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【朗読】灰皿・6
2026-05-04 12:16

【朗読】灰皿・6

【GW特別企画🍀配信者自己満足的朗読配信8days】

🌷6日目🌷

『ちょっとくらい間違えても噛んでも詰まっても、私が楽しいからぶっちぎっちゃう的朗読』配信
*編集の関係でお聴き苦しい点あります、ごめんなさい💦

諸事情(著作権の関係)により、スタエフURL限定公開になります。
配信当日は全公開、翌日からURL限定になります。
聴き逃がしたらURLを問い合わせてね✨

4/29㈬〜5/6㈬の全8回
毎日朝〜配信。

ちょっと奇抜でちょっと笑えて。
でも最後にちょっとだけ
心がじ~んとあたたかくなってくれたらいいな。
そんなお話です。

感想

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00:06
お家賃はしっかり払ってくれますし、ご近所の方とも何事もなく過ごされているということで、黒木さんは、「ご安心ください。」と私に電話をふれます。
私と板崎さんが会っていたということは、彼にも内緒にしてありました。
時々、彼女がどうしているか気になることもありましたが、どうしても聞くことができず、
私はなんとなく落ち着かない気持ちで日々を過ごしていました。
ある日、久しぶりに出かけた先で彼女の本を見つけました。
発売されてからもうずいぶん経つのに、それは本屋の一等いい位置に大々的に飾られていました。
題名は彼女の言った通りでした。
手に取るのもはばかられましたが、私はそれを隠れるようにレジに持っていきました。
どうしてなのか分かりません。
彼女の気持ちを知りたかったのか、彼女がちっとも家に来なくなったことを、どこかで寂しく思っていたのか。
とにかく私は彼女の本に吸い寄せられるようにそれを手に取ったのでした。
家に帰ると、板崎さんが玄関の前の階段に座っていました。
くるくるの紙は一つに縛っていて、それは頭の上に落ちてきた黒い果物みたいに見えました。
本を手にした日に起こった偶然に、私は驚かずにおられませんでした。
どうなさったの?お久しぶりね。
こんにちは。ごめんね。いないもんだからここで待ってたの。
玄関を開けると、彼女はひらりと中に入り、また靴をポンと脱いで、慣れた足取りで歩いていきました。
私はこの数ヶ月の空白は何だったのだろうと思いました。
てっきり彼女のことを怒らせてしまったものと思っていましたが、この様子ではただお仕事が忙しかったか気まぐれにこちらに来なかっただけなのでしょう。
でもやっぱり、あんなことがあっても彼女が来たことを喜んでいる自分に気づき、私は苦笑いしました。
お茶と洋館を出して前に座ると、彼女は以前までと違うことがわかりました。
目の白いところと鼻の舌が赤くなっていて、なんとなく落ち着きがありませんでした。
03:05
花粉症かしらと思いましたが、くしゃみをする様子もないので、これはきっと泣いていたのだわ、そう思いました。
今日、あなたのご本を買わせてもらったのよ。
私は勤めて明るくそう言うと、カバンをポンポンと叩きました。
彼女はなんだか悲しそうな顔をしました。
書けないの。
え?
書けないのよ、次の小説。
だから彼女はこんな泣き晴らした目で元気がないのだなぁと思いました。
そう、大変ね。
でも、作家なら誰でも経験することなんじゃないかしら。
私、作家なんかじゃないもの。
でも、これだけご本が売れて立派な作家よ。
入居申し込み書にも書いてたでしょ?
大きな字で小説家って。
私、あれを見て随分頼もしいなって思ったんですよ。
あの時はあの家に住みたかったからそう書いたの。
でもダメ、書けない。
彼女は珍しく洋館にちっとも手をつけませんでした。
田畑さん、その本読んでくれるの?
え?これ?
もちろん読ませていただきますよ。
この前はちょっとびっくりしてしまったけど、
ええ、でも、ええ、ええ、読みますとも。
それはね、一人の人のために書いたの。
え?
私がうんこを食べたその人のためだけに書いたの。
彼女はそう言うと泣き出してしまいました。
私はどうしていいのやら、
おろおろと落ち着かずタオルを持ってきて彼女に渡しました。
奥の部屋の夫の写真はしっかりとこちらを見ていましたけれど、
