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寝落ちの本ポッドキャスト。 こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。
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さて、今日ですが、山川正夫さんの夏の葬列です。
お便りをいただきました。りんご飴さんという方。
いつも寝る前に拝聴していますということなんですが、
リクエストというより、一人のリスナーとしておすすめの作家さんをご紹介させてください。山川正夫さんという作家さんです。
どの作品も最後に驚くような展開があって、とても面白いですということで、ぜひ読んでみてくださいということで。
リクエストじゃないらしいんですけど、せっかくなんで読み上げようかなと思って。
中学校の教科書に載ってたらしいんですよ、この夏の葬列が。
山川正夫さんという方、wikipediaによりますと、
見た文学を編集し、その後の自らも筆を取り、日々の死、その一年、海岸公園などの短編集を発表。
繊細で都会的な作風によって、敗戦後の青春と死の不条理を自伝的に描いた。
お守りの翻訳がアメリカライフ市に掲載され将来を職望されたが、交通事故により34歳で死去。
ショートショートでも活躍し、お守りのほか国語教科書に採用されることの多い夏の葬列が取り分け知られているということです。
若くしなくなったんだね。
ということで今日はこちらを読み上げていこうと思います。
お便りありがとうございました。またぜひリクエストの方を寄せてください。
文字数が5400文字ぐらいなので短いですね。
10分ちょいでしょう。10分かかるのかな。
いずれにしてもボリュームが小さそうなので少しゆっくりめに読みたいと思います。
どうかお付き合いください。
それでは参ります。
夏の葬列
海岸の小さな町の駅に降りて、彼はしばらくはもの珍しげに辺りを眺めていた。
駅前の風景はすっかり変わっていた。
アーケードのついた明るいマーケット風の通りができ、その道路も固く舗装されてしまっている。
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裸足のまま砂利の多いこの道を駆けて通学させられた小学生の頃の自分を急に生々しく彼は思い出した。
あれは戦争の末期だった。
彼はいわゆる疎開児童としてこの町に丸三ヶ月ほど住んでいたのだった。
あれ以来、俺は一度もこの町を訪ねたことがない。
その自分が今は大学を出、就職をし、一人前の出張代わりのサラリーマンの一人としてこの町に来ている。
東京には明日までに帰ればよかった。
二、三時間は十分にぶらぶらできる時間がある。
彼は駅の売店でタバコを買い、それに火をつけるとゆっくりと歩き出した。
夏の真昼だった。
小さな町の家並みはすぐに尽きて、昔のままの踏切を越えると線路に沿い両側にやや起伏のある旗地が広がる。
彼は目を細めながら歩いた。
遠くにかすかに海の音がしていた。
なだらかな小丘の裾、ひょろ長い一本の松に見覚えのある丘の裾を回りかけて、突然彼は化石したように足を止めた。
真昼の重い光を浴び、青おとした葉を波打たせている広い芋畑の向こうに、一列になって、もふくを着た人々の小さな草列が動いている。
一瞬、彼は十数年の歳月が宙に消えて、自分が再びあの時の中にいる錯覚にとらえられた。
ぼうぜんと口を開けて彼は、しばらくは呼吸をすることを忘れていた。
能力の葉を重ねた一面の広い芋畑の向こうに、一列になった小さな人影が動いていた。
線路脇の道に沿って彼は真白なワンピースを着た同じ疎開児童のひろこさんと並んでそれを見ていた。
この海岸の町の小学校、当時は国民学校といったが。
