夜が明ける時
夜明けが来た。雀の声は生唾液に似てゐた。
水仙は雨に濡れてゐようか? 水滴を付けて耀いてゐようか?
出て、それを見ようか? 人はまだ、誰も起きない。
――井戸端はさぞや、睡気にみちてゐるであらう。
(中原中也「夜明け」より抜粋)
🌅明時のCamp@Us|6月11日(火)
此日のclose-up
⚽️日本対シリア|テレビ放送・ネット配信予定 フジテレビ系列 -[LIVE]
【6月11日テレビ放送】サッカー日本代表 シリア戦|FIFAワールドカップ26アジア2次予選
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Camp@Us presents
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【明日/あした:あした】
あしたは、元は「朝」の意味で用いられ、「夕べ」に対する語であった。
あしたの語源は、「夜が明ける」などの「明け(あけ)」に、奈良時代の東国方言で「時」を意味する「しだ」で、「あけしだ(明時)」が転じた語と考えられる。
(語源由来辞典より引用)
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夜明け
夜明けが来た。雀の声は生唾液(なまつばき)に似てゐた。
水仙は雨に濡れてゐようか? 水滴を付けて耀[かがや]いてゐようか?
出て、それを見ようか? 人はまだ、誰も起きない。
鶏(にはとり)が、遠くの方で鳴いてゐる。――あれは悲しいので鳴くのだらうか?
声を張上げて鳴いてゐる。――井戸端はさぞや、睡気(ねむけ)にみちてゐるであらう。
槽[おけ]は井戸端の上に、倒(さかし)まに置いてあるであらう。
御影石[みかげいし]の井戸側は、言問ひたげであるだらう。
苔は蔭[かげ]の方から、案外に明るい顔をしてゐるだらう。
御影石は、雨に濡れて、顕心[けんしん]的であるだらう。
鶏(とり)の声がしてゐる。遠くでしてゐる。人のやうな声をしてゐる。
おや、焚付[たきつけ]の音がしてゐる。――起きたんだな――
新聞投込む音がする。牛乳車(ぎうにうぐるま)の音がする。
《えー……今日はあれとあれとあれと……?………》
脣(くち)が力を持つてくる。おや、烏(からす)が鳴いて通る。
(一九三四・四・二二)
出典:夜明け (中原中也) 抜粋