2022-03-11 07:42

(1)ああ、開幕戦 隠し球で負けてしもたぁ

阪神が21年ぶりにリーグ優勝した昭和60年。感動で身震いしたバース、掛布雅之、岡田彰布の甲子園バックスクリーン3連発。古葉竹識率いる広島との死闘。日航ジャンボ機墜落事故での球団社長死去の衝撃…。そしてつかんだ栄冠。「吉田義男監督誕生秘話」から「栄光の瞬間」まで、トラ番記者だった田所龍一の目線で、音声ドキュメントとしてよみがえります。

昭和60年の阪神の快進撃を象徴する〝伝説〟の試合―とくれば、誰もが4月17日の巨人戦での甲子園バックスクリーン3連発―と言うでしょう。

 でも、トラ番記者たちが「今年の阪神は違うで」「何かが起こりそうや」と感じたのは、この3連発が出発点ではありませんでした…

 


【原作】 産経新聞大阪夕刊連載「猛虎伝―昭和60年『奇跡』の軌跡」
【制作】 産経新聞社
【ナビゲーター】 笑福亭羽光、内田健介、相川由里

■笑福亭羽光(しょうふくてい・うこう)
平成19年4月 笑福亭鶴光に入門。令和2年11月 2020年度NHK新人落語大賞。令和3年5月 真打昇進。特技は漫画原作。

■内田健介(うちだ・けんすけ)
桐朋学園短期大学演劇専攻科在学中から劇団善人会議(現・扉座)に在籍。初舞台は19 歳。退団後、現代制作舎(現・現代)に25 年間在籍。令和3年1月に退所。現在フリー。
テレビドラマ、映画、舞台、CMなどへの出演のほか、NHK―FMのラジオドラマやナレーションなど声の出演も多数。

■相川由里(あいかわ・ゆり)
北海道室蘭市出身。17歳から女優として、映画、ドラマ、舞台などに出演。平成22年から歌手とグラフィックデザイナーの活動をスタート、朗読と歌のCDをリリース。平成30年「EUREKA creative studio合同会社」を設立し、映像作品をはじめジャンルにとらわれない表現活動に取り組んでいる。
猛虎伝原作者田所龍一

【原作】
■ 田所龍一(たどころ・りゅういち)
昭和31年生まれ。大阪芸大卒。サンケイスポーツに入社し、虎番として昭和60年の阪神日本一などを取材。 産経新聞(大阪)運動部長、京都総局長、中部総局長などを経て編集委員。 「虎番疾風録」のほか、阪急ブレーブスの創立からつづる「勇者の物語」も産経新聞(大阪発行版)に執筆

 

番組のフォローと高評価をお願いします!
Apple Podcastでは皆様のレビューも募集しています。


■産経Podcast オススメのスポーツ番組

『音声で聴く スポーツ、ここが知りたい』:産経Podcast「音声で聴く スポーツ、ここが知りたい」は、アスリートご本人やコーチ、団体運営者の肉声インタビューをお届けします。
 
■番組SNSでは最新情報をお届け
Twitter 
Facebook 
 
■産経Podcast 公式ウェブサイト
https://sankeipodcast.com/

■産経iD 公式ウェブサイト
https://id.sankei.jp/
※会員登録(無料)することで、会員限定のPodcastコンテンツを聴くことができます。

■産経Podcastとは
新聞紙面では伝えきれない情報を、産経新聞社の精鋭記者陣が厳選。
インタビュー、ドキュメンタリー、歴史、エンタメなど、15タイトル以上のオリジナル音声コンテンツをお楽しみください。 

 

 

 

See omnystudio.com/listener for privacy information.