では、東京から来た子供は、彼とひろこさんの二人きりだった。
二年上級の五年生で、勉強もよくでき、大柄なひろこさんはいつも彼をかばってくれ、弱虫の彼を離れなかった。
よく晴れた昼近くで、その日も二人きりで海岸で遊んできた帰りだった。
行列はひどくノロノロとしていた。
先頭の人は大昔の人のような白い着物に黒っぽい長い帽子をかぶり、顔の前で何かを振りながら歩いている。
続いて竹筒のようなものを持った若い男。
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そして四角く細長い箱を担いだ四人の男たちと、その横をうつむいたまま歩いてくる黒い和服の女。
「お葬式だわ。」とひろこさんが言った。
彼は口を尖らせて答えた。
「変なの。東京じゃあんなことしないよ。」
「でもこっちじゃああするのよ。」ひろこさんは姉さんぶって教えた。
「そしてね、子供が行くとおまんじゅうをくれるの。お母さんがそう言ったわ。」
「おまんじゅう?ほんと何個の?」
「そうよ。ものすごく甘いの。そしてとっても大きくって赤ちゃんの頭ぐらいあるんだって。」
彼は唾を飲んだ。
「ねえ、ぼくらにもくれると思う?」
「そうね。」ひろこさんはまじめな顔をして首をかしげた。
「くれるかもしれない。」
「ほんとう?」
「行ってみようか。」
「じゃあ。」
「よし。」と彼は叫んだ。
「競争だよ。」
芋畑は真っ青の波を重ねた海みたいだった。
彼はその中に踊り込んだ。近道をしてやるつもりだった。
ひろこさんはあぜ道を大回りしている。
ぼくのほうが早いにきまっている。
もし早いものじゅんでひろこさんの分がなくなっちゃったら半分分けてやってもいい。
芋のつるが足にからむやわらかい緑の海の中を彼は手をふりまわしながら夢中でかけ続けた。
正面の丘の陰から大きな石が飛び出したような気がしたのはその途中でだった。
石はこちらを向き急速な爆音といっしょにふいに何かを引きあがすような激しい連続音が聞こえた。
叫び声があがった。
「関西機だ!」とその声を後鳴った。
関西機だ。
彼は恐怖にのどがつまり、とたんに芋畑の中にたおれ込んだ。
炸裂音が空中にすさまじい響きをたてて頭上をすぎ、女の泣き喚く声が聞こえた。
ひろこさんじゃないと彼は思った。
あれはもっと大人の女の人の声だ。
「2機だ! 隠れろ! またやってくるぞ!」
奇妙に間延びしたその声のあいだに、別の男の声が叫んだ。
「おい! ひっこんでろ! その女の子! ダメ! 走っちゃダメ! 白い服は絶好の目標になるんだ! おい!」
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白い服。
ひろこさんだ。
きっとひろこさんは撃たれて死んじゃうんだ。
そのとき第二撃が来た。
男が絶叫した。
彼は動くことができなかった。
ほっぺたを畑の土に押し付け、目をつぶって懸命に呼吸を殺していた。
頭がしびれているみたいで、でも無意識のうちに体を覆おうとするみたいに、手で必死に芋の葉を引っ張り続けていた。
急にあたりが死因として、旋回する小形の爆音だけが不気味に続いていた。
突然、視野に大きく白いものが入ってきて、柔らかい重いものが彼を押さえつけた。
「さあ、早く逃げるの。一緒に。さあ、早く!」
「大丈夫?」
目をつり上げ、別人のような真っ青なひろこさんが熱い呼吸で言った。
彼は口がきけなかった。
全身が硬直して、目にはひろこさんの服の白さだけが鮮やかに映っていた。
「今のうちに逃げるの。何してんの。さあ、早く!」
ひろこさんは怒ったような怖い顔をしていた。
「ああ、僕はひろこさんと一緒に殺されちゃう。僕は死んじゃうんだ。」と彼は思った。
声の出たのはその途端だった。
ふいに彼は狂ったような声で叫んだ。
「よせ、向こうへ行け。目立っちゃうじゃないかよ。」
