私の仕事を辞める決断
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、様々な人がいることをテーマにお送りいたします。
えっ、どういうこと?
ビーズクッションに寝そべりながら、ゲームを操作している総一郎に向かって行った。
総一郎は、テレビから視線をそらさないまま。
だから、仕事やめた、と言った。
やめたって、まだ一週間もたってないじゃない。
総一郎は、会わない仕事を続けたってしょうがないだろう、と、何でもないことのように言った。
私は足がジンジンしていることに気がついた。
家に帰ってきてから一度も座っていない。
テレビから爆発音のようなものが聞こえると、総一郎は大げさに、あちゃー、と言った。
そして、私が家に帰ってきてから初めて私の方を見て、
今日夕飯何?と言った。
どうすれば続けられる仕事が見つかるんでしょうか。
私は、園児たちのお昼寝の時間に、隣の席の武井さんに行った。
武井さんは、私が新卒で入職して以来ずっと隣の席で、歴代の彼氏のことを一番よく知っている人だ。
武井さんは言った。
そんな男、別れなさい。
彼氏の話をすると武井さんは必ずこう言う。
じゃあ、私はどうやって生きていけばいいんですか。
武井さんは呆れた顔をしながら、はぁ?と言った。
武井さんの口からそんな音が出たのは初めてだった。
あなたには仕事だってあるし、自活する能力もある。
そんな男いなくたって生きていけるでしょう。
と、武井さんは叱るように言った。
でも、誰かから愛されたいじゃないですか。
武井さんは眉間にシワを寄せて。
あなた、まさか今自分が愛されてると思ってるの?と言った。
私がキョトンとした顔をしていると、
あなたにとって愛されてるって何?と聞かれた。
彼氏がいることですかね。
と答えると、武井さんは大きなため息をついた。
馬鹿ねえ。関係性の名前に愛は関係ないのよ。
仲の悪い夫婦なんていくらでもいるでしょ?と武井さんは言った。
確かに。
と私が言うと、
自分を大切にできない人間は人から大切にしてもらえないの。
自分を大切にするためには、まず自分を大切にしない人間から離れなきゃいけないの。
武井さんからのアドバイス
だから、別れなさい。
武井さんは真剣な表情でそう言った。
私はあっけに取られながら、
なんだかお母さんみたいですね、と言った。
武井さんは、
まったく、手のかかる娘だこと、と冗談めかして言った。
次の日曜日、宗一郎はいつもの仲間たちとツーリングに行ったので、
私は部屋の荷物を大急ぎで段ボールに詰めていた。
自分一人分ならば大したことはないと思っていたが、
二年分の荷物は思ったより溜まっていた。
玄関のチャイムが鳴る。
はーい、と言って出ると、
引っ越し屋のスタッフが三名立っていた。
三名に、荷物の搬出をお願いすると、
片付いていない荷物に戸惑っていた。
同棲していたんですけど、私だけ出て行くんです、と、
ちょっと罰が悪そうに伝えると、三人は、
ああ、という表情をして、
てきぱきと私の荷物だけを出してくれた。
私の荷物がなくなっても、
部屋は大きくは変わっていないように感じた。
この部屋での生活は、宗一郎を中心に回っていたのだ。
私は部屋の鍵とメモに、
あばよ、と書いてテーブルに残した。
引っ越し先の新しいアパートの前に、
たけいさんと同僚のこんままゆみが立っていた。
なんで?と驚いていると、たけいさんは、
明日遅刻されたら困るからね、と言い、
まゆみは、たけいさんから面白そうな話聞いたから、
と笑っていた。
私は二人に抱きついて、
愛してる!と叫んだ。
いかがでしたでしょうか。
感想はぜひ、ハッシュタグプリズム劇場をつけて、
各SNSにご投稿ください。
それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。