『はつもの2』井上新五郎正隆作品初演の会
はい、シェアする落語のshikeです。
2月4日、日曜日、高田のババババンバで、
井上新五郎正隆作品初演の会、はつもの2に行って参りました。
井上新五郎正隆先生というのは、落語作家さんでございまして、
もともと同人落語という、アキバ系の落語というコミケなどを題材にした、
斬新な新作落語で好評を博していたのですが、
本格的に擬古典を書くようになり、
もう既に様々な傑作を世の中に送り出しています。
今回のはつもの2については、はつものの2回目ということで、
それぞれ初演の落語3席を、3人の落語家がネタ下ろしをするという、そういう会でございます。
まずトップパッターが、立川寸志さんですね。
私の大好きな立川寸志さんが、
井上作品は2回目になるんだそうですが『十三人目』という噺で、
これはですね、寸志さんに、わりと井上先生は当て書きをする方なので、
寸志さんに当て書きをしたところがあるのか、結構長いです。
長いけど全く飽きない作品で、前半は博打と博打打をテーマにした滑稽噺で、
滑稽にいくんですけど、だんだんだんだんそれが人情噺になっていって、
人情噺で終わっていくというですね。
人情噺になっても泣かせよう泣かせようという感じではなくて、
ポンとギャグを入れて、雰囲気をサッと入れ替えて、また人情を感じさせるみたいなところがありまして、
凝った展開ではありますが、寸志さんのうまい語り口によってですね、
大変に面白い落語になりました。
もうちょい尺を縮められれば、結構立川流の寄席の、
トリはまだ寸志さんは取れないですけど、寸志さん真を打った後に取りでやるとかいうところで聴いてみたい作品ではありますね。
もう初っ端から井上先生さすがだって思わせるところがありました。
ちょっとタイトルが萩尾望都っぽいっていうのもご愛嬌でございましょうか。
立川志ら玉と柳家一琴師匠の演目
続いて立川志ら玉師匠ですね。
ずいぶん前の寸志さんは長かったですけど、僕はそんな長くありませんということで、
長くないのも当然で根問ものですね。
この根問物がですね『はらきり根問』というですね、
この組み合わせは史上初じゃないですかね。牢名主と新入りというですね、
ですから牢屋の中で展開する落語です。
これはもともと牢屋の中でずっと寝どい形式で展開する話だったらしいんですが、
志ら玉師匠がサゲをちょっと変えて牢屋の外にちょっと出ます。
それによってこの腹切りというテーマにサゲがちゃんとマッチしていい感じになったなと。
こういった作家と落語家のコラボレーションがやっぱり新作落語、
作家が書く新作落語ってすごい大事なところなんですよね。
特に老名主がツッコミで新入りの罪人がボケという構造の中で、
牢名主がすごく強めにツッコむんですけど、その割に結構優しいんですよね。
要は切腹ってどういうものかっていうのを説明するんですけど、
私が牢名主ならすぐ投げてるんですけど、ふざけるなって言って投げてるんですけど、
なんだかんだ言ってこの老名主が親切にどんなに散らしながらもちゃんと教えてくれるってあたりがすごく落語っぽくて、
志ら玉の持っているクラシックな雰囲気ともあってですね、非常に楽しかったです。
中入り挟みまして、柳家一琴師匠『なにやつ』という作品でございます。
柳家一琴師匠はドージン落語の時からですね、柳家小三治一門とは思えないぶっ飛んだ落語をですね、
積極的に手掛けていらっしゃいまして、すごくそれは楽しかったんですよね。
この師匠がこんなことやっちゃうんだっていうですね、雌豹のポーズが出てくるような落語をやっちゃうみたいなところがあって、
普段やってる落語とは全然違う遊びを入れていくっていうところで、やっぱり一琴師匠もそれやってて楽しいところあるんだと思うんですよね。
で、今回の『なにやつ』という噺なんですが、まあでも本当によくできてましたね。
これはね、今回三席ともそうですけど、ぜひもっと多くの人に聴いてほしいなっていうふうに思いますね。
で、これも一琴師匠が付け加えた部分がめちゃめちゃ面白くて、絶対古典でも出てこない手なので、あえて黙っときますけど、そこが最高良かったですね。
で、これは寸志さんが指摘されたことですけど、全体的な構造はね『松曵き』っていう落語に似てるんですよ。
殿様と三太夫で、三太夫が殿様をちょっとからかい気味にするっていうような形でですね。
殿様がちょっといじけ気味になるっていうあたりで、このやりとりがまずめちゃめちゃ面白いんですけど、そこに未知の動物が現れるんですよ。
