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IT技術者と地域の溝:地方自治体のDX推進とデジタル人材育成の現状
2026-10-04 16:31

IT技術者と地域の溝:地方自治体のDX推進とデジタル人材育成の現状

提供された資料は、地方自治体や日本企業におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の現状と課題、およびシステム刷新やデジタル人材育成に向けた取り組みについて解説しています。多くの組織がレガシーシステムの老朽化やIT人材の不足、部門間の連携不足といった構造的な問題に直面しており、スムーズなデジタル化の妨げとなっています。こうした状況を打破するため、総務省や経済産業省はガイドラインの策定や体制整備の指針を示し、経営層のコミットメントや各部門間の緊密な情報共有の重要性を強調しています。また、外部人材の積極的な活用や広域的な連携に加え、子どもやシニア層を対象としたプログラミング教育など、地域社会全体でITに貢献する自発的な試みも展開されています。最終的に、単なるシステム更新に留まらず、組織文化やビジネスモデルそのものを変革し続ける高度なデジタル社会の実現が求められています。

日本におけるDX推進・レガシーシステム脱却とデジタル人材育成の構造的課題および対応策

1. エグゼクティブ・サマリー

本ブリーフィング・ドキュメントは、日本の地方自治体および民間企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進状況、レガシーシステムの現状と課題、ならびにそれを支えるデジタル人材の育成・確保策について、総務省・経済産業省の施策資料およびシビックテックの先行事例(Code for Sabae等)を総合的に合成・分析したものである。

主なポイントは以下の通りである。

  • 地方自治体のDXの現状と課題: 人口5万人以下の市町村の多くでDX・情報担当が1人以下(292団体)と深刻な人手不足に直面している。自治体の75.3%が育成に取り組むものの、73.7%が「育成方針の設定」に難航しており、さらに83.4%の市区町村が初期段階である「DXの認識共有・機運醸成(ステップ0)」の段階で停滞している。外部人材への過度な依存(「白馬の王子様」幻想)を排し、自治体職員自らが変革に取り組む体制構築と、首長のコミットメント、人事部門とDX推進部門の緊密な連携が不可欠である。
  • 民間企業のレガシーシステムと「2025年の崖」: 経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」の危機は継続しており、対応を怠った場合、最大で年間12兆円の経済損失が生じると試算されている。調査によればユーザー企業の61%(大企業では74%)がレガシーシステムを保有している。また、TOPIX100企業の88%が中期経営計画に大規模システムの刷新を記載しておらず、経営層の当事者意識欠如が浮き彫りとなっている。
  • 構造的低位安定からの脱却: 日本のソフトウェア産業は、ユーザー企業の「丸投げ(自律性低下)」とベンダー企業の「受託SIビジネス(低リスク・低利益率)」による「低位安定」の関係に固定化されている。この課題を解決するには、CxOの設置、経営層・情シス・業務部門間の情報共有、仕様の可視化によるブラックボックス対策、および内製化(伴走型支援への移行)が有効であることがデータ分析により実証されている。
  • シビックテックと地域イノベーションの連携事例: 福井県鯖江市等の先進事例(Code for Sabae / Code for FUKUI)に見られるように、地域社会の課題解決にはオープンデータの活用、民間企業の「コーポレートフェローシップ」制度を通じた人材受入、子どもやシニアを対象とした草の根のプログラミング教育(IchigoJam等)が極めて有効なモデルを示している。

2. 地方自治体におけるデジタル人材の育成と推進体制

2.1 地方自治体が直面する過酷な現実と「ステップ0」の壁

地方自治体において行政のデジタル化は急務となっているが、体制構築と人材育成の両面で強い課題に直面している。

  • 人員不足の状況: 令和4年時点で、人口5万人以下の市町村のうち292団体において、DX・情報関係業務の担当職員が1人以下(他業務との併任による1人未満を含む)となっている。
  • 育成方針策定の難航: 全市区町村の75.3%(1,311団体)が職員育成の取組を実施しているものの、73.7%(1,283団体)が「育成方針を立てることが困難」と回答している。
  • 機運醸成(ステップ0)での停滞: 総務省の「自治体DX全体手順書」が示すプロセス(ステップ0:認識共有・機運醸成 ➔ ステップ1:全体方針決定 ➔ ステップ2:推進体制整備 ➔ ステップ3:取組実行)において、令和5年8月の調査では83.4%(1,452団体)の市区町村が「DXの認識共有・機運醸成」という最も初期の段階を課題として挙げている。