なぜだか今日は私たちの話を聞かれてもいいだろうとそう思っていました。
ゆきよのことが大好きで、本当に大好きで、
だから、ゆきよのことが好きだっていうことをどれだけ好きかっていうことを書いたの。
最初は気持ち悪かったし、吐いちゃったけど、
ゆきよが望むんだったらうんこだって食べようって思ったの。
そしてそれができたの。
本当に嬉しかったのよ。
06:00
私はこれだけゆきよのこと愛してるって思えた。
でもバカね。
それを私たちの間だけのことにしなきゃいけなかったのに。
私、あんまりいい出来なものだから他の人にも読んでもらいたくなったの。
私たちがどれだけ愛し合ってるか知ってほしかったの。
そしたら賞を取っちゃった。
それで大きな目から涙がポロポロこぼれ落ちました。
板崎さんはちっともそれを拭おうとしないものだから、
私が慌ててタオルでそれを抑えました。
ゆきよが怒ってどっか行っちゃった。
僕に恥をかかせたって。
まあひどい。
私、ゆきよも喜んでくれると思ってた。
私は堂々と好きな人のうんこを食べれましたって書いたのに。
ゆきよは恥をかかされたって。
わかんない。
編集の人が早く次の小説をって言ってくるの。
でも書けないわ。
だって私、ゆきよのためだけに書いたんだもの。
不特定多数の誰かになんて書けない。
板崎さんはとうとう大きな声を上げて本格的に泣き始めました。
あらあら、ママ。どうか泣かないで。
えええ。書けるわ。書けるわよきっと。
それはそれは賑やかな午後でした。
私にもし孫がいたらそんなことをふと考えたりもしましたが、
板崎さんがそんな存在になるなんてありえないと慌てて首を横に振りました。
板崎さんはなんというか本当に変わった人でした。
ひとしきり泣いた後、彼女はけろりと泣き止み、今度はしんそこくつろいだ顔をして
ああ、すっきりした。ありがとう。
と言い、羊羹を食べ始めたので私はあっけに取られてしまいました。
たまにね、ものすごく大きな声で泣きたくなるのよ。
そうするとね、すっきりするの。
板崎さんはさっきまでの悩みなど忘れてしまったかのように
初めて来た日と同じくらい羊羹をたくさん食べました。
でも時より手を休めてぼんやりとしている様は
以前のように変わっている人だからということで片付けられなくなりました。
09:01
彼女はきっととても寂しいのだと思いました。
ただ好きな人のことしか書けないこと、そしてその人がどこかへ行ってしまったこと
いなくなったその人のことを彼女はずっとずっと恋しく思っていたのでしょう。
それにしても、そう思いました。
彼女はなぜお友達にでもご両親にでもなく私に
こんなおばあちゃんにそのことを打ち明けたのでしょう。
彼女の悩みを知っているのは私だけではないのでしょうか。
もしかしたらご近所中を徘徊し話を聞いてくれそうな人の家に行っては
今のように甘いものでも食べて大声で泣いているのかもしれません。
そんなことを考えていましたら、彼女がカバンの中をゴソゴソとやりだしました。
また何が出てくるのだろうと思っていたら
最初の日と同じ茶色いザラザラした包みに入ったものでした。
でも今回のそれは本のように軽いものではなく何かずっしりと重そうなものでした。
これ家にあったの。
彼女はそう言いました。
まっすぐ私の目を見てそう言うから
私は悪い予感を言い当てられた人のようにヒヤリとしました。
わざと置いてったの?
そう言いながら彼女は袋からそれを出しました。
それは灰皿でした。
目のうのような色をした丸みのある小ぶりな
でもずっしりと思い石の灰皿でした。
たぶん秋文さんの書斎だったとこの机の引き出しに入ってたの。
彼女はお洋服の裾でキュッキュッとそれを何度か拭いて私に渡しました。
鎌田さんってとても貴重面な人でしょ?
たぶんうっかり忘れたりしないなと思って
何か意味があんのかなって思ったの。
禁煙だって言ってたし
違う?
機関が弱いなんて嘘でした。
板崎さんがあの家でタバコを吸うのだって
ちっとも構いませんでした。
でもなぜだか板崎さんがその灰皿を見つけてくれるのを
私は待っていたような気がします。
禁煙だなんて言っておいて
12:01
ここにある灰皿は何なの?
そんな風に言ってくれるのを
私は待っていたような気がするのです。
12:16

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