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チューリップの芽 小川未明
チューリップは土の中でお母さんから世の中に出てからのいろいろの面白い話を聞いて
早く芽を出したいものと思っていました。 蝶々はどんなに美しいの?
と、お母さんに尋ねたりしました。 そんなに急いではいけません。
いい自分になったらお母さんが言ってあげます。 それまではおとなしくして待っておいでなさい。
と、お母さんは悟されました。 けれど今年出るチューリップは我慢していることができませんでした。
お母さん、もう芽を出してもいいでしょ? と言いました。
いいえ、まだいけません。 と、お母さんは許されなかったのです。
けれどとうとうチューリップは我慢ができなくなって 銀色の可愛らしい芽を土の上へ出しました。
なんという明るい世界でありましたでしょう。 けれどまだ少し早かったので
太陽は遠く、風が寒うございました。 可愛らしいチューリップは身ぶるいしなければなりませんでした。
しかし一度芽を出したからはもはやどうすることもできませんでした。
チューリップは土の中の暗い世界が恋しくなって お母さんの言うことを聞かなかったことを後悔しました。
この時畑を見舞ってきた親切なおじいさんは チューリップの目が震えているのを見て
ああ、まだ少し早い。 今出たら下にいたんでしまおう。
と言って桑でチューリップの頭の上へ 土をかけてくれました。
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チューリップは再び温かな世界へ入って 春の来るのを待つことになりました。
