スピーカー 2
突然会いたいなんて、夜明けに何があったの?
慌ててジョークにしても、その笑顔が悲しい。
ビルの上には、ほら月明かり。
抱きしめている思い出とかプライドとか、捨てたらまたいいことあるから。
涙の数だけ強くなれるよ。
アスファルトに咲く花のように。
見るものすべてに怯えないで。
明日は来るよ。君のために。
ということで。
スピーカー 3
これは何ですか?どの本なんですか?
スピーカー 2
これは歌詞ですね。
スピーカー 3
岡本真代さんという方の、「トゥモロー」という1995年にすごく流行った曲ですね。
スピーカー 2
今回は朗読の回ということなんですけれども。
久々にね。
この本を、本じゃない、この一文をちょっと読んでみたいなと思って、読ませていただきました。
スピーカー 3
これはどうしたんですか?これを選んだのは。
スピーカー 2
特に理由はありません。
ただただ、頭にポッと浮かんだっていう。
では今回は、久しぶりに朗読の回を進めていこうと思います。
人はそんなに悪くない。
スピーカー 3
ほっこりするつながりを思い出そう。
スピーカー 2
人間関係知恵とゾノ。
それでは今日のお話始まります。朗読の回です。
スピーカー 3
久しぶりにね。3回ぐらいちょっと普通にトークやったんですけどね。
これはなんか、これからも続けようということで、時々挟んでいこうかな。そんな感じ?
スピーカー 2
今日は、はい。どなたから聞きますか?
スピーカー 3
どうしましょう。
えーと、じゃあ、僕いこうかな。
いいですか?
はい。
人生の速度。50年前に人々はこう言っていた。
何事もスピードアップしていくな。
20年前にもまだ言ってたよ。
あらゆるものがスピードアップしていくね。
いつの時代もそうらしい。
現代はますますそうなっている。
正気じゃないね。
テレビばかり見て雑誌ばかり読んでいると、世界中が人間を追い越していくみたいだ。
イレーザーヘッドを作っている時、作品を完成させるのに5年もかかってしまい、私は死んだも同然だった。
まだ作業を終えていないのに、世界はすっかり様変わりした気がした。
そこで自分にこう言い聞かせたんだ。
ここにいるぞ、この作品に封じ込められた僕は、完成させるなんてできやしない。
世界は僕を置いてけぼりにしていくんだ。
私は音楽を聞くのをやめ、テレビもつけなかった。
世の中のことは耳にするのも嫌だった。
聞いたところで死にたくなるだけだった。
ある時私は主人公ヘンリーの小さなフィギュアを作ろうと考えた。
8インチほどの大きさだったろうか。
厚紙をくり抜いて小さなセットを組み立て、そいつをストップモーションで動かして映画を完成させようとしたんだ。
フィギュアに演じさせるしかなかった。
全く金がなかったからね。
そんなある晩のこと、弟と父は暗い今のような場所に私を座らせた。
弟は責任感の強い男で父も同様だった。
話はすぐに終わったが、私の心は粉々に打ち砕れた。
二人はイレーザーヘッドのことはもう忘れて、正業に就くべきだと言った。
娘がいるんだから、親として責任を持って働くべきだと。
やれやれ、こうして私は職に就いた。
ウォールストリートジャーナルを配達する仕事で、周給は50ドルだった。
ある場面を撮影するのに必要なだけ金を貯めて、ついに作品を完成させることができた。
それから瞑想を始めたんだ。
ヘンリー役の俳優ジャック・ナンスは私を3年も待ち続けてくれた。
役柄のことを考えてずっとあのなりでいてくれたんだ。
ジャック踏んする主人公がドアの片側に立つ場面があるが、
ドアを開けて通り抜ける場面を撮影したのは1年半後のことだった。
なぜこんなことができたんだろう。なぜこんなに長い間協力しあえたのか。
でもジャックは私を待ち続け、主人公のキャラクターを保ち続けてくれた。
こんな表現がある。
ドーナッツに目を向けよう。
ドーナッツの穴ではなく。
ドーナッツそのものを見て成すべきことをする。
思い通りにできるのはそれだけだ。
その他のものは思い通りにならない。
君自身の外にあるものはね。
それよりも自分の心の中に入って最善を尽くすんだ。
世界は君を残して過ぎ去りはしない。
瞑想であれ、ウォールストリートジャーナルの配達であれ、
人を成功に導くとは限らない。
でも心を定めて瞑想すれば、
人生の表面上の出来事は変わらないにしても、
スピーカー 1
出来事を内側から変えて、もっと良くしていけるんだ。
スピーカー 3
という本です。
これはね、デビット・リンチ監督の本ですね。有名な。
大きな魚を捕まえようという本です。
大きな魚っていうのは、アイディアとかね、
作品のヒントだったり、ひらめきですよね。
リンチ流アートライフ。
それから瞑想レッスンっていうタイトルも付いてて、サブタイトル。
この話の中には、毎回毎回で瞑想するんだとか、
だからそこで瞑想なんだ、みたいなことに言及されてるんだけどね。
スピーカー 2
こういうLGBTQの世界に、すごく触れ合ってみたいけれども一歩入れないみたいな方に向けて、
この辺の話を聞いていただけたらなと思います。
約束の時間まであと5分。
レズビアンの出会い系掲示板に書き込むのは初めてで、
そのせいか文面も他の人と比べやや保守的で、
素っ気なくすら感じられる。
それでもセフレ募集なんて板に書き込むのは、
ユウにはとても勇気のいることだった。
他にも恋人募集や友達募集の板もあったが、
今のユウは差し出せる心を持ち合わせていないし、
必要なのはお友達ではなく体を温め合える相手だった。
パソコンの画面とにらめっこしながら躊躇しているうちに10分がたち、
文面の作成に30分かかり、
作成後また20分迷ってからやっと意を消して投稿ボタンを押した。
それは仕事の仕様書を仕上げるよりも遥かに精神力を消耗する作業で、
ユウは投稿後にしばらく虚脱感に包まれた。
投稿後にカカオトークにはそれなりにたくさんのメッセージが来たが、
写真の交換を拒否する人もいれば、交換した後に会う気が失せた人もいた。
写真を交換した途端に連絡が途切れた人も何人かいた。
どういうつもりか。僕は男ですが大丈夫ですか?とか、
彼氏が混ざっていいですか?とか聞いてくる人もいた。
大丈夫なわけねえだろうと思いながら、どちらもダメですと返してブロックした。
かろうじて会いたいと思える人と出会い、新宿で待ち合わせることにした。
ユウさんですか?後ろから声をかけられ振り返ると、
事前のやりとりで確認した服装を身につけている女性が目の前に立っていた。
白のコートにベージュのカバン。コートの下からは濃いめの赤のスカートの裾が覗いている。
交換した写真の通りそれなりに整った顔だが、髪型だけは写真と違っていた。
写真では黒のロングだったが、目の前の女性は茶色のショートで、毛先が風に吹かれて軽やかに揺れていた。
カリンさんですか?