2.2 人材育成・確保基本方針策定指針(総務省)のポイント

総務省は平成9年策定の指針を令和5年12月に全面改正し、「人材育成・確保基本方針策定指針」を取りまとめた。主要な留意事項は以下の通りである。

(1) 首長のコミットメントと部門間連携

DXは全庁的かつ部局横断的な取組であり、首長等の幹部職員の強いコミットメントが不可欠である。さらに、DX推進部局と人材育成・人事担当部局が緊密に連携し、職員のデジタルスキル把握、将来的な必要配置数の見込み、外部人材の任用形態、研修計画への位置づけを両部局が主体的に議論・策定することが求められる。

(2) 求められる3つの人材像の明確化

外部から「白馬の王子様」的な人材が来て業務を自動的に効率化してくれるという誤った期待を捨て、自治体職員自らが協働・変革する姿勢が必要である。総務省は以下の3つの人材像を提示している。

人材像役割と求められるスキル・マインド
高度専門人材高いデジタルスキルを有し、各種サービスの比較検討・選考、データ分析、セキュリティ、システム実装等に指導的役割を果たす(主に外部人材の活用やアドバイザー任用を想定)。
DX推進リーダーデジタル知識と行政実務双方に精通し、関係者の合意形成を行う対人スキルやコミュニケーション能力を備え、中核として実務を取りまとめる(全庁的に一定割合の育成を目指す)。
一般行政職員デジタルリテラシーを高め、RPAやBIツール、テレワーク等を日常業務で正しく有効活用する。セキュリティ対策やトラブル時の初動対応知識も保持する。

(3) 段階的スキル基準とキャリアパスの支援

  • スキルの明確化: 経済産業省・IPAの「デジタルスキル標準」や、総務省の「自治体DX推進のための外部人材スキル標準」等を参考に、職員が習得すべきスキル項目を設定する。
  • キャリアパスと人事慣行: 自治体特有の「3年程度のジョブローテーション(総合性の確保)」との兼ね合いを考慮し、専門性と行政実務能力をともに高められる複線型人事の導入や、人事ローテーションの工夫が求められる。また、育成した人材の退職を防ぐため、給与の調整額活用や正当な評価・処遇の検討も必要となる。

(4) 広域的な連携(都道府県の役割)

デジタル人材の需給がひっ迫する中、都道府県が主体となって高度専門人材を確保し、域内市町村間でシェアする取組や、共同研修の実施、管内市区町村のDX担当者同士のネットワーク化を主導することが有効である。

3. 民間企業におけるDXの現在地とレガシーシステム脱却

3.1 「2025年の崖」と産業構造の「低位安定」

民間企業におけるDXおよびレガシーシステムからの脱却はスピード感を欠いており、深刻な危機に直面している。

  • 2025年の崖の経済損失: 既存のレガシーシステムが足枷となりDXが推進されない場合、経営改革が遅れ、デジタル競争の敗者となって最大で年間12兆円の経済損失が生じる(経済産業省試算)。
  • DXの本質とモダン化: DXの本質は単なる既存システムの刷新や改善活動ではなく、「固定観念化しているレガシーな企業文化からの脱却・変革」である。データ利活用をスピーディーに行うため、柔軟で市場シェアのある「モダンな技術(SaaS、マイクロサービス、API、クラウド等)」への見直しが不可欠となる。
  • 「低位安定」の不全構造: ユーザー企業はIT投資を単なるコストとみなしベンダーへ丸投げ(自律性の低下)し、ベンダー企業は受託型のSIビジネス(低リスク・低利益率・労働量依存)に甘んじるという「低位安定」の関係が固定化しており、IT人材の過度なベンダー偏在を引き起こしている。
【従来の低位安定構造】
ユーザー企業(DX未着手/途上) ──(IT丸投げ/コスト削減)──> ベンダー企業(受託SI)
  ・自律性の低下・ブラックボックス化                       ・労働対価型・低利益率
  ・ベンダーロックイン・アジリティ低下                     ・多重下請け構造・標準化不全

