沼尻軽便鉄道へのマニアックな着眼点
こんにちは。こんにちは。今回の資料ですが、送ってくださった方、正直に言いますね。あの、白黒で描かれた1966年の社会派ドラマをですね、背景にほんの数秒映るだけの、絶滅した鉄道を見るためにだけに再生するなんて、最高にクレイジーな探究シーンだなと。
えー、本当に井上城町にあった、医用運搬用の沢木路線、沼尻軽便鉄道ですね。はい。この、極めてミクロな執着から出発した今回の資料の深掘りなんですが、対象は、日活映画の太陽が大好きです。これがまあ実は、福島県の歴史とポップカルチャーが激突する、とんでもない交差点だったんですよ。
私、この鑑賞理由を聞いた時、何て言うか、数秒の隠しトラックを聞くためにだけに、アルマムを丸ごと買うようなものだなと思ったんです。あー、まさにそんな感じですよね。ですよね。でも結果的に、そのマニアックな視点がすごい扉を開いちゃいました。だって浜田光雄さんとか、足川泉さんとか。
映画の舞台と時代の背景
ええ、それに、後にカジメイコとして大ブレイクする前の太田政子さんまで出ているという超豪華キャストで。そうそう。特定のディテールへの執着が、予期せぬ歴史的文脈を引き寄せるというすごくいい例ですよね。面白いのは、送ってくださった方の入り口は井上城の鉄道でしたけど、映画のメインの舞台はそこじゃないっていう点なんです。あ、そうなんですよ。実際の舞台は、当時の内郷市、今のいわき市ですよね。でもちょっと待ってください。
はい、なんでしょう。太陽が大好きってタイトルなら、なんか湘南の海辺で若者がサーフィンでもしているような陽気な青春映画を想像するじゃないですか。普通はそう思いますよね。なんで舞台が平山か間近の薄暗い炭鉱町なんですか。そこにですね、1966年という時代の強力なメカニズムが働いているんですよ。当時はエネルギー革命の真っ只中で。はいはい、石炭から石油へ、ですよね。
その通りです。国の主要エネルギーが石炭から安い輸入石油へと、ものすごいスピードで切り替わっていた時期なんですね。
なるほど。つまり、ただ単に不景気だっていう話じゃなくて、国全体のインフラの根底が変わることで、昨日までエリートだった炭鉱の町が、明日生き残れるかわからないサバイバル状態に叩き落とされたと。
ええ、物理的にそうなってしまったわけです。スパリゾートハワイアンズとして有名な巨大レジャー施設が誕生して、町が劇的に生まれ変わるほんの少し前の時期なんですよね。
ああ、あのハワイアンズの直前。
そうなんです。比喩や働きながら定時制高校で学ぶ若者たちのヒリヒリとした早々感が描かれていて、これがフィクションの枠を越えて産業構造が崩壊する瞬間の生々しい人類学的記録として残っているんです。
「太陽が大好き」というタイトルの意味
だからこそ切実なドラマになっているんですね。でも、過酷な炭鉱労働と太陽が大好きっていうタイトルがどうしても頭の中で結びつかないんですよ。
と言いますと?
だって真っ暗な行動で働いているのになぜ太陽なんですか?もしかして皮肉ですか?
いや、皮肉じゃなくて純粋な渇望なんですよ。
渇望ですか?
ええ。ヒロインが劇中で歌うこの曲はですね、何時間も地底の暗闇と粉塵の中で命をけじった労働者が地上に出て太陽の光を浴びた瞬間に感じる圧倒的な酸化なんです。
あ、なるほど。当たり前の太陽が彼らにとっては命の証明なんですね。
そういうことです。
ポップカルチャーとの繋がり
しかもここからがポップカルチャーの視点として一番驚いたんですけど、この歌、レコード版ではあの三浦晃さんが歌っているんですよね?
はい、そうなんです。そしてさらに重要なのがこの曲の作曲者が渡辺忠銘さんだということです。
えっと、渡辺忠銘さんってあのマジンガーZとかの特撮音楽の?
ええ、後年金管楽器を多用した力強くヒロイックないわゆる駐名サウンドで特撮やアニメ音楽の巨匠となる方ですね。
はいはいはい。
でもこの時期はまだそのシグネチャーサウンドが確立する前なんですよ。
そうか。後年の爆発的なヒーローソングのイメージとは全く違う、労働者の心に寄り添うような繊細な楽曲を作っていた時期の超レアな音源がここで繋がるわけですか。
ええ。一つの産業が終焉を迎える瞬間の重い空気と、後に日本のポップカルチャーを牽引するクリエイターたちの黎明期がこの映画の中で偶然にも交差しているというわけなんです。
カルチャー探求の面白さと現代への問いかけ
いやー、鉄道の数秒のカットを見るためだけの鑑賞がエネルギー革命のリアルな生存記録から特撮音楽のルーツにまで行き着くとは。カルチャーの探求って本当に面白いですね。
本当ですね。視点を変えればどんな作品も壮大な歴史の証言者になり得るということです。
そこで最後に資料を送ってくださった方に考えてみてほしいんです。今、私たちが何なく見ている現代の映画の背景に映る看板やカフェで流れるBGMの中で、60年後の人々がまさかこれが記録されていたとは、と腰を抜かすものは何だと思いますか。
うーん、面白い問いですね。
ぜひ、日常の風景にそそむ歴史の痕跡を探してみてください。
次回の配信もお楽しみに。さようなら。