うなずく女性に、はじめましてと挨拶を交わした後に、
しばらく気まずい無音とあいそ笑いが続いた。
じゃあご飯行きましょうかとカリンが言い出し、それを合図に二人は夜の街へ歩き出した。
写真とイメージ違いますね。
人並みを塗って歩きながら、ユウはカリンに言った。
黒のロングではないという点を除き、熟女と呼べるほど熟識っていないけれど、
大人の女性特有の色気を身にまとうカリンは、ユウの好みのタイプのど真ん中だった。
それゆえに残念な気持ちと騙されたような気持ちが一層高まり、
ユウは相手の髪型について文句の一つでも言わなければ気が済まなかった。
切りました。写真は半年前のものですとカリンは言った。
夏が暑かったから。
確かに今年の夏は外国でもニュースになるほど記録的な猛暑だった。
冬より夏の方が好きなユウも毎朝汗をかきながら通勤しているうちに嫌気がさしたくらいだから、カリンの気持ちはわからなくもない。
写真みたいにロングの方が似合うと思いますよ、という代わりに。
晩御飯、何食べますか?とユウは聞いた。
ライフカフェに行こうかと思って、とカリンは答えた。
行ったことありますか?
あるけどユウは首を横に振ることにした。
誰かと誰と行ったか聞かれるのは夫だからだ。
日曜目には2回行ったことある。
1回は1年前の冬で長引いた就職活動をやっと終えた日に、浮き足立ちながら一人で訪れたレズビアンバーだったが、誰にも話しかけず、また話しかけられずに終わった。
この後、この2人の初対面のデートの様子が描かれていくんですけれども、
もし10代とか20代の頃、私がこれを読めてたらです。
もっと気兼ねなく、今だったらSNSですね、当時は。
掲示板みたいなものでしたけれども、そういうものにトライできたんじゃないかとかすごい思いましたし、
スピーカー 3
本当にどころどころにめっちゃリアルなんですよね。
スピーカー 2
この男は僕ですけど大丈夫ですかって、別にそういう肉体関係じゃない何かを載せても、
かなり高い確率で来ますし、彼氏が混ざってもいいですかって来ますし、すごいよくありますし、
本当にめっちゃリアルに描写されてて、笑っちゃうぐらいです。
でもこんな感じで気軽にみんな会ってるんだよ、みたいなものが伝わればです。
スピーカー 3
興味あるけど、ちょっと踏み入れられないみたいなハードルが少し低くなるんじゃないのかな、だったり思ったりもしました。
タイトル言っといて。
スピーカー 2
ポラリスが降り注ぐ夜。リ・コトミさんですね。
スピーカー 3
はい、以上です。
でもあれですね、この方が、千恵さんが読んで、すごいリアルだなって感じるわけでしょ。
それってね、これはちょっと全然別の角度なんですけど、書く方の立場から言うと、
それを感じられる文章っていうのはやっぱりすごいんですよね。
これはね、頭で想像して書いてるんじゃなくて、もう見えてるんだよね。
自分が体験したことだとか、場所、人、経験、その時の空気とかね。
それが見えて、それをしっかりと文字に起こさないと、なかなかこの感覚が出てこないんですよね。
スピーカー 2
千恵と。
私もその自分の場面をすごいリアルに描写しました。
そもそもこういうのがある、みたいな。
スピーカー 3
だからこそね、さっき千恵さんが言ったように、ちょっと若くてね、この世界にどうなのって思ってる人たちにはね、
とてもいいガイドブックなのかもしれないよね。
スピーカー 2
そうですね。恋愛じゃなくてもちょっともらってほしいだったりとか思いますし。
なんかそういう、なんかあんまり吸わずにどんどん、なんかね、いろんな世界に入っていけばいいんじゃないのかなと思ってます。
スピーカー 1
はい。そんな感じ。
スピーカー 2
はい。では今回の朗読の回はこれで終了しようと思います。
このポッドキャストでは、あなたからのご質問ご相談、こんな本朗読してほしい、などなどお待ちしておりますので、概要欄のお便りからお送りいただければと思います。
今回読んだ本は概要欄の方にリンクとタイトル貼っておきますので、ご興味のある方はぜひ覗いてみてください。
では、今夜もほっこりした夜をお過ごしください。さようなら。