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2023-06-25 25:33

父の白い本

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白い本という生。

カラスヤサトシ『おのぼり物語』はこちら
第12話ザ・ダイヤモンズが語る『因果』の話⁠はこちらhttps://open.spotify.com/episode/77ghZxhuv61RzlkwovJjrJ?si=w9cdJnlDSveyGhDvpsHoJQ
⁠第13話ザ・ダイヤモンズが語る『愛』の話はこちらhttps://open.spotify.com/episode/55bKsoAkbVui0GkbgFjJu9?si=A4MuH23dTM2rA7QpJmc-8A

サマリー

4年前に父が亡くなった人が、父親が書いた本を見つけました。その本は、人を辞めさせる方法を書いていて、父親がリストラされた経験が詰まっていました。この本が人間の意思や生命について考えるきっかけとなり、物語の主人公として生きることができるようになりました。また、父の白い本からは、父親の仕事に対する覚悟と立派さが伝わります。

父の荷物を整理する
muro
こんにちは、のらじおのMuroです。
かえ
こんにちは、かえです。
えっと、私の話なんですけど、
muro
はい。
かえ
私の父が4年前に亡くなったんですね。
で、いろいろ父の荷物があって、
しばらくはなかなかね、やっぱり気持ち的に整理できなかったんですけど、私も母も。
でも母が半年ぐらい経ったときに、ちょっとずつ片付けていこうって言い出して、
あんたも手伝ってほしいって言われて、
で、本がたくさんあったんですね。うちの父は本が好きだったので。
で、その中からちょっと抜いて自分のものにしたいものもあったので、父の消化から。
で、私は本を整理するわって言って。
で、そのときは、欲しいもんだけ抜いて、
私の興味のない本は、まあブックオフ持って行って売るなりして片付けようかなーって軽い気持ちだったんですけど、
muro
扉のついた本棚があって、観音開きのガチャってこう開けて、そこにびっしり本が詰まってたんですけど、
かえ
うちの父はずっと会社員で人事をずっとやってたので、半分ぐらい人事関係のその仕事の本。
3分の1ぐらいが、半分が仕事の本で、4分の1が小説とかそういう本で、残りの4分の1は歴史の本みたいな感じ。
で、どっから手付けようかなと思ってこう眺めてたら、ふと一冊だけ背拍子が真っ白の本があったんですよ。
muro
はい、そういうデザインの本?
かえ
で、え?って思うじゃないですか。真っ白い本、え?って思って出して見てみたら、それは背拍子が真っ白なんじゃなくて、
カバー、もともと売ってる時からついてるカバーが裏返されて付けられてた。
だから表の表紙も全部真っ白、とにかく外見全部真っ白で、あれ?って思ってパッてそれを開いてみたら、
それが人をクビにする方法みたいな、人を辞めさせる方法みたいな本だったんですよ。
muro
はい。
かえ
で、うちの父は何回か転職したんですけど、一番長く勤めた会社を辞めた理由っていうのが、
すごい不況で、もう会社が人件費削減、人をリストラしないといけないみたいな状況になってて、
真っ白な本と父の辞職
かえ
で、父はその時の人事の担当だったので、それを任されたんですね、会社から何人辞めさせるようにみたいな指令が出て、
で、まずは希望退職者を募って、っていう方法を取る時に、もうすごい制度をいろいろ整理して、
辞める人にとっても有利になるようにいろいろ考えて制度を作って、それで希望退職者を募り、
間に合わない分はもうなくなく辞めさせるっていうことをやって、それがすごく嫌だった、すごく辛かったっていう話は母から聞いてたんですよ。
muro
最終的に、それお仕事が全部完了した後に、自分の作った制度で自分も辞職をして、自宅会社を辞めたんですけど、
かえ
話としては知ってたね、そのことをお母さんが言ってたんで、お母さんはちょっと辞めてほしくなかったとか言って、長く勤めて会社だし、
本音言うとちょっと残ってほしかったんだけど、でもお父さんの気持ち的に、
それを命令した会社のことも信用できないし、それをやった自分のことも許せなかったから辞めたんだよ、みたいな話を聞いてて、
muro
