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嘘アつかねえ 後編
2025-06-07 16:38

嘘アつかねえ 後編

0139 250607 山本周五郎 嘘アつかねえ 後編 朗読:冨士原圭希
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00:00
初めてMacを手にした感動は忘れられない。
ネットの声をご紹介します。
ハンドルネームDr.Rainさん。
何もかもスムーズで、早くてビビった。
iPhoneとの連携も最高。
続いてMr.Incredible4883さん。
Appleシリコンのおかげで、バッテリー切れのストレスから解放された。
初めてのMacでそう感じたそうです。
次はあなたが体験する番。
全く新しいMacBook Neo。
心躍るMacが嬉しいプライスで登場。
詳しくはApple公式サイトをご覧ください。
おしゃべり本棚。
この時間は、福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
山本周五郎作。
嘘はつかねえ。後編。
ちゃんはいい人間だった。
一息入れて、マツは話し継いだ。
おふくろに何と言われても、決して口答えはしなかった。
すまね。俺に解消がなくって申し訳がねえ。
もうちっとだから辛抱してくんねえ。
だが旦那、ちゃんだって人間だ。
一寸じゃねえかもしれねえ。五分ぐれえかもしれねえが。
五分の虫にだって、二分五輪の魂はあら。
たまにはむしゃくしゃして腹も立つだろう。
やけくそなような気持ちにだってなることはあら。
稼いでも稼いでも、正直一方でこすいことができねえ。
いつも下積みで、うだつがあがらねえ。
女は知らねえから、外で勝手なまねをしていると思ってる。
好きなことをしていると思ってるが、それどころじゃあねえ。
女房をこう抱えて、きょうの日を食って食ってなあ、
どう楽じゃねえんだ。
ああ、それこそ、血の涙の出るような思いをすることもあるんだ。
女も苦労だろう。そこは貧乏人は何ともしょうがねえ。
けれども、男は、男の身になってみりゃ、そんな苦労どころの話じゃあねえ。
そんなもんじゃねえんだ。だんがちがうんだ。
ちゃんが酒を飲み出した心持ちは、おらにはわかる。
誰だって飲まずにはいられねえ。
げんに旦那がそうじゃねえか。
え?
旦那みてえな人だって、ただむやみに飲みてえから飲むってわけじゃねえんだ。
ねえ、そうでしょう、旦那。
飲むったって、父のはごくときためだった。
松はぐっとうなって言った。
03:02
そうしていくらか気がまぎれて帰ってくる。
酒だけは人間をだまさねえ。
飲めばいくらか気をまぎらしてくれる。
だが帰ってみると、戸がしまってるんだ。
すきまからのぞいたってあかりも見えねえ。
戸をぴしゃっと閉めてみんな寝ちまってるんだ。
おかあけたぜ。
父はそっとこう呼ぶんだ。
低い声でよ。
そっと指の爪で戸をたたきながら。
おかあ、おれだ。あけてくんな。
けったぜ、おかあ。
すまねえがあけてくんな。
おふくろは寝ちゃいねえんだ。
目をさましてちゃんと聞いてるんだ。
父はいつまでも呼んでる。
たんたん、たんたん。
爪でそっと戸をたたきながら、
低い声でそっと。
おかあ、けったぜ。
うそはつかねえ。
おら聞いていたんだ。
聞いていて涙がでたもんだ。
ちゃん、戸なんかけやぶってはいんねえ。
ここはちゃんの家じゃねえか。
おらこうどなりたかった。
ほんとうに声かぎりどなりたかった。
けれどもどなるのはおれじゃねえ。
いつもおふくろだ。
さんざんぱらちゃんに呼ばせてから、
寝とぼけたような声で
だれだえ、という。
いまじぶんだれだえ。
なにかようがあるのかえってよ。
それからわめきだすんだ。
ちょうないじゅうが目をさますような声で
ありったけのざんそとあくたいをならべるんだ。
そうしてから。
それからいうんだ。
戸がしまっててはいれなきゃはいるにはおよばねえ。
どうせくらいよってるんだから。
そとでねてよいをさますがいい。
あたしの知ったこっちゃねえよってさあ。
まつのりょうほうの目から
そのとき涙がだらしなくこぼれおちた。
ふとくてくろくてがさがさにふしくれだった
ゆびのてのひらをかいしてほうをなで、
それからゆのみのもうそこになったのをすすった。
おふくろがねがえりをうつまで
おらだまってうごかねえ。
それからそーっとねどこをぬけだすんだ。
そーっとよ。
そしてかってくちをあげる。
そろそろとあげるんだ。
ちゃんはさむそうなかっこうで
しっぽをたれたまいごいぬみてえに
しょんぼりとやみのなかにたってる。
06:03
おらひくいこえでよぶんだ。
ちゃん。
はやくはいんだよ。
はやく。
ああ。
だんながもしこいつを知ったら
そうしたおれのしきがうそでねえ
むりはねえってことがわかってもらえるはずなんだ。
おらそれだけは
いわずにはいられねえんだ。
しんきちはじいさんにめくばせをして