3.2 市場動向調査に見る実態分析(データ検証)

経済産業省が実施した市場動向調査(回答799社)により、以下の実態が明らかになった。

(1) レガシーシステムの残存状況

  • ユーザー企業の**61%**がレガシーシステムを保有している。
  • 企業規模別では、中小企業よりも**大企業(74%)**の方がレガシーシステムの保有率が高い。
  • メインフレームを保有していた企業の52%はメインフレーム以外に移行済であり、移行先としてはスクラッチよりも標準・パッケージシステムを選択する割合が高い。

(2) 経営層の意識の低さ

  • TOPIX100企業の中期経営計画を対象とした調査において、大規模システムの導入・刷新について中計に記載している企業はわずか12%に留まり、残り88%の企業が社外に方針を提示できていない。

(3) システムモダン化を成功に導く主要相関要因

調査分析により、以下の要因間に強い有意な相関があることが証明された。

[CxOの設置] ──> [経営・情シス・業務部門の情報共有] ──> [仕様の可視化 / BBOX対策] ──> [内製化の推進 & モダン化の順調な進捗]
  • 部門間情報共有: 経営層・情報システム部門・業務部門の3者間で情報共有(計画、仕様、投資対効果、リスク)が行われている企業は、可視化率・内製化率が高く、システムモダン化が順調に進む傾向がある(情報共有がない企業ではモダン化の停滞やブラックボックス化が進行)。
  • CxO(最高情報・デジタル責任者等)の設置: CxOを設置している企業はガバナンスが機能しており、仕様の可視化(75%)やブラックボックス対策(91%)が大幅に進み、ベンダーと協力した内製化率が高まる。
  • ブラックボックス対策と内製化: 仕様の可視化を進めることでシステムの課題が明確になり、ベンダーへの全面丸投げから、企画・要件定義を自社で行う「内製化」への移行が可能となる。

3.3 サプライチェーンへの悪影響

中小企業における投資体力やITリテラシーの不足は、大企業やサプライチェーン全体(物流、GHQ・品質トレース、受発注等の連携)のDX推進の足を引っ張り、産業全体に悪影響を及ぼすリスクがある。

4. シビックテックと地域主導型デジタルイノベーション

行政や民間企業の構造問題に対し、地域社会の現場からは市民・エンジニア・自治体が自発的に結合する「シビックテック(Civic Tech)」のアプローチが成果を上げている。福井県鯖江市を中心とする「Code for Sabae」および「Code for FUKUI」はその先進モデルである。

4.1 「自分たちのまちは自分たちで創る」理念とオープンデータ

  • Code for X の精神: プログラマーのみならず、データ収集者、デザイナー、企画者、市民が協力し、課題解決のソフトウェアを相互利用・切磋琢磨する活動。
  • オープンデータ先進地: 鯖江市は全国自治体で初めてW3Cに加盟するなどオープンデータ化(データシティさばえ)を推進。観光、避難所、AED、トイレ、つつじバスの運行データ等をオープンデータ化(XML/SPARQL/CC BY)し、各種アプリ(AEDナビ、トイレ徒歩ナビ、バス遅れチェッカー等)を迅速に構築・移植する環境を整備した。

4.2 コーポレートフェローシップ(自治体留学)の成果

民間企業の社員が一定期間「臨時行政職員」として市役所に常駐し、地域課題の解決と自社人材のスキルアップを同時に図る「コーポレートフェローシップ(地域フィールドラボ)」の取組が成功を収めている。

