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新茶 岡本かの子
それほど茶好きでなくとも 新茶には心惹かれる
あの年寄りじみたきつい苦みがないし 晴れ晴れしい匂いがするし
茶というよりも 若葉の雫をすするという感じである
色がいい 白磁の茶碗の範を満たして揺らめく
清湖の水 さなりき
誘う妊婦も 誘われる男妖精も
共に神像仰かりし 妖艶とした湯気の隙間から
茶碗の岸にそういう美麗が見えるような気がする その茶碗を手のひらに受けた
一口二口唇に触れては庭を眺める 身をつけた若楓の枝の下に池があって
そこにすく陽光の水の空に へらぶなが
去年帰った一寸ばかりの小舟を四匹ほど従えて ひれを休めている
この時身に合った合わせの上に やや幅狭の博多帯が
肩からず揺るからず 胸にしまっていてくれれば他に何を望もう
しみじみ 日本の土に生まれて
日本の女であることが自分で味われる 西洋人の中で
好んで日本の緑茶を飲むのはアメリカ人だが 必ず砂糖を入れて飲む
お話にならない まして新茶の風味などは思いもよらない
およそ思考飲料は香料の喜びのほかに 一種の客観性の心境を作らせる作用がある
世相がまま熱湯でなければ 焼鎮に傾きやすい時に
それに釣り込まれないよう 客観性を平行に保つことは
私たちに必要なことであるさればといって 不経済不健康ほどに思考飲料を取るのも
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行き過ぎである 今や天地僧侶の木に生じて
新茶一碗の福良は 傍聴にわずかに許さるべき
自然の贈り物ではあるまいか 煎茶堂の忠孝の曹
上田明が書いているもう何もできぬゆえ 煎茶を飲んで死を極めているばかりだ
しかも それが何もかもし尽くした年齢
75の時のあきなりの源だから 茶には
どこか余裕のあることがわかる
