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2021-12-13 04:06

#15【青空文庫】風

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竹久夢二「風」

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Takehisa Yumeji title:Wind

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風、たけひさゆめじ。 風が山の方から吹いてきました。
学校の先生がお通りになると、町で遊んでいた生徒たちがみんなお辞儀をするように。
風が通ると、林に立っている若い梢も野の草もみんなお辞儀をするのでした。 風は町の方へも吹いてきました。
それはたいそう面白そうでした。 教会の十字塔を吹いたり、煙突の口で鳴ったり、
町の角を回るとき、とんぼ返りしたりする様子はとても面白そうで、 ちょうど子供たちが
「鬼ごっこするもん寄っといで。」 というように
「ダンスをするもん寄っといで。」 と言いながら風の遊び仲間を集めるのでした。
風が面白そうな歌を歌いながらダンスを踊り回るので、 星物台のエプロンや子供の着物もダンスを始めます。
すると木の葉も枝の端で踊り出す。
町に落ちていた煙草の吸い殻も紙くずも空に舞い上がって踊るのでした。 その時、町を歩いていた甲太郎という子供の帽子が浮かれ出して、
いつの間にか甲太郎の頭から飛び降りてダンスをしながら町を駆け出しました。 その帽子には長いリボンがついていたから、
遠くから見るとまるで鳥のように飛ぶのでした。 甲太郎は驚いて、
「止まれ!」 と号令をかけたが、帽子は聞かないふりをして風とふざけながら、
どんどん大通りの方まで飛んで行きます。 一生懸命に甲太郎は追っかけたから、やっとのことで追いついて帽子のリボンを抑えようとすると、
またどっと風が吹いてきたので、今度はまるで輪のようにくるくると回りながら駆け出しました。
「ぼっちゃん、なかなか捕まりませんよ。」 帽子がかけながら言うのです。
すると今度は大通りから横町の方へ風が吹きましたので、 甲太郎の帽子も風と一緒に横町へ曲がってしまいました。
そしてそこにあったビール樽の影へ隠れました。 甲太郎は大急ぎで横町の角まで来たが帽子は見つかりません。
「ぼくの帽子がないや。」 甲太郎はもう泣き出しそうになって言いました。
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帽子を連れて行った風も甲太郎を気の毒になってきて、 「ぼっちゃん、
私が見つけてあげましょう。」 そう言ってビール樽の影の帽子の尻尾をひらひらと吹いて見せました。
甲太郎はすぐ帽子のあるところを見つけました。 甲太郎は帽子の尻尾をつかんで叫びました。
「風やい、もう取られないぞ。」 甲太郎は帽子のつばを両手でしっかり握って言いました。
風はそう言いながら飛んで行きました。 エプロンも木の葉も紙くずもまたダンスをしていたけれど、
甲太郎の帽子はもうダンスをしませんでした。
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