  • 第1期〜第3期: SAPジャパン、NECソリューションイノベータ、Yahoo! JAPANから人材を受け入れ、公共交通やデータ活用を推進。
  • 第4期・第5期(富士通、大鵬薬品等): 障害者支援や「受診率向上による健康なまちづくり」をテーマに実施。特定健診・がん検診のウェブ予約開始、保険医療データとAIを用いた共同研究契約(サスメド社)などの具体的なイノベーションを創出した。

4.3 持続可能な草の根人材育成(IchigoJamプログラミングスクール)

  • 子ども・シニア向けプログラミング教育: こどもパソコン「IchigoJam」とBASIC言語を活用し、Hana道場等でスクールを開催。講師には高専元教授等のシニア人材を登用している。
  • 成果: 受講した子どもたちが自作ゲームを政界要人に披露するほか、自力でSwiftを学びアプリ開発コンテストで受賞するなどの成果を生んでいる。また、シニア層が日常の不満を解決するアプリのプロトタイプ(不満一覧オープンデータ等)を自ら開発するハッカソンも実現している。

5. 課題解決に向けた総合的処方箋

自治体・民間企業・地域の3領域におけるDXとシステムモダン化、人材育成の方向性を以下のように集約できる。

┌────────────────────────────────────────────────────────────────────────┐
│                        総合的DX推進・モダン化モデル                    │
└────────────────────────────────────────────────────────────────────────┘
          ▼                                ▼                                ▼
  【地方自治体】                    【民間企業】                    【地域・シビック】
  ・首長コミットメント              ・経営層の意識改革・中計明記    ・オープンデータの開放
  ・人事×DX部門の緊密連携          ・CxOの設置とガバナンス強化     ・コーポレートフェローシップ
  ・3つの人材像に応じた数値目標     ・部門間(経営/情シス/業務)共有・草の根教育(IchigoJam等)
  ・都道府県による広域シェアリング  ・標準化優先・内製化&伴走支援  ・市民・シニア・IT人材の協働
領域解決すべき構造課題推奨される具体的アクション
地方自治体・DX担当の極少化・機運不全<br>・育成方針策定の不全<br>・「外部人材頼み」の他力本願①首長主導による全庁方針(ビジョン)の言語化。<br>②人事・DX部門の連携による「3つの人材像」別の数値目標設定。<br>③都道府県による高度人材のシェアリングや共同研修の活用。
民間企業・「2025年の崖」と高リスク化<br>・TOPIX100の88%が中計未記載<br>・ベンダー丸投げと丸投げ受け①中計へのシステム刷新方針の明記とCxOの配置。<br>②仕様可視化によるブラックボックス解体と内製化比率の向上。<br>③個別カスタマイズを配した「標準システム・パッケージ」の共同利用。
地域社会・IT技術者不足・地域の過疎化<br>・現場課題とITの分断①オープンデータを軸としたシビックテック(Code for X)の支援。<br>②民間企業人材を受け入れるコーポレートフェローシップの活用。<br>③こども・シニア層を対象としたプログラミング教育による裾野拡大。

感想

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サマリー

日本企業や行政がDXに苦戦する背景として、レガシーシステムの残存と、ユーザー企業がベンダーへ業務を丸投げする「低位安定」の構造が語られます。企業の61%、大企業の74%がレガシーシステムを抱え、大企業の88%は中期経営計画で大規模システム刷新に触れていません。地方自治体では、人口5万人以下の市町村292団体でDX担当が1人以下となり、83.4%が認識共有や機運醸成の段階で停滞しています。対策として、経営層の関与、部門間の情報共有、内製化、自治体職員の育成、都道府県による人材の広域共有が示されます。さらに福井県鯖江市のCode for Sabaeを例に、市民によるアプリ開発、IchigoJamを使った子どもやシニアの学習、企業人材との協働が紹介されます。DXは単なるシステム更新ではなく、丸投げ体質を改め、組織や地域の当事者が自ら課題を解決する文化への転換だと結論づけられます。