未知の動物が現れて、それがお屋敷の中を荒らしてるというか、入ってきてさあ大変と。
それが猫のような動物なんですよね。猫のような動物がお屋敷の中に入ってきてさあ大変っていう話がどんどん拡大していくのと、
で、この滑稽なやりとりではあるんですが、なんだかんだ言ってこの殿様は優しいんですよね。優しくて、その謎の動物を可愛がるんですね。
で、この謎の動物っていうのが、例えば猫って言ったら、聞いてる人の頭の中には猫がね、それぞれの猫が頭に浮かぶと思うんですが、
何しろ謎の動物なので、なかなか多分、みんな想像する動物の姿が多分バラバラであって、解像度もそれぞれ違うと思うんですよ。
その解像度が話が進むにつれて上がってくる人を見ればそうじゃない人もいて、それはそれぞれに面白い。お客さんによってそれぞれに面白い。
多分ポケモンキャラみたいなものを頭に思い浮かべる人が結構多いと思うんですけど、それだと辻褄が合わない部分ってすごい出てくるんですよね。
それは合わないまんまにしておいて、その謎の生物を巡ってお屋敷の中で大名と家来が大騒ぎしてるっていう図がまあ面白くて。
これがね、やっぱりね、一琴師匠がやるから面白いっていう話ですよね。一琴師匠も古典落語ではできない遊びをドーンと入れてくるっていうところが楽しそうで、見ててすごく良かったですね。
こういう新作落語のネタおろしっていうのは何が正解かとかないわけですよね。だってこの世に全くなかったものなわけで、そこはもう古典落語と明らかに違う。
で、そのしんどさみたいなものを枕で振ってたのは寸志さんと志ら玉師匠だったんですけど、一琴師匠は逆にどうせ誰も知らないんだから、作者と俺しか知らないんだから、いろいろ遊べちゃうよっていうようなスタンスで行って、
その一琴師匠の古典で積み上げてきたキャリアを遊びの部分でダンと出していくと、本当に古典の一琴師匠しか知らない人にとってはびっくりするぐらい新鮮で面白い落語になってたんじゃないかと思います。
で、その後ですね、作家の井上先生も交えて4人でトークで、こういうとき回せるのは寸志さんですから。寸志さんが回して、今回の背景みたいなところをおしゃべりしていただいて、これもまた非常に興味深いテーマです。
興味深い内容でした。
とにかくね、まずね、3席とも笑った。『十三人目』はちょっと泣ける要素も入ってるんですけど、基本やっぱり井上先生のギャグセンスが前よりやっぱり磨かれてるのかなっていうような感じですよね。
古典落語だったら、こう来たらこう来るだろうっていうようなセオリーをちょっと外しているところに笑いが生まれて、でもその落語の範疇に綺麗に入ってるっていうところが、やっぱり井上新五郎正隆の擬古典作品には優れてるポイントなんじゃないかなというふうに思います。
そこに演者である落語家さんがそれぞれに遊びを乗っけてくると、ますます面白い感じになって楽しめるということで。
終わった後、懇親会もありまして、プラス3000円でおいしい料理とおいしい日本酒などもいただけまして、大変リーズナブルな会だなというふうに思いました。
みんな料理は2番目で、1番は師匠方とのお話が楽しいというような会ですね。
本当にいい一夜を過ごさせていただいたなっていうのがまず一番あるのと、3席ともすごい面白かったんで、とにかくもう一回やりましょう。
掛け捨ては禁止で。新作って掛け捨てってよくありますけど、今回の作品は3つとも掛け捨ては持たない。
できればそれぞれに当て書きされてると思うんですが、このお三方でちょっとネタを高下してみるとか、そういうのもあってもいいんじゃないでしょうか。
なんかね、井上先生の作品がどんどんスタンダードになっていけばいいなっていうふうに、100年たったらもう古典になってるかもしれないと。
100年たって古典になった時に、テッテレーっていうフレーズがあたかもアジャラカモクレンみたいな感じに捉えられて定着してたりするんじゃないかなっていうふうに考えると、楽しいですね。楽しい夜でした。
この回また5月にまた別の形でババマでやるみたいですので、ぜひご来場ご検討いただきたいなというふうに思います。楽しいよ。
ということで、井上新五郎正隆先生の作品はやっぱりすごいなと思った。井上新五郎正隆先生の作品を自分のものとしてしっかり回せていく落語家さんの方々、落語家の方々ってのは、やっぱすごいなっていうふうに思った。
そんな楽しい一夜でした。シェアする落語の四家でした。ではまた。