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真夜中の読書会おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、KODANSHAのバタやんこと川端です。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる、をテーマに、おすすめの本やマンガ、紙フレーズをご紹介します。
第150夜となりました。
今夜はお便りのご紹介はお休みで、最近読んだ本の中から、一押しの本を勝手に貸し出すのコーナーです。
今日の勝手に貸し出しカードは、桜木篠さんの最新作、ヒロインにしました。
帯には、新たなるマスターピース、ここに誕生、とありまして、直樹賞受賞から10年、桜木篠が切り開いた新境地、とあります。
これは買わなくちゃと思いまして、404ページもある、ぎゅぎゅっとボリューム感のある長編小説になっています。
どんなお話か、あらすじからご紹介していきましょう。
桜木篠さんの新刊ヒロイン、ヒロインっていうシンプルかつ詐欺良いタイトルからは、どんなお話かあまり想像ができない、わからないですね。
女の人が主人公なんだなっていうぐらいしかわからないんですけれども、この小説は前情報ありで読んだ方が、きっと楽しめるんじゃないかなと思いまして、ネタバレにならない程度に解説していきたいと思います。
小説の冒頭は、死命手配中だった岡本博美、40歳が捕まるっていうところから始まるんですね。
17年も逃走中だった。何の容疑かっていうと、渋谷駅毒ガス散布事件の殺人党の容疑で捕まります。
この小説は逃げるヒロイン、ヒロイン逃避行者だっていうことがこの冒頭でわかります。
そしてあのパターンですね、私の大好物のあのパターン、結末がプロローグで最初にわかるっていうパターンです。
この結末先出しパターンっていうのは、角田光雄さんの神の月、山本文雄さんの自転しながら肯定する、
再建画と霧野夏夫さんの真珠とダイヤモンドも、早見和政さんの8月の母とか、川上美恵子さんの黄色い家も、今どうなってるかっていう話が冒頭に出てきて、
それから過去に何があったのかっていうのを遡っていくスタイルなんで、大きな意味では似た感じですかね。
このヒロイン、逃げるヒロイン者という私の大好きなジャンルでした。
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さて捕まった岡本博文40歳は17年前に何をしたのか。
1995年の3月傍日に、渋谷駅で毒ガス散布事件が発生します。
実行犯として指名手配されたのが、宗教団体光の心教団の幹部男性と、何も知らずに同行させられた、当時23歳だった信者、岡本博文なんですね。
と聞いて、実際にあった事件を思い出す方がほとんどだと思うんですけど、その宗教団体の誰かをモデルにしたとかではないそうです。
広見はその教団幹部の男性、高島という男について来いと言われてついて行っただけで、その危険物が何なのかも、何をするつもりだったのかも知らなかったので、
実行犯ではないですし、あまり重い罪に問われずに済んだんじゃないかなという気もするんですが、
ちょっといろいろありまして、お金を持って逃げるという選択をするんですね。
そこから名前を変え身分を変え住処を転々として長い長い逃避行生活が描かれていく小説です。
逃げるヒロインもので、宗教、信仰宗教絡みというと、
角田光雄さんの「八日目の蝉」を思い出し重ね合わせたんですけどね、
角田さんの描くヒロイン、八日目の蝉とか神の月とかと、桜木忍さんが描くヒロインの違いは何かなって考えたんですが、
強さなんですよね。桜木さんのヒロインはたくましいっていうか強さがあって、
だからすごい壮絶な目に合うんだけど、なんか大丈夫なんじゃないかっていう安心感があるんですよ。
きっと何とかするだろうっていうふうに、ちょっと安心して見てられるとこがあって、
途中ね、あんまり言えないんですけど、やばいくらいやばいことをするんですよ。
霧野夏夫さんのアウトも入ってくるみたいな、ちょっと壮絶すぎて笑ってしまいましたけれども、
そんな角田さんが描くヒロインは、そういう危うさがあるっていうか、
本当はそういう人じゃなかったのに、ふっとまわさして、ちょっといろんなことで、
あれよあれよという感じで、そういう窮地に陥るって感じじゃないですか。
同情を呼ぶヒロインですよね。霧野さんとか川上美恵子さんが描くヒロインは、
もうちょっと危なっかしいかな、何をするかわからないところがあって、
同情できるかできないか、共感できるかできないかっていうギリギリのところを行くような、
ギリギリ共感できないラインって感じですかね。
そういう意味で桜木さんの描くヒロインは、春さんが主演で映画にもなったホテルロイヤルもすごく面白いので、
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ぜひ映画と合わせて見ていただけたらと思うんですけど、
あれも春さんが演じるヒロイン、たくましさを感じるようなところがありますね。
さて、このヒロインという小説は、
広美がどんどん住まいを変え、名前を変えして逃げていく中で、いろんな女性たちと出会うんですよ。
それぞれに家族に傷つけられたり、社会から見放されたり、つらい思いをしていて、
その中でギュッと手を握り合うような、助け合う広美と彼女たちのシスターフット的な要素もあるんですよね。
つらい話ばかりでもない、女性たちのたくましさに勇気づけられるようなところもあるので、
ぜひ読んでみていただきたいなと思いました。
そしてこの小説、この信仰宗教と同飛行という大きなストーリーの軸と、もう一つ大事な要素がありまして、
広美のお母さんはバレエ教室をやっていて、広美を一流のバレリーナにすべくすごくすごく厳しく育てているというのがあるんですよ。
このバレリーナという話が大事なモチーフというか要素になっていて、
しかしこの広美さんはお母さんの期待ほどはプリマドンナになれるほどの素質がなかったというか、
ある程度までは練習で上達するんでしょうけど、
持って生まれた体格、体質とか天性のものがやっぱり何かあるんでしょうね。
すごい厳しい体系コントロールを受けていて、その反動で宗教団体に入ってからの広美は太っているという描写があって、
そこが結構生々しいくていいな、さすがだなと思ったんですけど、
ヒロインという言葉が想起させる、イメージするものってルックスの要素が絶対にあるじゃないですか。
主役を張る女っていうことで言うと、ゲックのヒロインだって朝ドラのヒロインだって、
ヒロインってのは可愛くないといけない、綺麗じゃなきゃいけない、美しくないと価値がない、
みたいなものから逃げよう逃げようとする話というふうにも読みました。
今日はこの本から神フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
なあママ、より美しく踊るためにトーシューズはすごく大事なんやけどな。
どこにもそれを履いて生まれてくる赤ん坊はおらんのよ。
これはヒロミが母に向けてあるシーンで言う言葉なんです。
ヒロミはトーシューズじゃない、自分の自分に合った靴を見つけられるのか、
ぜひ見届けていただけたらと思います。
はい、さてもう10月ということで今年も残りあと3ヶ月。
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今年のベストブックも選べ始めなくちゃと思っています。
読み直したりするので時間がかかるんですよね。
今年も強烈なインパクトがあった本がたくさんあったなあと思っています。
そして一つお知らせがあります。
この番組のスクリプト、収録原稿の公開を始めました。
noteというプラットフォームにちょっとずつ掲載してますので、
ぜひチェックしてみてください。
あの回で紹介してた本なんだっけっていう方にも便利に使っていただけるように、
リンクとかも整備していきたいなと思ってまして、
今日の回に追いつくまで結構時間がかかっちゃいそうですけど、
ぜひ気長にお暇な時期にチェックしていただけたら嬉しいです。
さて今夜もお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室は、
リスナーの方からのお便りをもとにおすすめの本や漫画をご紹介しています。
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それではまた来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。