音夢パンダの声の葛藤
守りたい声があったから 音夢パンダのV人生はここから始まった
序章 声がずっと嫌いだった
僕が音夢パンダという名前で声を届けて生きていこうと決めたのは、単にVTuberという存在に憧れたからでも、目出したかったわけでも、誰かの目に止まりたかったからでもありません。
その選択の根には、ずっと心の底に沈み込んでいた声という存在への葛藤と、それでも消えずに残り続けてきたほんの小さな希望がありました。
この名前や活動のスタイルには、いくつかのきっかけがあります。
でも、なぜ僕が声という表現手段にこだわり続けるのか、その問いに対する答えは、
もっと静かで、もっと深いところにあるのだと思っています。 だから今日は、その原点とも呼べる記憶をたどりながら、僕の中でずっと言葉にならずにいた思いを、静かに丁寧に綴ってみたいと思います。
僕は自分の声がずっと嫌いでした。 物心がついた頃から、周囲の子供たちとは少し違った高さの声をしていたことに気づいていました。
その声は時に、「かわいいね!」と言われることもあったけれど、それ以上に笑われたり、からかわれたり、無視されたりといった苦い経験の方が多く残っています。
男子たちには、「声高っ!」とからかわれ、女子たちには、「ぶりっ子っぽいよね!」と面と向かって言われたり、
かげ口を言われ、無視されたりしたこともあります。 ただ普通に話しているだけなのに、
どうしてそんな風に受け取られるんだろうと、いつも心の奥がざわついていました。
そういった日々の中で、僕は少しずつ自分の声に対して、これは人を遠ざけてしまうものなのだ、と思うようになっていったのです。
ある日、自分の声を録音してみたことがあります。 そんなにおかしいかなと、半分怖がりながらも確かめてみたくなったんです。
そして再生してみた瞬間、そこから聞こえてきたのは、
信じられないほど高く軽い声、まるでアニメのキャラクターみたいで自分とは思えませんでした。
自分ではもっと落ち着いて話しているつもりだったのに、 そこには想像していたものとは全く異なる誰かが存在していて、耳を塞ぎたくなるほどの
違和感に襲われました。 これじゃあ笑われても仕方ないかもしれないと思ったのを今でも覚えています。
その夜、僕は布団の中でじっと天井を見つめながら眠れずにいました。 心がじわじわと冷えていくような、
一人ぼっちの感じだけがずっと胸に残っていました。 泣きたかったわけではありません。
けれど何かが深く傷ついてしまったことだけははっきりとわかりました。 それから僕は声を隠すようになりました。
感情をできるだけ抑えて低めのトーンで話すようになり、 髪も短くして服もボーイッシュなものばかりを選ぶようになって、
自分のことを僕と呼び始めました。 それは自分らしさというより誰にも触れられないようにするための仮の姿だったのかもしれません。
グループでつるむような女子のノリにも初めから馴染めませんでした。 でも誰かとつながっていたくて、笑われたくなくて、せめて空気を壊さないように
愛想笑いだけは上手になっていきました。 中学生になる頃には
僕は一人が好きだからと自分に言い聞かせて、 孤独を選んでいるふりをして他人との距離を保っていました。
そして一匹狼キャラを装うようになってきました。 高校生になると少しずつ周りの空気が変わっていきました。
大人になってきたというか、あからさまに茶化すような人も減ってきました。 僕自身も必要以上に身構えず話せるようになっていた気がします。
そんなある日、ふとした会話の中で また声について言葉をかけられました。
声綺麗だね。癒される声してるよね。 すごく可愛い声をしている。
こういう言葉は小さな頃から呼ばれたことはありました。 でもその度に笑われた記憶が頭をよぎって
また裏でネタにされてるんじゃないかと疑ってしまって、素直に受け止めることができなかったんです。 褒め言葉のように聞こえても
本当は笑ってるんでしょ?って 心のどこかで疑ってしまって
嬉しさよりも先に冷たさが胸に広がってしまう。 褒められることと傷つくことがいつも一続きになっている気がしていました。
けれどその日だけはほんの少しだけ違いました。 まるで声優さんみたいだね。
声優になればいいのに。 その一言がなぜかまっすぐ心に入ってきて
小さくて暖かい火を灯されたような気がしたんです。 えっ、僕が声優?
その言葉を受けた瞬間、僕の中で何かが止まりました。 信じられなかったし、すぐには意味がつかめなかったけれど
その言葉だけはなぜかまっすぐ心に届いたんです。 信じたいけど信じられない。
でも心のどこかではずっとそう言ってほしかったのかもしれません。 その日僕の中に一つの思いが生まれました。
もしかしたら自分の声でも誰かの心を温められるかもしれない。 そんな風に思ったのは多分人生で初めてのことでした。
声で誰かの心に何かを届けられるかもしれない。 ずっと避けていたはずの自分の声にそんな可能性を見出しかけた瞬間でした。
とはいえ、そこで夢に向かって一直線にとは行きませんでした。 だって僕の中にはまだ
からかわれた記憶も自己否定もたくさん残っていたからです。 次回はそこから僕がどんな風に進もうとして
どこで一旦立ち止まり、そしてどんな出会いによってまた声に引き戻されたのか その続きをもう少し深く書いてみようと思います。
声の新たな可能性
また読んでもらえたら嬉しいです。 ここまで読んでくれてありがとう。
ではまた。 僕のイケボどこ行った?