日本のDXを阻むレガシーシステムと丸投げ構造
スピーカー 1
- あなたにちょっと想像してみて欲しいんですが。 白アリに食われて基礎がもうボロボロになっている豪邸があるとして。
スピーカー 2
- はい。だいぶ危険な状態ですね。
- なのに屋根とか基礎の修理には一切見向きもしないで、とりあえず郵便受けのペンキ塗りだけ頑張ろうって熱を上げている家の主がいたらどう思いますか?
スピーカー 2
- いやーちょっと何を考えてるんだって私なら思いますけどね。狂気の沙汰というか。
スピーカー 1
- ですよね。でもさらにそのせいで最大で年間12兆円ものお金を失うかもしれないとしたら。
スピーカー 2
- もう目も当てられない悲惨な状況ですよそれは。
スピーカー 1
- そうなんですよ。実はこれ笑い事じゃなくてまさに今の日本の企業や行政で起きている現実なんです。
スピーカー 2
- えー本当にその通りですね。
スピーカー 1
- というわけで今回の深掘りのテーマは日本の社会を蝕むDXデジタルトランスフォーメーションの構造的な罠についてです。
スピーカー 2
- はい。非常に重要かつスリリングなテーマですね。
スピーカー 1
- 今回は経済産業省やIPAのレポート、総務省の資料、トライエイティングの記事、そして福井県鯖江市のシビックテック活動の記録を元に深掘りしていきます。
スピーカー 2
- かなり幅広い。でも根底でつながっている資料が揃いましたね。
スピーカー 1
- えー。そして今回のミッションは非常にシンプルです。
なぜ日本社会はこれほどDXに苦戦して古いシステムから抜け出せないのか。その根本的な罠を解き明かしてどうすれば突破できるのか。
あなたと一緒にこの見えない構造を発掘していきたいと思います。
スピーカー 2
- 技術の話のようでいて、実は人間の心理とか組織の病理に深く切り込むことになりますよ。
スピーカー 1
- では早速先ほどの12兆円の損失の話からいきましょうか。いわゆる2025年の崖と呼ばれる危機についてなんですが。
- はい。トライアーナの記事でも言及されていたあの恐ろしい予測ですね。
スピーカー 1
- 信じられないデータがありまして、IPAの2025年のデータによると、いまだに日本の企業の61%、大企業に限定すればなんと74%が古くて複雑化したレガシーシステムを抱え込んでいるんです。
スピーカー 2
- 74%ですか。もう大半の企業がシロアリに食われた豪邸に住み続けている状態ですね。
スピーカー 1
- そうなんです。しかも問題はそこから先のアクションでして、大企業の88%が中期経営計画の中で、大規模システムの導入や刷新について一切触れていないんです。
スピーカー 2
- 88%ですか。それは本当に驚きですね。
スピーカー 1
- 触れているのはたったの12%ですよ。これほど影響が大きい。下手をすれば企業が傾くと言われているのに、経営層は根本的な刷新から完全に目を背けているんです。
- まさに郵便受けのペンキ塗りだけ一生懸命やっている状態ですね。
スピーカー 1
- でもここでちょっと意地悪な見方をさせてください。ITの専門家じゃない経営者が持ちは持ち屋ということで、外部のIT企業にシステムを丸投げするのって、ビジネスの効率化としては至極真っ当な戦略なんじゃないかなって思うんですが。
スピーカー 2
- なるほど。鋭いご指摘ですね。確かに外部の専門家に任せること自体は決して悪いことではありません。
- ですよね。じゃあなぜそれが罠になるんでしょうか。
スピーカー 2
- それはですね、日本の場合はその構造が極端すぎるからなんです。これを低位安定と呼ぶんですが。
スピーカー 1
- 定位安定ですか?
スピーカー 2
- 要するにユーザー企業とシステム開発会社、いわゆるベンダーとの間で、ものすごく低いレベルでの共依存関係が固定化してしまっているんですよ。
スピーカー 1
- 低いレベルでの共依存。なんか聞くだけで嫌な言葉ですね。
- 欧米なんかだと優秀なITエンジニアは事業会社、つまりユーザー企業の中に直接雇用されていることが多いんです。
スピーカー 2
でも日本ではエンジニアの多くがベンダー側に偏っています。
