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ねずみの嫁入り 楠山 正雄
むかしむかし ある家のお蔵の中に
お米を持って 麦を持って
泡を持って 豆を持って
大層豊かに暮らしている お金持ちのネズミが住んでおりました。
子供がないので神様にお願いしますと やっと女の子が生まれました。
その子はずんずん大きくなって 輝くほど美しくなって
それはネズミのお国で誰一人比べるもののない 日本一の良い娘になりました。
こうなるともうネズミの仲間には見渡したところ とても娘のお婿さんにするようなものはありませんでした。
ネズミのお父さんとお母さんは うちの娘は日本一の娘なのだから
なんでも日本一のお婿さんをもらわなければならない と言いました。
そこでこの世の中で誰が一番偉いかというと
それは高い高い空の上から世界中を明るく照らしておいでになる お日様の他にはありませんでした。
そこでお父さんはお母さんと娘を連れて 天へ登っていきました。
そしてお日様に
お日様お日様 あなたは世の中で一番偉いお方です。
どうぞ私の娘をお嫁にもらってくださいまし と言って
丁寧にお辞儀をしました。 するとお日様はニコニコなさりながら
それはありがたいが 世の中には私よりもっと偉いものがあるよ
とおっしゃいました。 お父さんはびっくりしました。
まああなたよりも偉い方があるのですか それはどなたでございますか
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それはクモさ 私がいくら空でカンカンてっていようと思っても
クモが出てくるともうダメになるのだからね
なるほど お父さんはそこで今度はクモのところへ出かけました
クモさんクモさん あなたは世の中で一番偉いお方です
どうぞ私の娘をお嫁にもらってくださいまし それはありがたいが
世の中には私よりもっと偉いものがあるよ お父さんはびっくりしました
まああなたよりも偉い方があるのですか それはどなたでございますか
それは風さ 風に吹き飛ばされては私もかなわないよ
なるほど お父さんはそこで今度は風のところへ出かけていきました
風さん風さん あなたは世の中で一番偉いお方です
どうぞ私の娘をお嫁にもらってくださいまし それはありがたいが
世の中には私よりもっと偉いものがあるよ お父さんはびっくりしました
まああなたよりも偉い方があるのですか それはどなたでございますか
それは 壁さ
壁ばかりは私の力でもとても吹き飛ばすことはできないからねー
なるほど お父さんはそこでまたのこの壁のところへ出かけていきました
壁さん壁さん あなたは世の中で一番偉いお方です
どうぞうちの娘をお嫁にもらってくださいまし それはありがたいが
世の中には私よりもっと偉いものがあるよ お父さんはびっくりしました
まあ あなたよりも偉い方があるのですか
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それはどなたでございますか それは誰でもない
そういうネズミさんさ 私がいくら真っ四角な顔をして
固くなって頑張っていても ネズミさんは平気で私の体を食い破って
穴を開けて通り抜けていくじゃないか だから私はどうしてもネズミさんにはかなわないよ
なるほど とネズミのお父さんは今度こそ本当に真から感心したように
ポンと手を打って これは今まで気がつかなかった
じゃあ私どもが世の中で一番偉いのですね ありがたい
ありがたい とニコニコしながら威張って帰っていきました
そして帰ると早速 お隣の中透けネズミを娘のお婿さんにしました
若いお婿さんとお嫁さんは仲良く暮らして お父さんとお母さんを大事にしました
そしてたくさん子供を産んで お蔵のネズミの一家はますます栄えました
