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檸檬 後編
2026-02-21 15:49

檸檬 後編

0174 260221 梶井基次郎 檸檬 後編 朗読:本田奈也花
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初めてMacを手にした感動は忘れられない。
ネットの声をご紹介します。
ハンドルネームDr.Rainさん。
何もかもスムーズで、早くてビビった。
iPhoneとの連携も最高。
続いてMr.Incredible4883さん。
Appleシリコンのおかげで、バッテリー切れのストレスから解放された。
初めてのMacでそう感じたそうです。
次はあなたが体験する番。
全く新しいMacBook Neo。
心躍るMacが嬉しいプライスで登場。
詳しくはApple公式サイトをご覧下さい。
おしゃべり本棚。
この時間は、福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
レモン、梶井本次郎、後編。
その日私はいつになくその店で買い物をした。
というのは、その店には珍しいレモンが出ていたのだ。
レモンなどごくありふれている。
が、その店というのもミスボらしくはないまでもただ当たり前の八百屋に過ぎなかったので、
それまであまり見かけたことはなかった。
一体私はあのレモンが好きだ。
レモンエローの絵の具をチューブから絞り出して固めたようなあの単純な色も。
それからあの竹の詰まった防水系の格好も。
結局私はそれを一つだけ買うことにした。
それからの私はどこへどう歩いたのだろう。
私は長い間街を歩いていた。
始終私の心を押さえつけていた不吉な塊が、
それを握った瞬間からいくらか緩んできたとみえて、
私は街の上で非常に幸福であった。
あんなにしつこかった憂鬱がそんなものの一家で紛らわされる、
あるいは不審なことが逆説的な本当であった。
それにしても心という奴は何という不可思議な奴だろう。
そのレモンの冷たさは例えようもなく良かった。
その頃私は配線を悪くしていて、いつも体に熱が出た。
03:06
時々友達の誰彼に私の熱を見せびらかすために手の握り合いなどをしてみるのだが、
私の手のひらが誰のよりも熱かった。
その熱いせいだったのだろう。
握っている手のひらから身内に染み通っていくようなその冷たさは心良いものだった。
私は何度も何度もその果実を花に持って行っては嗅いでみた。
それの産地だというカリフォルニアが想像に昇ってくる。
漢文で習ったバイカンシャの言の中に書いてあった花を打つという言葉がキレキレに浮かんでくる。
そして深々と胸いっぱいににおいやかな空気を吸い込めば、
ついぞ胸いっぱいに呼吸したことのなかった私の体や顔には温かい血のほとぼりが昇ってきて、
なんだか身内に元気が目覚めてきたのだった。
実際あんな単純な冷覚や触覚や嗅覚や視覚がずっと昔からこればかり探していたのだと言いたくなったほど、
私にしっくりしたなんて私は不思議に思える。
それがあの頃のことなんだから。
私はもう往来を軽やかな興奮に弾んで一種の誇りかな気持ちさえ感じながら、
美的小族をして街を活歩した詩人のことなどを思い浮かべては歩いていた。
汚れた手ぬぐいの上へのせてみたり、
マントの上へ当てがってみたりして色の反映を測ったり、
またこんなことを思ってみたり。
つまりはこの重さなんだな。
その重さこそ常々尋ねあぐんでいたもので、
疑いもなくこの重さは全ての良いもの、
全ての美しいものを重量に換算してきた重さであるとか、
思い上がった快悪心からそんな馬鹿げたことを考えてみたり。
何がさて私は幸福だったのだ。
どこをどう歩いたのだろう。
私が最後に立ったのはマルゼンの前だった。
06:04
平常をあんなに避けていたマルゼンが、
その時の私には安々と入れるように思えた。
今日は一つ入ってみてやろう。
そして私はずかずか入っていった。
しかしどうしたことだろう。
私の心を満たしていた幸福な感情はだんだん逃げていった。
香水の瓶にもキセルにも私の心はのしかかってはいかなかった。
憂鬱が立て込めてくる。
私は歩き回った疲労が出てきたのだと思った。
私は画本の棚の前へ行ってみた。
画集の重たいのを取り出すのさえ、
常にまして力がいるなあと思った。
しかし私は一冊ずつ抜き出してはみる。
そして開けてはみるのだが、
酷命にはぐっていく気持ちはさらに湧いてはこない。
しかも呪われたことにはまた次の一冊を引き出してくる。
それも同じことだ。
それでいて、一度バラバラとやってみなくては気が済まないのだ。
それ以上はたまらなくなってそこへ置いてしまう。
以前の位置へ戻すことさえできない。
私はいく度もそれを繰り返した。
とうとうおしまいには、
日頃から大好きだったアングルの橙色の重い本まで、
なお一層の耐えがたさのために置いてしまった。
なんという呪われたことだ。
手の筋肉に疲労が残っている。
私は憂鬱になってしまって、
自分が抜いたまま積み重ねた本の群を眺めていた。
以前にはあんなに私を引きつけた画本がどうしたことだろう。
一枚一枚に目をさらし終わった後、
さてあまりに尋常な周囲を見回す時の、
あの変にそぐわない気持ちを、
私は以前には好んで味わっていたものであった。
あ、そうだそうだ。
09:00
その時私は、たもとの中のレモンを思い出した。
本の色彩をごちゃごちゃに積み上げて、
一度このレモンで試してみたら、
そうだ、私にまた先ほどの軽やかな興奮が返ってきた。
私は手当たり次第に積み上げ、また慌ただしくつぶし、
また慌ただしく築き上げた。
新しく引き抜いて付け加えたり取り去ったりした。
機械な幻想的な城がその度に赤くなったり青くなったりした。
やっとそれは出来上がった。
そして軽く蹴り上がる心を制しながら、
その城壁の頂に恐る恐るレモンを据え付けた。
そしてそれは上出来だった。
見渡すとそのレモンの色彩は、
がちゃがちゃした色の階調をひっそりと防水系の体の中へ吸収してしまって、
かーんと冴え返っていた。
私は埃っぽいマルゼンの中の空気が、
そのレモンの周囲だけ変に緊張しているような気がした。
私はしばらくそれを眺めていた。
不意に第二のアイディアが起こった。
その奇妙な企みはむしろ私をぎょっとさせた。
それをそのままにしておいて、
私は何食わぬ顔をして外へ出る。
私は変にくすぐったい気持ちがした。
出て行こうかな。
そうだ、出て行こう。
そして私はスタスタ出て行った。
変にくすぐったい気持ちが街の上の私を微笑ませた。
マルゼンの棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けてきた
機械な圧巻が私で、
もう10分後には、
あのマルゼンが美術の棚を中心として大爆発をするのだったら、
12:02
どんなに面白いだろう。
私はこの想像を熱心に追求した。
そうしたら、あの気づまりなマルゼンもコッパみじんだろう。
そして私は活動写真の看板画が、
機体な趣向で街を彩っている峡谷を下って行った。
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