- 確かにIT企業にIT人材が集中しているイメージがありますね。
スピーカー 2
- そうなんです。そしてユーザー企業は長年、ITを単なるコスト削減ツールとみなして、要件定義から運用まで全部ベンダーに丸投げしてきました。
その結果どうなったかというと
スピーカー 1
- どうなったんでしょうか?
スピーカー 2
- 自社のシステムがどう動いているのか誰にも分からない、いわゆるブラックボックス化が起きてしまったんです。
スピーカー 1
- なるほど。自分たちの家の構造を誰も知らないまま住み続けているから、いざシロアリの被害に気づいても、どこをどう直せばいいのか自分たちでは判断できないわけですね。
スピーカー 2
- まさにその通りです。そして問題はベンダー側にもありまして
スピーカー 1
- ベンダー側にもですか?
スピーカー 2
- はい。ベンダー側もユーザーから言われたものを言われた通りに作るだけの、リスクが低くて長期的に安定した御用聞きビジネスにつかりきってしまったんです。
スピーカー 1
- あーなるほど。言われたことだけやっていればお金がもらえるからと
スピーカー 2
- ええ。結果として革新的なサービスとかグローバルで戦える標準システムを生み出すインセンティブを失ってしまったんです。お互いに依存しあって進化を止めてしまった。
スピーカー 1
-それが低位安定という言葉の意味なんですね。
スピーカー 2
- そういうことです。この相互依存による進化の停止こそが日本のDXを阻む最大の構造的要因なんですよ。
- いやー資金力も人材も豊富なはずの大企業でさえ、この丸投げ体質のせいで身動きが取れなくなっているなんて。
スピーカー 1
- だとしたら予算も人もない地方自治体はどうなっているのか、想像するだけで恐ろしいですね。
自治体の人材不足とステップ0の壁
スピーカー 2
- 実際、行政の現場はさらに過酷な状況に直面していますよ。総務省のデータを見て私本当に言葉を失ったんですが、
人口5万人以下の市町村のうち、なんと292もの団体でDXや情報関係業務の担当職員が1人以下なんです。
スピーカー 1
- 1人以下ですか。それは本当に過酷ですね。
スピーカー 2
- へえ、兼務を含めると実質1人未満、つまり片手間でやっているところもあるわけです。
スピーカー 1
- 組織全体のデジタルトランスフォーメーションをたった1人の担当者が、それも別の業務の合間に進めなければならない、到底不可能なミッションですよね。
- しかも83.4%の自治体が具体的なシステムの導入以前の段階で悩んでいるそうです。
スピーカー 2
DXの認識共有とか機運醸成という、いわばステップゼロの段階で立ち止まっていると。
スピーカー 1
- そもそも何から始めればいいかわからないという状態ですね。
スピーカー 2
- はい。
スピーカー 1
- へえ、だから現場の職員にしてみれば、いきなり外部からものすごく優秀なデジタル人材が現れて、
目の前のしんどい仕事を全部魔法のように片付けてほしいってすがりたくなる気持ちもわかりますよ。
スピーカー 2
- 白馬の王子さまを待っている状態ですね。
しかし、その外部のプロに何とかしてもらおうという発想こそが、先ほどの企業の丸投げ体質と全く同じ構図なんです。
スピーカー 1
- ああ、また罠にはまっているわけですね。
スピーカー 2
- 総務省のレポートでも明確に指摘されているんですが、外部の専門人材が単独でポンと入ってきても、自治体の業務効率化は期待できないんです。
スピーカー 1
- これ、例えるなら、ミシュランの三ッ星シェフをいきなり自分家の台所に連れてきたのに、
実はその台所には電気も水道も通っていないことを事前に伝えていないようなものですよね。
スピーカー 2
- まさにその通りです。いくら腕が良くても、現場の文脈や環境がわからなければ料理は作れませんからね。
自治体の複雑な法令とか独特の組織文化、地域住民との泥臭い関係性を一番深く理解しているのは、紛れもなく現場の職員なんです。
スピーカー 1
- 確かに、外部の人にはすぐにはわからない暗黙のルールみたいなものがありそうです。
スピーカー 2
