00:00
おしゃべり本棚 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
にいみ南吉 ごんぎつね
これは私が小さい時に村のモヘイというおじいさんから聞いた話です。 昔、私たちの村から少し離れた山の中に
ごんぎつねという狐がいました。 ごんはひとりぼっちの小狐で、
シダのいっぱい茂った森の中に穴を掘って住んでいました。 そして夜でも昼でも、あたりの村へ出てきては、いたずらばかりしました。
畑へ入って芋を掘り散らかしたり、ナタレガナの干してあるのへ火をつけたり、
百姓屋の裏手に吊るしてあるトンガラシをむしり取って行ったり、いろんなことをしました。 ある秋のことでした。
ごんは村の小川の包みまで出てきました。 川はいつもは水が少ないのですが、3日もの雨で水がどっと増していました。
ごんは川下の方へとぬかるみ道を歩いていきました。 ふと見ると川の中に人がいて、何かやっています。
ごんは見つからないように、そーっと草の深いところへ歩き寄って、そこからじっと覗いてみました。
ヒョウジュウだな、とごんは思いました。
ヒョウジュウはぼろぼろの黒い着物をまくしあげて、腰のところまで水に浸りながら、魚をとるハリキリという網をゆすぶっていました。
鉢巻きをした顔の横っちょに、まあるいハギの葉が一枚、大きなほくろみたいにへばりついていました。
しばらくすると、ヒョウジュウはハリキリ網の一番後ろの袋のようになったところを水の中から持ち上げました。
その中には、草の葉や腐った木切れなどがごちゃごちゃ入っていましたが、でもところどころ、白いものがきらきら光っています。
それは太いウナギの腹や大きなキスの腹でした。
ヒョウジュウはビクの中へ、そのウナギやキスをゴミと一緒にぶち込みました。
そしてまた袋の口をしばって水の中へ入れました。
03:03
ヒョウジュウはそれからビクをもって川からあがり、ビクを土手に置きっぱなしにして、何をさがしにか川上のほうへかけて行きました。
ヒョウジュウがいなくなるとゴンはピョイッと草の中から飛び出してビクのそばへ駆けつけました。
ちょいといたずらがしたくなったのです。
ゴンはビクの中の魚をつかみ出しては、ハリキリ網のかかっているところより下手の川の中をめがけてポンポン投げ込みました。
どの魚もドボンと音を立てながら濁った水の中へ潜り込みました。
一番しまいに太いウナギをつかみにかかりましたが、何しろぬるぬるとすべりぬけるので手ではつかめません。
ゴンはじれったくなって頭をビクの中に突っ込んでウナギの頭を口にくわえました。
ウナギはキュッと言ってゴンの首へまきつきました。
その途端にヒョウジュウが向こうから、「うわあ!ぬすったケツネめ!」とどなり立てました。
ゴンはびっくりして飛びあがりました。
ウナギをふりすてて逃げようとしましたが、ウナギはゴンの首にまきついたまま離れません。
ゴンはそのまま横っ飛びに飛び出して一生懸命に逃げていきました。
10日ほど経ってゴンがヤスケというお百姓の家の裏を通りかかりました。
そこの一軸の木の陰でヤスケの家内がおはぐろをつけていました。
鍛冶屋のしんべいの家の裏を通ると、しんべいの家内が髪をすいていました。
ゴンは、「ふーん、村に何かあるんだな。」と思いました。
なんだろう、秋祭りかな。祭りなら太鼓や笛の音がしそうなものだ。
それに第一、おみやに登りが立つはずだか。
こんなことを考えながらやって来ますと、いつのまにか表に赤い井戸のある標柱の家の前へ来ました。
その小さな壊れかけた家の中には大勢の人が集まっていました。
よそいきの着物を着て腰に手ぬぐいをさげたりした女たちが、表のかまどで火を焚いています。
大きな鍋の中では何かがぐつぐつ煮えていました。
ああ、葬式だとゴンは思いました。
標柱の家の誰が死んだんだろう。
お昼が過ぎるとゴンは村の墓地へ行って、六地蔵さんの影に隠れていました。
いいお天気で墓地には彼岸花が赤い布のように咲き続いています。
06:03
と村の方からカーン、カーンと鐘が鳴って来ました。
葬式の出る合図です。
ゴンは伸び上がって見ました。
標柱が白い紙しもをつけて、いはいを捧げています。
いつもは赤いさつまいもみたいな元気のいい顔が、きょうはなんだかしおれていました。
ああ、死んだのは標柱のお母だ。
ゴンはそう思いながら頭を引っ込めました。
その晩、ゴンは穴の中で考えました。
標柱のお母は床についていてうなぎが食べたいと言ったに違いない。
それで標柱が張り切り網を持ち出したんだ。
ところがわしがいたずらをしてうなぎを取ってきてしまった。