00:01
ナビゲーターは、私、内田健介でお届けします。
第1話
ああ、開幕戦。隠し玉で負けてしまった。
昭和60年
トラ番記者たちが、今年の春、
昭和60年
トラ番記者たちが、今年の阪神は去年とは違うと感じたのは、
2月1日から始まった高知秋キャンプである。
二隷子に抜擢された岡田と、翔と平田との何時間にも及ぶ
閉鎖特集が連日行われた。
その規剥は、そばで見ていた記者たちの目を釘付けにした。
吉田監督と市枝コーチが交代でノックを打ち続け、厳しい声が飛ぶ。
岡田の横で声を張り上げていた吉田監督はたまらず、
自らグラブを持って手本を示して、攻めの守りを教え込んだ。
ベースを蹴り、軽やかに飛び上がる姿はまさに、黄年の牛若丸である。
吉田監督は常に実戦を想定し、練習のための練習はさせなかった。
キャンプ定番の個人ノックでは、打球を取って終わるのではなく、
その後一塁へ早急させた。
どんな体勢で取っても、一塁へ早急して、
奏者をアウトにして初めて一つのプレーが完結するんですわ。
そして、これまで単に塁管を流すように走っていた練習最後のベースランニングも、
走る前に選手が、
ワンアウト二塁、左中間二塁だ、と自分の走る状況を大きな声で宣言。
実戦に即した形で総塁した。
着実に阪神の選手は上手くなってる。今年は違うでぇ。
03:04
そんな手応えを感じた。
ところが、広島カープの担当記者は、
そんな練習、カープでは何年も前からやってますよ。
えっ、阪神はやってなかったんですか?
信じられん。
と、バカにしたような顔で言うのだ。
くっそー。絶対に勝ったるわい。
こうして、昭和60年4月13日、広島カープとの開幕戦を迎えたのである。
広島市民球場での開幕戦。
試合は序盤、互角の戦いとなった。
阪神の先発の池田が広島打線を3回までノーヒットに抑え、
3回には自らがライト戦へ先制への頼り。
その池田を一塁において、
一番の真由美が左中間スタンドへ今季一望通乱を放った。
王者相手に3対0。
だが、3回に福井球神から投球動作が一瞬中断していると、
二段モーションを注意された池田が、
4回2アウトから突然、乱れ始めた。
連続フォアボールで1-2類とした後、
小林川のセカンドゴロー、岡田がグラブの下を抜かれるエラー。
ノーヒットで1点を失うと、
6回には山崎にこの試合初ヒットを打たれ、
続く押さないに2コンの同点通乱を浴びる。
あかんがな。
打戦は広島の先発大野に6回以降は手も足も出ない。
3番バースは1併殺に3三振。
4番の加計夫は3回に今季初ヒットをライト前に放ったものの2三振。
頼みの手法コンビが合わせて5三振。
それでも阪神は延長10回にチャンスを作った。
代打北村がレフト前にヒットを放ち、
真由美がバントで送って1ナウト2塁。
そして打者はここまでにやんだしている2番の広田を迎えた。
よっしゃ勝てるで。
一瞬グラウンドから目を離したその時だった。
広島市民球場が悲鳴とも歓声とも、
広島市民球場が悲鳴とも歓声とも取れる絶叫に包まれた。
なんや何が起こったんや。
グラウンドに目を戻すと二塁ベース上にいるはずの北村が尻餅をつき、
鼻から血を流してへたり込んでいる。
その横で広島の二塁手木下がボールを持った右手を突き上げている。
そして累進のアウトのコール。
06:00
嘘やろ?まさか隠し玉?
これが現実だった。
控選手でもスコアラーでもマネージャーでも誰でもいい、
ベンチに入っている者が一人でもボールの行方を追い木下が持っていることに気づいて声をかけてさえいれば、
隠し玉は防げたはず。
目の前の勝利に浮き足立った半身ベンチ。
その甘さにつけ込んだカープの抜け目の無さ。
王者の野球を思い知らされた。
試合はその裏、半身は抑えの山本が打たれ、3対4でさよなら負け。
試合後、吉田監督は机に帽子を叩きつけた。
この悔しさは忘れたら飽きまへん。
一年間絶対に忘れたら飽きまへん。
ええ、忘れまへんで。
吉田監督は三度、自らに言い聞かせた。
07:42

コメント

スクロール