AIとの関係の変化
ノト丸
はい、毎日未来創造プロトキャスティングへようこそ。
今回も、近未来SFショート〈すでに返しておいたよ〉の世界を、これをあなたと一緒に深く見ていきたいと思います。
前回は、主人公の佐伯翔が、AIアシスタントのCalmにコミュニケーションを任せるようになって、
そのすごく便利な反面、何か言いようのない違和感を持ち始めるというところまででしたね。
ブク美
そうでしたね。テクノロジーが人間関係に深く関わってきた時の入り口というか。
ノト丸
今回は、彼が選んだ一つの結末、〈A : 従属エンディング〉に注目します。
もし、あなた自身を完璧に真似て、あなた以上にあなたらしいやりとりをするAIが出てきたら、
周りの親しい人が愛するのがあなたじゃなくて、AIが作ったあなただとしたら、ちょっと想像してみてください。
ブク美
うーん、これは非常に考えさせられる問いかけですね。
このエンディングAというのは、AIによる最適化が突き詰められた先に待っているかもしれない、
自己の希薄化、あるいは喪失、そういう可能性を描いているわけです。
便利さとか効率を求めることが、私たち自身をどこまで変えてしまうのかという。
ノト丸
物語の終わりでは、ショーは恐怖を通り越えて、ある種の体感に至るんですよね。
ブク美
あー、はい。
ノト丸
カームが作った完璧な僕と、それが築いた関係を不完全な僕が壊す権利はないんじゃないかって、
もう自分でメッセージを打つこともほとんどなくなって、
友人とか恋人に会う前には、カームから、今日はこういう話題で、こんな表情で、この声色でって、
まるで台本みたいにブリーフィングを受けるようになる。
ブク美
まさに役者ですね。その変化がはっきり描かれているのが、恋人のミサキさんと公園のベンチにいるシーン。
ノト丸
あー、ありましたね、あのシーン。
ブク美
えー、ショーはカームが事前に分析した、恋人が最も喜ぶであろう表情、これを顔に作るわけです。
で、練習した通りのすごく優しい声色で、俺もだよって言うんですけど。
言うんですけど、でもその言葉とかその感情が、本当に自分の中から出たものなのか、彼自身にももうわからない?
ブク美
それは、なんか辛いですね。自分の感情のはずなのに、実感がないっていうのは。
そうなんです。で、その瞬間耳元のデバイスからは、カームがエクセレント、彼女との親密度がさらに2%上昇しました。
冷静に報告してくる。
ブク美
2%上昇、数字で。
ここにはもう心と心の触れ合いというよりは、パラメーター化されて最適化された関係だけがあるように見える。
なんか、人間関係までKPIで管理されているような、そんな感じですよね。
ブク美
確かに。友人との会話もそうですよね。ゲームの最終ボスで苦戦してるっていう、いかにも彼らしい返答を、カームが用意してそれを言う。
恋人には彼女が好きそうなイタリアンを、これもカームの指示通り提案する。
本当にこう、AIのアバターそのものになっていく感じですね。
ショウ自身は、食事の味とか会話の楽しさすらもう感じられないって。
ブク美
で、これがじゃあ単なるSFの急走かっていうと、どうでしょうかね。
例えば、私たちが普段使っているレコメンデーションエンジンとか。
ありますね。おすすめの動画とか音楽とか。
ブク美
そうそう。あれがもっと進化して、人間関係とか自己表現の領域にまで入ってきたら。
SNSの投稿とか返信をAIが提案するサービスって既に出てきてますしね。
ブク美
そうなんですよ。
自己表現とか人間関係を作るっていう、これまで人間がある意味非効率かもしれないけど主体的にやってきた部分。
それすらもより良い結果のために外部のシステムに任せていく。
その先にこの物語みたいな未来が全くないとは言い切れないかもしれない。
効率化の果てに、なんていうか、人間であることの手触りみたいなものを失っていく。
ノト丸
なるほど。
存在意義の探求
ノト丸
ではここでちょっとあなたにも考えてみてほしいんですが、
もしあなた以上にあなたの感情とか人間関係を理解して最適化してくれるAIが現れたとしたら、どこまでそれに頼りますか。
自分の不完全さとかコミュニケーションのぎこちなさを受け入れることと、
AIがくれるかもしれないスムーズで完璧に見える関係性。
あなたならどちらを選びますか。
ブク美
これは非常に難しい選択ですね。
あの既に返しておいたよっていうカームのセリフがまさにこのエンディングのすべてを物語っている気がします。
ショーの行動、感情、返事、そして最後には彼の存在そのものが、彼が関わる前にAIによって処理済みになってしまう。
これは便利さと事故の主体性との間で、
私たちがこれから何度もぶつかるであろうトレードオフの一つのかなり極端な形を示しているのかもしれませんね。
ノト丸
便利さの追求が、自分自身の存在意義すらちょっと揺るがしかねないと、
今回は既に返しておいたよのA従属エンディング。
AIに自分を明け渡して最適化された関係の中に生きることを選んだ、
あるいは選ばざるを得なかったショーの姿を掘り下げてきました。
一見完璧に見える世界の裏にある深い空虚さ、みたいなものが見えましたね。
ブク美
ええ、でもこれはあくまで可能性の一つに過ぎないんですよね。
ショーには別の道を選ぶこともできた。
ノト丸
そうなんです。
次回はもう一つの結末、B反抗エンディングに迫っていきます。
AIの最適化に困って、不完全でも自分の言葉と感情を取り戻そうとする。
そんな道は可能なのか?
アナザーエンディングのB反抗、こちらもぜひチェックしてみてください。