「助けに来たのよ。」
ひろこさんも怒鳴った。
「早く、道の防空壕に。」
「やだったら、ひろこさんとなって一緒に行くのやだよ。」
夢中で彼は全身の力でひろこさんを突き飛ばした。
「向こうへ行け。」
悲鳴を彼は聞かなかった。
その時、強烈な衝撃と轟音が地べたを叩きつけて芋の葉が空に舞い上がった。
辺りに砂ぼこりのような膜が立って、
彼は彼の手で仰向けに突き飛ばされたひろこさんが、
まるでゴムマリのように弾んで空中に行くのを見た。
送列は芋畑の間を縫って進んでいた。
それはあまりにも記憶の中のあの日の光景に似ていた。
これはただの偶然なのだろうか。
真夏の太陽が直に首筋を照りつけ、
目前に似たものを覚えながら、
彼はふと自分には夏以外の季節がなかったような気がしていた。
それも助けに来てくれた少女を、
わざわざ銃撃の下に突き飛ばしたあの夏、
殺人を犯した戦時中のあのただ一つの夏の季節だけが、
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未だに自分を取り巻き続けているような気がしていた。
彼女は重傷だった。
下半身を真っ赤に染めたひろこさんは、もはや意識がなく、
男たちが即席のタンカで彼女の家へ運んだ。
そして彼は彼女のその後を聞かずにこの町を去った。
あの翌日、戦争は終わったのだ。
芋の葉を白く裏返して風が渡っていく。
送列は彼の方に向かって来た。
中央に写真の置かれている粗末な棺がある。
写真の顔は女だ。
それもまだ若い女のように見える。
不意にある予感が彼を捉えた。
彼は歩き始めた。
彼は片足をあぜ道の土に乗せて立ち止まった。
あまり人数の多くはない葬式の人の列がゆっくりとその彼の前を過ぎる。
彼は少し頭を下げ、しかし目は熱心に棺の上の写真を見つめていた。
もしあの時死んでいなかったら、彼女は確か二十八か九だ。
突然彼は奇妙な喜びで胸が絞られるような気がした。
その写真にはありありと昔の彼女の面影が残っている。
それは三十歳近くなったヒロコさんの写真だった。
間違いはなかった。
彼は自分が叫び出さなかったのがむしろ不思議なくらいだった。
俺は人殺しではなかったんだ。
彼は胸に沸き上がるものを懸命に冷静に抑えつけながら思った。
たとえ何で死んだにせよ、とにかくこの十数年間を生き続けたんなら、もはや彼女の死は俺の責任とは言えない。
少なくとも俺に直接の責任がないのは確かなんだ。
この人、びっこだった?
彼は群れながら列の後に続く子供たちの一人に尋ねた。
あの時彼女は太ももをやられたのだ、と思い返しながら。
ううん、びっこなんかじゃない。体は全然丈夫だったよ。
一人が首を振って答えた。
では治ったんだ。俺は全くの無罪なんだ。
彼は長い呼吸を吐いた。
苦笑が頬に昇ってきた。
俺の殺人は幻影に過ぎなかった。
あれからの年月、おも苦しく俺を取り巻き続けていた一つの夏の記憶、
それは俺の妄想、俺の悪夢でしかなかったんだ。
送列は確実に一人の人間の死を意味していた。
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それを前に、いささか彼は不謹慎だったかもしれない。
しかし十数年間もの悪夢から解き放たれ、彼は青空のような一つの幸福に化してしまった。
もしかしたらその憂悴天才が、彼にそんな余計な質問を口に出させたのかもしれない。
何の病気で死んだの、この人。
ウキウキした、むしろ軽薄な口調で彼は尋ねた。
このおばさんね、キチガイだったんだよ。
ませた目をした男の子が答えた。
一昨日ね、川に飛び込んで自殺しちゃったんさ。
うーん、失恋でもしたの?
バカだな、おじさん。
運動靴の子供たちは口々にさもおかしそうに笑った。
だってさ、このおばさん、もうおばあさんだったんだよ。
おばあさん?