だから標柱はお母にうなぎを食べさせることができなかった。
そのままお母は死んじゃったに違いない。
ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいと思いながら死んだんだろう。
あんないたずらをしなきゃよかった。
ある日、標柱は赤い井戸のところで麦を研いでいました。
標柱は今までお母と二人きりで貧しい暮らしをしていたもので、
お母が死んでしまってはもうひとりぼっちでした。
俺と同じひとりぼっちの標柱か。
物置の後ろから見ていたゴンはそう思いました。
ゴンは物置のそばを離れて向こうへ行きかけますと、
どこかでイワシを売る声がします。
イワシの安売りだーい。生きのいいイワシだーい。
ゴンはその威勢のいい声のする方へ走って行きました。
と安家のおかみさんが、
イワシをくれ、と戸口から顔を出して言いました。
イワシ売りはイワシのかごを積んだ車を道端に置いて、
ピカピカ光るイワシを両手で掴んで、
安家の家の中へ持って入りました。
ゴンはその隙に、かごの中から五六匹のイワシを掴み出して、
元来た方へ駆け出しました。
そして標柱の家の裏口から家の中へイワシを投げ込んで、
穴へ向かって駆け戻りました。
途中の坂の上で振り返ってみますと、
標柱がまだ井戸のところで麦を研いでいるのが小さく見えました。
ゴンはうなぎの償いに、まず一ついいことをしたと思いました。
次の日にはゴンは山で栗をどっさり拾って、
それを抱えて標柱の家へ行きました。
09:00
裏口から覗いてみますと、標柱は昼飯を食べかけて、
茶碗を持ったままぼんやりと考え込んでいました。
変なことに標柱のほっぺたにかすり傷がついています。
標柱が独り言を言いました。
一体誰がイワシなんかを俺の家へ放り込んでいったんだろう。
おかげで俺は盗人と思われて、
イワシ屋のやつにひどい目にあわされたとぶつぶつ言っています。
ゴンはこれはしまったと思いました。
かわいそうに標柱はイワシ屋にぶん殴られて、
あんな傷までつけられたのか。
ゴンはこう思いながらそっと物置のほうへまわって、
その入口に栗を置いて帰りました。
次の日もその次の日も、
ゴンは栗を拾っては標柱の家へ持ってきてやりました。
その次の日には栗ばかりではなく、
松茸も二、三本持って行きました。
月のいい晩でした。
ゴンはぶらぶら遊びに出かけました。
細い道の向こうから話し声が聞こえます。
ゴンは道の片側に隠れてじっとしていました。
それは標柱とカスケというお百姓でした。
なあカスケ、と標柱が言いました。
このごろとても不思議なことがあるんだ。
お母が死んでから誰だか知らんが、
俺に栗や松茸なんかを毎日毎日くれるんだよ。
ふーん、誰が?
それがわからんのだよ。
俺の知らんうちに置いていくんだ。
そりゃきっと神様の仕業だぞ。
え?標柱はびっくりしてカスケの顔を見ました。
神様がお前がたった一人になったのを哀れに思って、
いろんなものを恵んでくださるんだよ。
だから毎日神様にお礼を言うがいいよ。
ゴンは、へえ、こいつはつまらないなと思いました。
俺が栗や松茸を持って行ってやってるのに、
その俺にはお礼を言わないで神様にお礼を言うんじゃ、
俺は引き合わないなあ。
そのあくる日もゴンは栗を持って標柱の家へ出かけました。
標柱は物置で縄を鳴っていました。
それでゴンは家の裏口からこっそり中へ入りました。
その時標柱はふと顔をあげました。
キツネが家の中へ入ったではありませんか。
こないだウナギを盗みあがったあのゴンキツネめ、
12:03
またいたずらをしに来たな。
よし、標柱は立ちあがって、
なやにかけてある火縄銃をとって火薬をつめました。
そして足音を忍ばせで近寄って、
いま戸口を出ようとするゴンをドンと打ちました。
ゴンはばたりと倒れました。
標柱は駆け寄って来ました。
家の中を見ると、
土間に栗が固めておいてあるのが目につきました。
おや、と標柱はびっくりしてゴンに目を落としました。
ゴン、お前だったのか、いつも栗をくれたのは。
ゴンはぐったりと目をつぶったままうなずきました。
標柱は火縄銃をばたりと取り落としました。
青い煙がまだ筒口から細く出ていました。
聞きたいラジオ番組何にもない。
そんな時間はポッドキャストで過ごしませんか。
RKBでは毎週40本以上のポッドキャスト番組を配信しています。
あなたのお気に入りの声にきっと出会えるはず。
ラジコ、ポティファイ、アップルポッドキャスト、
アマゾンミュージック、ユーチューブミュージックで
RKBと検索してフォローしてください。
RKBオンラインのポッドキャストまとめサイトもチェック。