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子どものころの七つの話
蜂に刺された話
5 蜂に刺された話
昨 水木ゆう
子供ら数人と山へ遊びに行った。 私が子供の頃は、子供たちは小さな子も大きな子も
まちまちの年齢の子が近隣で一塊のグループを作って遊んでいた。 山へ遊びに行くときも、大きな子が小さな子を引き連れる形で行くのだった。
あけびか何かを取りに行ったのだと思う。 木によじ登ったり、やぶをガサガサ歩いているうちに、
たぶん、うっかり蜂の巣があるところに踏み込んでしまったのだろう。
私めがけて蜂が飛んできて、それを手で追い払おうとした。 スズメバチのような大きな蜂ではなく、アシナガバチか何かだった。
木が立っている蜂に手首のあたりを刺されてしまった。 たちまち真っ赤に腫れて、泣き叫びたくなるほど痛かったが、
とっさに大人から聞いた話を思い出した。 蜂に刺されたときは、消弁をかけるといい。
アンモニアが毒を消してくれるというものだ。 今ではその続説は迷信であり、
アンモニアが消毒どころかむしろ衛生的に問題があるのでやらないほうがいい、 ということがわかっている。
しかし、そのときはそう信じていたのだ。 私はすぐにズボンをおろし、腫れた手首に向って消弁をかけた。
信じられないことに痛みはたちまち消え、腫れも収まってしまったのだ。 紛れもない真実の記憶として、私の中にそのことが残っている。
ついでに消弁は様々なものを消してくれる効果があることを私は発見した。 あるとき神社で遊んでいると犬の糞を発見した。
何気なく私はそれに消弁をかけてみた。 すると、
たちまち犬の糞が跡形もなく消えてしまったのだ。 その後私はいろいろなものを消弁で消した。
親に見せたくない悪い点数の答案用紙、 壊れてしまったおもちゃ、
うっかり寝消弁をしてしまったときも自分の消弁でそれを消したりもした。
子供の頃の7つの話
夏の話
6 夏の話
子供の頃に住んでいた家の庭には小さな池があり、井戸の水がひかれていた。
井戸の水は年中ほぼ一定の水温で、夏は冷たく冬は暖かく感じた。 夏には畑で採れたもぎたてのトマトやスイカがよく池に浮かんでいた。
特にトマトは毎日のようにおやつ代わりに食べていた。 よく冷えた丸のままのトマトにかぶりついて汁を滴らせながら食べる。
今のトマトと違って青臭く酸っぱかったが凝縮された味と冷たさが贅沢だった。 夜になるとかやをつってその中で眠った。
縁側を開け放した座敷にかやをつっていたのは父のアイディアだったろうか。 風が通って
もちろんエアコンなどというものはなかったが涼しくて気持ちよかった。 そもそも今ほど暑くなかったような気がする。
夜になっても30度を超えているなどという日はなかったと思う。 庭に向かって開け放してあるので川もちろんいろいろな虫が舞い込んでくる。
うちは川と山が近かったのでホタルもたくさんやってきた。 昼間に遊びすぎて疲れ果て眠くて朦朧となった目に
かやの外を飛び交うホタルの光が映っていたのはほとんど幻覚に近いような記憶 として残っている。
かやホタルの他にもハエやガももちろん飛んできた。 ガは電灯を消すとすぐにどこかに飛んでいってしまったがハエは何が気に入ったのか
かやの周りをしばらくぶんぶん飛んでいたりしてうるさかった。 カナブンやクツワムシが飛んでくることもあった。
朝起きたら立派な角を持ったオスのカブトムシがかやに止まっていて喜んだこともあった。 カスミヤミに似ていたせいだろうか
スズメやツグミがかやに引っかかったこともあった。 大きなカルガモとカワウが飛び込んできた時にはさすがにびっくりした。
たぶんボスだろう。 巨大なニホンザルがかやに引っかかって暴れまくり
網をズタズタに引き裂いて逃げていった時には父も私もカンカンになってしまった。 捕まえて懲らしめてやろうとしたのだが追いかける私たちをキッと見返した眼光が妙に鋭く
思わずひるんで足を止めてしまった。 そのボスザルの口には
池から拾ったらしいトマトがくわえられているのが見えた。 子供の頃の7つの話
砂場の糞の話
7 砂場のフンの話
男の子が多い時は山に行ったり川で遊んだりしたが 女の子と遊ぶ時は家の中か近所のことが多かった
隣の家は旗屋で年中休みなくガシャコン ガシャコンと
旗織りの音が響いていた そこの娘は私と同い年でよく一緒に遊んだ
家に来て母の作った焼きリンゴを一緒に食べたり庭でママごとをしたりした ある日近所の砂場のようなところで遊んでいた
堤防の下の空き地のようなところで そんなところにわざわざ砂場が作ってあるはずもなく
多分たまたま砂地がそこにあって子供の砂遊びの場所になっていたということだったのだろう 春の暖かい日で堤防の土手に生えているシダレヤナギの新緑が砂場の上を
這いていて気持ちが良かった 私と旗屋の娘はその下で砂で何かを作って遊んでいた
私の指が何か細長いやや柔らかい感触のものを探り当てた なんだろうと思ってつまんでみたが砂にまみれてそれが何なのかよくわからない
指で押しつぶすと簡単にぐにゃりと潰れてしまった ふと私は思い当たりそれを放り出すと指を鼻に持っていった
強烈な臭気を感じ私は慌てて家に走り戻った 洗面所で手を洗い指の匂いを嗅いだ
匂いはまだ消えていなかった砂場の物体は犬のものか猫のものかわからないが 動物の糞に違いなかった
粉石鹸を指にまぶしゴシゴシとこすり何度も何度も洗った 匂いはなかなか消えなかった
その日は風呂に入ったのに風呂から上がっても匂いはこびりついていた 翌日も匂いは消えなかった
何日も匂いは消えなかったその指についた匂いは今現在に至るまで消えていない