からになったかれのゆのみへ
もういっぱいつよいのをそそがせた。
まつはきゅうにかおのひもをほどき
めじりをさげて
かたほうのてでぬれたほうをこすりながら
ぺちゃぺちゃとおとをさせて
それをすすった。
はなしでおさえられていたよいが
みるみるもりかえし
ふくれあがるんだし。
おらちゃんのようにはしねえ。
このめでみてるんだ。
やってくれえみみできいてるんだ。
まっぴらごめんくそくらえだ。
おらよこっつらはったわしてやる。
ぱっぱん。
こうだ。
ぐっともいわしやしねえ。
あたまからとなる。
やい。
かまのしたたきつけろ。
あしはらんだ。
みずをもってこい。
ぐずぐずしやがると
あしのほらぶっかくぞ。
こうだ。
のみたくなれやさけをかいにやる。
よなかだってなんだってえしゃがねえ。
やい。
さけをかってこい。
うそはつかねえ。
おらこのしきよ。
ちゃんはそれができなかった。
ちゃんは。
だがおらはまっぴらだ。
へえ。
まっぴらごめんそうろうだ。
まつがかんじょうをしてでていった。
しんきちはそれをぼんやりみていたが
こおったみちでつまずきでもしたのだろう。
まつがぶったおれて
なにかわめきたてているのをきくと
しんきちはすぐもろってくるといってそとへでた。
さあころせえやろう。
どうともしあれ。
まつはみちのうえへあおみけになって
てをふりまわしながらさけびたてていった。
しんきちはかれをだきおこしてやり
はだけたはんてんをあわせてやり
それからひだりのうでをこっちのかたへかけさせて
いっしょによろめきながらあるきたした。
かれはいきりたち
みぎのうでをふりにふりまわした。
くそったれ。ただじゃおかねえ。
それをあきずにくりかえした。
こよいはよっているんだから
らんぼをしないでおとなしくねるがいいぜ。
しんきちはそういった。
09:02
おめえのしきもいいがときとばあいがあるからな。
こんやはおとなしくねるんだぜ。
わかってるよ。
おれだってほどってものはしってらな。
だいじょうぶだから。
それじゃまあだんなもかぜをひかねえようにね。
ひどくひえるから
じゃひとつそこはなにもない。
あとはくちのなかでもぐもぐいって
かなりしっかりしたあしつきで
まつはあるいていった。
あぶないな。
わるくあばれるんじゃないかな。
しんきちはちょっとふあんになり
それとなくあとからついていった。
まつはよこちょうへまがったが
そこはいえがさんよんけんしかなく
むこうはあきして
つまりそのまずしいかくのすみにあたるらしい。
まつはひだりがわのながやの
いちばんはしのいえのまえへよっていった。
とおけあぶってはいんなよ。
まつがこどものときそうおもったという
そのことばがふっと
しんきちのあたまにうかんだ。
しかしまつはしまっているあまどのまえで
えんりょがちな
まつはひくいよわよわしいこえでよんだ。
おっかけったぜ。
あけてくんな。
けったぜおっか。
そしてゆびのさきで
とんとんとかるくほんのかるく
あまどをたたいた。
しんきちはにげだしたくなるのをがまんした。
はをくいしばるようなおもいで
まつのかなしいよびごえと
うったえるようなとうたたくおとをきいていた。
やがていえのなかからおんながだみごえでどなる。
あけすけなかしゃくのないばりがきこえる。
だがしんきちはがまんして
くぎょうでもするかのようにみみをすましていた。
そんなこといわれえでよ。
あやまるからよ。
なおっか。
そうださむくて。
おらこごえしんじまうよ。
なおっか。
おらこのとおりあやまるからよ。
な。
な。
かれがあまどにむかってじっさいにおじげをするのをしんきちはみた。
そしてそれからどのくらいたってか
かれはこのじょうけいのてんせいともいうべきこえをきいたのである。
どこかのとがきしみながらあいた。
そしてひくいささやくようなこえで
それはじゅうにさんのしょうねんのもののようであったが
こうよびかけた。
12:01
はいんなよ。
ちゃん。
はやく。
しょうがつもちかくなったあるよる
くもったなまあたたかいようなばんだったが
しんきちはやなぎやのだいばんへもたれかかって
いいきもちそうによっているまつのきげんを
なんのかんどうもなくきいていた。
まつはすばらしいきげんだった。
かれはしりさがにのめをいからかし
みぎてのげんこつで
なにかをなぐりつけるようなみぶりをくりかえした。
はやくしろ。
もんくうのかすな。
きておれのあしをあらえ。
おんなってやつはこれにかぎるんだ。
ほらこのしきだ。
ほんとうだぜおやじ。
おんなねえ。
おんなってやつはそれでちょうどなんだ。
うそだと思んなら。
しんきちのくちびるがふるえながらゆがんだ。
のどがごくっとなり
はなのおくがあつくなった。
そうだそのとおりだ。
かれはくちのなかでそっとこうつぶやいた。
おまえのいうとおりだよまつさん。
いいからよ。
さけだけはおれたちをだまさねえからな。
16:38

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