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2022-12-05 06:27

#67【青空文庫】眼鏡

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織田作之助「眼鏡」

#この朗読は、原文ママを修正せずに(そのまま)朗読しています。

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Oda Sakunosuke titiel:"Glasses"

#This reading remains an error in the original text.

00:01
眼鏡 織田作之助
3年生になった途端、道子は禁止になった。
明日から眼鏡をかけなさい。 売っちゃっておくと、だんだんキツくなりますよ。
体格検査の時間にそう言われた時、道子はぽーっと赤くなった。
なんだか胸がドキドキして、急になよなよと友達の肩に寄りかかって、
売っちゃっておくとひどくなるんですって。 胸を病んでいると詮告されたような不安な顔をわざとして見せたが、
そのくせちっとも心配なぞしていなかった。 むしろいそいそとした気持ちだった。
その晩、道子は兄弟のそばを離れなかった。 かけては外し、外してはかけ。
姉妹に耳の付け根が痛くなった。 風邪をひいて首にガーゼを巻いた時みたいに、
明日はしょんぼりうなだれて学校へ行こうかしら。 そしたらみんな寄って慰めてくれるわ。
それともシャキンと胸を張って行こうかしら。 素敵ね、よく似合うわと言ってくれるわ。
そんなことを考えていると、 おい道子、だらしがねえぞ。いつまで鏡にへばりついているんだ。
兄にひやかわれた。 兄さまだって、初めて背広を着た時はこうやって。
ばあか。 あの時はネクタイを結ぶ練習をしたんだ。
同じにされてたまるかい。 ネクタイには結び方があるが、メガネなんかあほうでもかけられる。
メガネをかける練習なんて聞いたことがねえよ。 はばかりさま。
メガネにでもかけ方はありますわよ。 おばあさんみたいに今にもずり落ちそうなものもあるし、
おじいさんみたいにいらぬ時は額の上へあげてしまうのもあるし。 どっちみちお前なんかどうかけてみたって似合いっこはないよ。
いい加減のところで妥協してあっさり諦めてしまうんだな。 あら。
それに、がんらい女のメガネといむやつは、誰がかけたって要望の3割がとこは低下するものさ。
おまけに頭の良い人間はメガネなんかかけんからね。 生理学的にいっても目の良いものは頭が良いに決まっている。
その証拠に横光でも河童でも良い小説家はみなメガネをかけておらん。 小説家にメガネをかけたのは少ないからね。
03:13
でも、林文子さんはかけているわ。 とみちこは口惜しそうに言ったが、
ところがその兄が間もなくもらったお嫁さんは、 ちゃんとメガネをかけていた。
それ見なさい。 あんまり人のことを。
しかし、僕のお嫁さんの要望は3割が倒ちても、なおこのくらい綺麗なんだからね。
すごいだろう。兄はシャーシャーとして得意になっていたが、 まだ女学校を出たばかしの花嫁は婚礼のバンツんなに幸福そうに見えなかった。
むしろなんだか悲しそうだとみちこは思った。
メガネをかけた女はみんな 悲しそうに見えるのかしら。
とみちこは思って悲観した。 一月ばかり経ってすっかり兄嫁に馴染んだ頃、
みちこは、 お姉さまはなぜご婚礼の晩にあんなに悲しそうにしていらしたの?と聞いてみた。
それはね。 兄嫁はちょっと口ごもって、
あたしの一番の仲良しを、 あの晩お呼びできなかったからよ。
それが悲しかったの。 どうしてお呼びできなかったの?
しかし兄嫁は、ふと赤くなっただけで答えなかった。 ところがそれから間もなく兄嫁のところへ結婚式の招待状が来た。
「まあ、口惜しい。」 兄嫁は叫んだ。
みちこさん、この人よ。この方よ。 あたしが自分の結婚式に呼べなかった人というのは。
あっけに取られて眼鏡の奥で目をパチクリさせていると、 彼女は続けて、
学校時代、この人と二人、 どちらも一生結婚なんかしないでおきましょうねと約束したのよ。
だからあたし、その約束を裏切ったのが辛くて呼べなかったのよ。 顔を合わすのが怖くて、
同窓会保もいけなかった。 それが悲しかったのよ。
06:05
でも、もういいわ。 この人だってもう結婚するんですもの。」
そして急に眼鏡を外して、そっと涙を拭いたかと思うと、 何を思ったのかいきなりペロッと舌を出して、
幸福そうに笑った。
06:27

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