そのことが全部、その裏返された表紙に詰まってったんですよね。
かえ
それはそのために使った本であることは間違いないんだけど、自分にとって後ろめたさがあるから、
背拍子を、背拍子じゃない、カバーを裏向けて隠してた。
でも捨てればいいじゃないですか。
でも捨てずに、それを取っておいたことにも、たぶん意味があるなって思ったんですよ、私は。
muro
なるほどね、捨てられなかったんだ。
かえ
これを、そうそう、なかったことにできない。
けど見るのも辛いっていうのの、結果として、背拍子、カバーを裏返して、真っ白の状態で本棚に置いておくっていう行為があったんだなって思って、
その途端に、それを理解した途端に、この本棚の中の本全てに意味があるような気がしてしまって、
これなんか外付けハードディスクみたいな、父の外付けハードディスクなんじゃないかみたいな、この本棚が、
一冊一冊がそこにあることに、その父の生きたことが刻まれてるんじゃないかみたいなことになって、思ってしまって、
muro
これ処分できんなって、そのまま処分してない、そのまま残ってるんですけど、
でもなんかすごい考えて、なんか人が死ぬってどういうことなんやろうなみたいな、
かえ
この本がここにそのようにしてあるっていうのは、父の意思が残っているのだし、
一部生きているのと同じなんじゃないかなみたいな気分になったっていう話。
muro
なるほどね。面白いね。人間の境界がどこにあるんだろうっていう話。
かえ
そうそうそうですね。
muro
それって人間の意思の一部だもんね。
かえ
生物学では延長された表現形っていう概念があるんだけど、ビーバーのダムとかがそれに該当するんだけど、
今の話だと、かえちゃんのお父さんの本棚は、かえちゃんのお父さんの延長された表現形だったから、
muro
お父さんの文字通り一部が残ってるっていうこと。
かえ
そうそうそうそう、そう思いましたね。急にそれが分かったみたいな感じ。
人間の意思と生命
かえ
分かるなぁ。僕のおじさんは多分それがあるから、僕の祖父母が亡くなったときに祖父母の家壊しちゃったんですよね。
いろいろ物もあったし、固定資産税も大したことないから別に取っ取ってもよかったと思うんですけど、
muro
取っ取っても使わんし、使わないと家悪くなるから意思もかかるし、壊しちゃったんだけど、取っておくと延長された表現形だからでしょうね。
いつまでも生きてるようになるからでしょう。
おじさんから壊しちゃったのかなと思うんだけど、それとはまた全然別軸の話で、僕の祖父、日中国交正常化の前に中国に行ってるんですよ。
で、習恩来と握手してる写真があったんですよね。
すごいですね。
かえ
僕その写真が欲しかったんだけど、家族写真はおじが持っていくっていう話だったから、取らないで置いておいたんです。
muro
祖父が亡くなったとき、写真を全部整理したんだけど、祖父が癌で糖尿してから亡くなったから、亡くなるまで結構時間あって、全部きれいに整理してあったんですよ。
かえ
家族のプライベートな写真と、自分の仕事の写真と、全くパキッと別れて整理されてて、おじが家族写真だけ持って帰ったみたいなんですよ。
muro
で、仕事の写真は置いて家と一緒に潰しちゃったみたいで、習恩来の写真がどこに行ったかわからなくなったんですよ。
かえ
一緒に家の方に残ってたかな。
おじが東北の方に住んでるんですけど、おじんちに遊びに行ったときに一緒に探したんだけど、おじが引き上げたアルバムには載ってなかったので、見つからなくて残念だねって思った。
それは残念。
muro
残念。だから、取っとったらいいよ。取っとけるうちは。
かえ
そうですね。
一冊だけ裏拍子になってるもんね。
明らかに意思がありますよね。
言葉にできないね、それね。
muro
そう。
非常に複雑で服装的な、人間の気持ちみたいなものをめちゃめちゃ感じるよね、それ。
かえ
で、その一連のリストラのことっていうのと、その時の父の動きっていうのはとても父らしいと思っていたので、
余計にその苦悩が詰まった本、しかもその苦悩の詰まり方が裏返されたカバーに、全部出てんなっていう感じだったから。
濃度が濃いっていうか。
なんか、人は2度死ぬみたいなとかってすごいよく言うじゃないですか。
身体が死ぬのと、記憶が、人々の記憶が忘れ去った時に、みたいなことっていうのは、頭では理解してたんですけど、ずっと前から。
muro
