた。
患者の幻覚と医師の対応
それから二時間ほどして、私は彼の病室を見舞った。
患者はやや元気を取り戻していた。
しかし、まだ自分の右手をあらためる力はない。手首のなくなったことは知らないでいる。
「痛むかい」
私は彼の上に顔を出して尋ねてみた。
「うん、よほど楽になった」
彼はそう言って、私の顔をじっと見た。
そして毛布の上に出していた左手の指をピアノを弾く格好で動かし始めた。
「いいだろうか、右手の指を少し動かしても……新しい作曲をしたのでね、そいつを毎日一度やってみないと気がすまないんだ」
私はハッとしたが、咄嗟に思いついて、患部を動かさないためと見せかけながら、彼の上膊の尺骨神経の個所を、指で圧さえた。
そこを圧迫すると、指がなくてもあるような感覚を脳中枢に伝えることができるからだ。
彼は毛布の上の左手の指を、気持ちよさそうに、しきりに動かしていたが
「ああ、右の指は大丈夫だね。よく動くよ」
と、呟きながら、夢中になって架空の曲を弾きつづけた。
私は見るにたえなかった。
看護婦に患者の右腕の尺骨神経を圧さえているように目顔で指図しておいて
足音を盗んで病室を出た。
衝撃的な発見
そして手術室の前を通りかかると
一人の看護婦がその部屋の壁にとりつけた棚を見つめて、突っ立っているのが見えた。
彼女の様子は普通ではなかった。
顔は青ざめ、目は異様に大きくひらいて、棚に乗せてある何かを凝視していた。
私は思わず手術室に入って、その棚を見た。
そこには彼の手首をアルコール漬けにした大きなガラス瓶が置いてあった。
一目それを見ると、私は身動きができなくなった。
瓶のアルコールの中で、彼の手首が、いや、彼の五本の指が白い蟹の脚のように動いていた。
ピアノのキイを叩く調子で、しかし、実際の動きよりもずっと小さく、
幼児のように、たよりなげに、しきりと動いていた。
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