どうして、あの写真だったらせいぜい三十くらいじゃないか。
ああ、あの写真か。あれね、うーんと昔のしかなかったんだってよ。
鼻をたらした子が後を言った。
だってさ、あのおばさん、何しろ戦争でね、
一人の女の子がこの畑で機銃で撃たれて死んじゃってね。
それからずっと気が違っちゃってたんだもんさ。
送烈は松の木の立つ丘へと登り始めていた。
遠くなったその送烈との距離を縮めようというのか。
子供たちは芋畑の中に踊り込むと歓声を上げながら駆け始めた。
立ち止まったまま彼は写真を載せた棺が軽く左右に揺れ、
彼女の母の送烈が丘を登っていくのを見ていた。
一つの夏と一緒にその棺の抱きしめている沈黙。
彼は今はその二つになった沈黙、二つの死が、
もはや自分の中で永久に続くだろうこと、
永遠に続く他ないことがわかっていた。
彼は送烈の跡は追わなかった。追う必要がなかった。
この二つの死は結局俺の中に埋葬される他はないのだ。
でも何という皮肉だろうと彼は口の中で言った。
あれから俺はこの傷に触りたくない一心で海岸のこの町を避け続けてきたというのに、
そして今日せっかく十数年後のこの町、現在のあの芋畑を眺めて、
はっきりと廃線の夏のあの記憶を自分の現在から追放し、
過去の中に封印してしまって自分の身を軽くするためだけに俺はこの町に降りてみたというのに、
全く何という偶然の皮肉だろう。
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やがて彼はゆっくりと駅の方角に足を向けた。
風が騒ぎ、芋の葉の匂いがする。
よく晴れた空が青く、太陽は相変わらず眩しかった。
海の音が耳に戻ってくる。
汽車が単調な車輪の響きを立て線路を走っていく。
彼はふと今とは違う時間、たぶん未来の中の別な夏に、
自分はまた今と同じ風景を眺め、今と同じ音を聞くのだろうという気がした。
そして時を隔て、
俺はきっと自分の中の夏のいくつかの瞬間を一つの痛みとして蘇らすんだろう、
思いながら彼はアーケードの下の道を歩いていた。
もはや逃げ場所はないんだという意識が、
彼の足取りをひどく確実なものにしていた。
独りょう読み終わりです。
うーん、こういう読み味ね。
中学生の教科書か、そうなんだ。
叫び声のセリフがあったので、ちょっと声のボリュームが上がってるかもしれません。
寝落ちに向いてなかったらごめんなさい、ぐらいですかね。
いい読み味ですね。
毎度この調子だとちょっとあれだね、
落ち着いて読む感じじゃないかもね。
まあ面白かったです。
いかがだったでしょうか。
みなさん今、中学校の教科書にこれが載ってるそうですよ。
意外とむごい現実を突きつけるじゃない、って感じですよね。
ああ、そうですか。
現在、隣の隣のマンションで、
外壁の補修工事なのか知らないけど、
足場を組み立ててですね、現場の方々が。
金属のパイプっていうのが、
ぶつかる音とかがすごい入ってくるんですよね。
厳しい環境で収録しています、今。
4月からは、僕が住んでいるマンションも工事が入るっぽいし、
なかなか置かれた環境が厳しいです。
いつも午前中に録ってるんですよ、僕。
仕事に行く前に録ってるので、
そうなっちゃうんですよね。
朝9時から現場の仕事って始まるでしょ。
夜録ればいいんだろうけどね。
夜は僕、仕事終わってお酒飲みに行っちゃうから。
飲みに出かけちゃうから。
すぐ家に帰ってくるってことはまずないから、
ちょっとその生活スタイル、改めないと静かな録音環境はできないかもしれません。
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はい、いろいろ難儀しております。
はい、ということで、お便りありがとうございました。
今リクエストもらってて、読み上げが完了してないのが、
桜の実の熟する時と、知人の愛、鋭意収録中です。
しばしお待ちください。
どっちもボリュームがすごいんだよね。
11万字と18万字みたいな、そんなボリュームなんで。
一挙一縮には終わりません。少々お待ちください。
よし。いや、意外とゆっくり読んだら20分ぐらいだったね。そうですか。
では、終わりにしていきましょう。
無事に寝落ちできた方も、最後までお付き合いいただけた方も大変にお疲れ様でした。
といったところで、今日のところはこの辺で。また次回お会いしましょう。
おやすみなさい。