でもなんかその本棚で、その本を見た時に、それがわかったっていう感じ。
かえ
こういうことか、みたいな。
muro
そうだよね。説明しづらいね。
かえ
説明しづらいって言ったら、なんかちょっとあれか、こう、なんて言うんだろう、なんて言うんだろうって感じだな。
なんか何にも知らない人から見たら、何もないんですよね。
muro
なんで裏返されてるんだろう、ぐらいのことだと思うんですけど。
かえ
関係性の中に、物語の中に、生がある、生きるという、生命がある、みたいなことを思いました。
muro
そうだね。物語の中に生命があるか。
かえ
そうだね。
muro
なんかすげえ、何て言ったらいいんだろう。今僕は、人間は一人では生きられないんだなっていうことを思った。
どういうことかというと、ちょっと説明が冗長になると思うんだけど、
僕、からすやさとしっていう漫画家は好きだって、でももう10年ぐらい読んでないから、
かえ
ここ10年の作品がどうだったかよく知らないんですけど、からすやさとしがおのぼり物語っていう漫画を描いてるんですよ。
muro
自伝的な漫画なんですけど、からすやさとしが漫画家になりたくて、東京に出てきて、けど漫画の仕事ないから、
かえ
1年か2年間ぐらいずっと東京でブラウラしてるっていう。
muro
で、その出会った女の子と恋するんだけど、その恋も全然うまくいかなくて、みたいな。
で、道端に牛ガエルがいるのを見つけて、そのまま家に帰るんだけど、家に帰ってから、
あのカエル、車に轢かれちゃうんじゃないか、道に避けてあげればよかったって思って、
カエルのところに取りに戻るんだけど、彼の目の前でカエルが車に轢かれてしまい、
かえ
あまりのショックでその場で戻してしまうみたいな、そういう漫画なんだよね。
で、やっぱりその漫画の中で、からすやさんのお父さんが亡くなるんだよ。
muro
で、49日だか葬式だかで、からすやさんが、地元が平方なんですよね。
で、その平方に帰って、大阪の平方に帰って、その家族と過ごしてるときにお母さんに、
あなたは東京でね、一人で暮らして、嫁さんもいなくて、仕事もしてなくて、
毎日おもちゃで遊んで、彼はゴム人形を戦わせて遊ぶっていう遊びを思いついてて、
それすごい面白いんですけど、それを日がな一日やってるみたいな。
で、漫画読んで、おもちゃで遊んで、
それって人生を生きてるって言えるか?って言われるんですよ、親に。
で、それを読んだときに、僕はね、やっぱちょっと泣いちゃったんですよね。
当時僕も博士課程の学生で、仕事もないし、将来の見通しも立たないし、
今でも立ってないけど、あれから10年、いまだに立ってないとは思わなかったけど。
カラスヤさんの物語
かえ
で、なんていうかな、もう人から見たら何やってるか分かんないようなことをやってるわけですよね。
で、キューバに行ったり来たりして、そんなのって生きてるって言えるか?って言われたら、
muro
相当微妙なとこだなってやっぱ思ったんで。
けど、カラスヤさんは自分で自分のことを物語にしたし、
その物語にする過程で、彼一人ではない編集さんがいて、雑誌がいて、
彼の漫画の中ではダメ人間として描かれているんだけど、
ダメ人間の編集さんが彼を見出して、彼を漫画家として成り立つようにしてくれるきっかけを作ってくれるんですよね。
そうすることでカラスヤさんが、人生を生きていない、生きてるんだか死んでるんだか分かんないような幽霊みたいな存在から、
物語になることによって、人間になる、生きるっていうことになるんだ。
もしくは生きたということになるんだって思った。
かえ
それが今のかえちゃんの話とすごく生合して、
muro
かえちゃんのお父さんの一人称の話だけだったら、やはりそれが生きたか死んでるんだか分かんないんだけど、
かえ
かえちゃんを通してこうやって語られることによって、ひとつの物語になることによって、
muro
やっぱりお父さんが生きたということになるのであり、
かえ
お父さんが生きたということによって、その本棚が延長された表現形として、生きているということになるんだなというふうなことを思った。
だから、僕たちは誰かに語ってもらう必要があるんだって思った。
だから誰からも語られない限り、やはり僕は生きてはいないし、存在しないも同然なんだっていう感じだよね。
それだったら、引用リツイートは結構意味ありますよね。
muro
許さないけどね。
