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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶應義塾大学の堀田隆一です。 このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。 今回取り上げる話題は、
-ment,-ance など近代英語の名詞語尾の乱立、というトピックです。
名詞語尾といってもですね、今回は動詞が元にあって、そこから名詞形を作るときに、どういう語尾をつけると名詞形になるかということですね。
この名詞語尾には、いろんなものがありまして、例えば-ment というのもありますね。それから-ance というのもありますし、-y と y がつくものもあります。
-ation というのもありますし、-all というのもあります。さまざまな名詞語尾があるわけなんですが、どれが選ばれるのかというのは、皆さんも一度は考えたことがある問題なんではないでしょうか。
元々の動詞形ですね、この形態によってですね、次に来る後ろにつけられる名詞語尾が大体決まってくるのかどうかと言いますと、
緩い傾向みたいなものはある、ないとは言えないというぐらいなんですけれども、ですが、やはりですね、完全に言い当てるということは難しいケースが多いんですね。
というのは、こうした単語というのは大体ですね、ラテン語由来の単語でして、動詞もその後から作られた名詞にしてもですね、大体16世紀以降、
近代英語期になってからドカッと入ってきた釈用語なんですね。その時に実はさまざまな名詞形が動詞から作られてしまったという経緯があります。
例えばですね、ディスカバー、発見するという動詞ですが、この名詞形は当然ながら、現代ではディスカバリーというふうに、Yを語尾につけてですね、ディスカバーからディスカバリーを作るということなんですが、
実は近代英語期にはですね、これだけでなくて、ディスカバリーだけではなくて、ディスカバランスとかディスカバメントというのも現れ、
短期間ではあったんですが、この3つがですね、競合したあるいは共存したというケースがあったんですね。つまり一つの動詞から異なる設備字をつけることによって、異なる名詞が派生されてしまっているということなんですね。
これは近代期では全く珍しいものではなくてですね、当たり前のようにあったんです。
例えばですね、コミットという動詞がありますね。近代期にはコミットメントもありましたし、コミッタルというものもありましたし、コミッタスというのもあった。
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3種類もがですね、ほとんど同じ意味で競合していた、共存していたということになります。他にはコンプライズという単語、動詞ですね。ここから派生した名詞としては、コンプライザル、コンプライズメント、
コンプライザルのような3つが確認されましたし、他には例えばエクスポーズなんかで言いますとエクスポーザル、エクスポーズメント、エクスポージャルなんていうのもありますね。
このように3種類であるとか2種類少なくともですね、あるという動詞から派生した名詞、これはものすごくたくさんあったんですね。
この競合の結果、現代語までにどうなっているかというとですね、短期間だけ共存して結局どっちかが残った、2つ3つのいずれかが残ったというケースもあれば、3つあるいは2つがですね、そのまま現代にまで微妙に意味を変えて共存し続けているというケースもありました。
大方ですね、ケースバイケースでしたので、どちらが残ってどちらが死に絶えたのか、あるいは両方とも生き残っているのかというのは、全体として見るとパターンがあまりないんですね、はっきりした明確なパターンがない。
そうすると結果として、現代英語の派生名詞ですね、どういう語尾がついているかというのを眺めてもですね、そこに緩い傾向ぐらいのものは見えたとしてもですね、やはりこれだと絶対に言い当てられるようなルールが存在しないと、そういうことになっているわけですね。
つまり近代期にいろんな語尾がついて、複数の派生名詞が生まれてしまったと、その後にどれか1つがランダムにですね、あたかもランダムに選ばれた、かのような結果になっているわけですよね。
こういう選択がですね、ランダムに行われる、少なくとも我々の目線から見るとランダムのようにしか見えないという形で標準形が決まってくるってことは、こうした名詞語尾だけではなくてですね、スペリングと発音の関係とかいろんなところに実は英語詞に働いているメカニズムで、私はこれをガチャガチャメカニズムと、ランダムって意味なんですが、ガチャガチャメカニズムと呼んでいます。
今回の場合は、名詞を派生する語尾ですね。名詞語尾のガチャガチャメカニズムによって、あるものはメントを取っているし、別のものはアンスを取っているし、また別のものはイイという語尾を取っている、という結果になっているってことなんですね。
一方で、そうした中にも緩い傾向みたいなものはあると、最初から述べてきたんですけれども、例えば17世紀に絞って考えてみますと、この時期に新しくできた派生名詞ですね、これにはどんな語尾が付くことが多かったのかというと、これを調べた研究者がいまして、それによりますと一番多いのがなんとかメントってやつですね。
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これ、今でも非常に多いわけで、わかるような気がしますね。なんとかメント。これが圧倒的に多いですね。その次にですね、なんとかエイションという、このエイション。これもかなり多いです。このように非常に多くの語についてですね、新たな名詞を派生する、こういう設備辞を生産性の高い設備辞って言い方します。生産力がある。
多くの単語を作り出せるっていう意味ですね。生産性が高いという言い方をするんですね。メントが一番で、二番がなんとかエイション。それから現代では一見目立たないように見えますが、当時はですね、なんとかURですね。UREと書くURというものですね。先ほどのExposeに対してExposureのような例ですね。それから第4位がALと書くALですね。
ALIVEに対してALIVALというようなケースです。それから第5位がなんとかANSEというものですね。
以下いくつかあるんですけれども、こういうふうに生産性が高いものもあれば、生産性の低いものもあるということなんですね。我々英語学習者から見るとですね、生産性の高いベスト1のものですね。一番のものがすべてに例外なくついてくれれば非常に覚えやすい、わかりやすいということなんですね。
一つとは言わずとも、2個3個の生産性の一番高いものだけに限ってくれれば、まだ単語の学習なんかも楽なのにと思いたくなるわけですよね。ところが生産性の低いものを含めて10個も、さらにもっとありますかね。もっとあるわけです。この名詞を作る語尾ということに限っても様々なものがある。
生産性の非常に低い、いくつかの単語にしか適用されないものもあれば、非常に多くのものにつくメントのような語尾もあるということですね。これは一見するとやはり理不尽ということなんですが、この統計を取った研究者によるとですね、こんな議論が展開されているんですね。
どういうことかというと、生産的な語尾ですね、生産力の高い語尾っていうのは、当然多くの言語使用者にとって使いやすいものということになるんですが、一方で生産力の低い、生産性の低い語尾もですね、それなりに役割があるんだということを言ってるんですね。
どういう役割なのかというと、生産性の高いもの、例えばメントみたいなものは非常に多くの単語につくわけなんで、みんなが予想できるということですね。予想できる意味にもなるということなんですが、あえてその予想できないものを使いたいという欲求が言語使用者にはあるものではないかというんですね。
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つまり、非生産的な派生への需要というのも言語生活の中では存在するんだという論を展開してるんですね。
つまり、言語使用者の新語への欲求、新語を作りたいという欲求は、必ずしも生産的な派生が与えてくれる手段と、その結果だけでは満たされないほどに、実は複雑で精明なんではないかということなんですね。
あえて非生産的な派生の手段を用いることによって、あえてやや不規則な派生語を作り出す。言語は格も矛盾したものであるということです。