僕の望む形以外での僕の物語を許さないけどね。
こういう態度だからね、だめなんでしょ。
誰も僕のことを語ってくれないんでしょうね。
かえ
望む形でね。
望む形で。
muro
望む形で語られようとしてるから語ってもらえないんだろうね。
かえ
そしたら、カラス屋さんみたいに自分で語っていけばいいですね。
muro
自分で語っていけばいい。
かえちゃん読んだことあると思うけど、僕のキューバ生活、一応小説になってるじゃん。
かえ
面白かった。
面白かった?
世に出してほしいです。
muro
そう。
かえ
え、でも完結してないですよね、たぶん途中まで。
muro
完結してない、7本書くつもりで3本しか書いてない。
かえ
あれいいと思います。
muro
そっか、面白かったって言ってくれたのかえちゃんだけですよ。
かえ
え、そうですか。面白かったです、あれは。
muro
たぶん20人ぐらい読んだと思いますけどね。
かえ
なんか、匂いを感じました。匂いって雰囲気みたいな。
ありがとう。
感想を送ったと思いますけど、本当に良かったです。
muro
ありがとう。かえちゃんぐらいです。
そうなんだ。
かえ
だから、自分で語るか。
語っていきましょうか。まあ、ポッドキャストもそうだしね。
ね、確かにね。
みなさんが聞いてくれているから。
でも、味わい深いな。
今の話、あれなんだよな、僕が好きな話、3つ選べって言ったら入ってくるのは確実に。
父の白い本
muro
この3つの中には、あれです、ダイヤモンズの青柳浩哉さんのインガと愛の話が入ってきます。カントリーマンラジオの。
かえ
カントリーマンラジオの?
muro
カントリーマンラジオの第12話、13話で、インガと愛の話。
あ、はいはい。
かえ
お父さんが猫を拾ってくる話。
すごい良い話。
muro
あれと同じカテゴリーって感じ、僕の白い本の話。
かえ
そうですね。
結構、その時は大変ショックというか、衝撃だったけど、思い出すたに、良い話だなって思いますね、自分でも。
muro
いろいろな角度で話せるような気がするんだな、これ。今、この角度で話しちゃったけど。
かえ
お父さんがその仕事をやり切ったみたいなのもすごい、なんていうのかな、今の僕なら分かるって感じかな。
多分10年前の僕だったら分かんなかったと思う。辞めりゃいいじゃんって思ったと思う。
けど辞めても一緒だもんね。誰かがやらなきゃいけないから、その仕事もおそらく。
誰かがやらなきゃいけない仕事を覚悟を持ってやり切るみたいな。
muro
でもそれでダメージを負っちゃうみたいなのって、やっぱ筆舌に尽くしがたいものがあるなって。
かえ
そうですね。
まだその話を母に聞いたときは、父は生きてましたけど、その話自体を、リストラーの話を聞いたときは。
muro
父は高校生か大学生ぐらいだったと思いますけど、大変誇りに思いましたね、父のことを。
かえ
立派だよね。立派だと思う。
なかなかね、自分で作った制度で最後自分が辞めるとかなんかちょっと、出来すぎた話やんけって思いますけどね。
muro
出来すぎた話やんけ。
かえ
かっこよろしやないのって感じですね。
muro
そうね、深く傷ついたんだよね。
とどまれなかったんだよね。
かえ
そうでしょうね。
muro
わかる。これも多分今ならわかるっていうか、
わかるっていうか、今ならその一端を想像できるみたいな。
人間がそのような気持ちになりうることが想像できるみたいな感じですね。
かえ
10年前だったらやらないやんけって思っただろうなって。
muro
傷つくなら。
かえ
偉い。
偉いですね。
偉いと思う。立派だと思う。
本が捨てられないみたいなのもやっぱ立派だよね。
そうそう、多分なかったことにできなかったなって思いますね、自分の中で。
もうこれを裏返すぐらいも見たくないし、見られたくもないのに、でも捨てられないっていう。
ありがとうございます。
muro
ええ。とんでもないです。
かえ
個人に代わりまして。
muro
いやー、僕謎に言われてもね、僕は生きてるって言えるかっていう人生をやってるんで。
かえ
はい。こんな感じですかね。
muro
こんな感じですかね。
かえ
はい。
muro
それではまたお会いしましょう。ごきげんよう。ムロでした。
かえ
ごきげんよう。
25:33

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