- だからこそ、ITと行政業務の両方がわかる人材を内部で育成して、外部の専門人材とは単なる発注者と受注者ではなく、チームとしての協同を行うことが不可欠なんですよ。
スピーカー 1
- なるほど。企業も行政も、誰かすごい人がやってくれるだろうという丸投げの意識が一番の足枷になっているわけですね。
- そういうことです。
経営層の関与とデジタル人材育成
スピーカー 1
- では、あなたがもしこの泥沼にいるとして、具体的にどう動けば抜け出せるのか。ここからは突破口の話をしましょうか。
スピーカー 2
- はい、ここからが重要ですね。
スピーカー 1
- まずトップダウンのアプローチとして、データが非常に面白い事実を突きつけています。IPAの調査データなんですが。
スピーカー 2
- 経営陣がどう関与するかで、結果に明確な差が出ているんですよね。
スピーカー 1
- はい。CXOクラスの最高責任者を設置して、経営層と情報システム部門、そして業務部門が投資対効果や将来の計画について、しっかりと情報を共有している企業。
こういう企業は、そうでない企業に比べて圧倒的にDXが進んでいるそうなんです。
スピーカー 2
- 具体的にはどのような差が出ているんでしょうか。
スピーカー 1
- 情報共有ができている企業の、なんと90%が中身が分からない状態を防ぐブラックボックス対策を実施しているんです。
それに対して、情報共有がない企業では、わずか25%にとどまっています。
スピーカー 2
- 90%と25%ですか。ものすごい差ですね。
スピーカー 1
- それに、自社でシステムを管理する内製化も圧倒的に進んでいるんですよ。
スピーカー 2
- つまり、経営陣がITを外部に丸投げするコストではなく、自社のコア戦略として扱い、自らコミットすることで初めて現場の文化が変わるということですね。
スピーカー 1
- トップの覚悟がそのまま数字に直結しているわけですね。
スピーカー 2
- はい。一方、自治体の方では人材育成のアプローチが鍵になります。
総務省は高度専門人材、DX推進リーダー、一般行政職員という3つの人材像を明確にして底上げを図ろうとしています。
スピーカー 1
- ただ、ここでちょっと引っかかるんですが。
- 何でしょうか。
スピーカー 1
- 高度専門人材なんて、さっき言っていた担当者が1人しかいないような小さな村や町が単独で雇えるわけがないですよね。お給料だって民間企業には勝てないでしょうし。
スピーカー 2
- それは当然の疑問です。だからこそ、今、広域的な連携という現実的なアプローチが急速に進んでいるんですよ。
スピーカー 1
- 広域的な連携ですか。
スピーカー 2
- 単独で雇えないなら、シェアすればいいんです。都道府県が主導して高度なデジタル人材を一括で確保して、県内の市町村間でその人材をシェアしてプロジェクトを回すんです。
スピーカー 1
- ああ、なるほど。それなら小さな自治体でもトップクラスの知見にアクセスできるわけですね。
スピーカー 2
- さらに、内部の職員を育成するための複線型人事の導入も重要です。
スピーカー 1
- 伏線型人事というのは。
スピーカー 2
- これまで行政職員は、3年程度で全く違う部署に移動する、ジェネラリスト育成が基本でしたよね。
- ええ、よく聞きますね。福祉から税務へみたいな。
スピーカー 2
- でもこれだと、せっかくデジタル分野で専門性を身につけても、移動でリセットされてしまいます。
そこで、デジタルの専門性を生かせる独自のキャリアパスを用意して、適切に評価する仕組みへと人事制度自体を変革しているんです。
スピーカー 1
- なるほど。現場のモチベーションを担保する仕組みづくりなんですね。
スピーカー 2
- はい。それがトップダウン、あるいは組織構造からのアプローチです。
鯖江のシビックテックと地域協働
スピーカー 2
さて、ここからが今日一番エキサイティングなパートなんですが、トップの意識改革や国の人事制度が変わるのを待つだけじゃないんです。
- ほう。実は、現場の市民の側から、信じられないスピードでDXを実現している実例があるんですよ。
スピーカー 1
それが、福井県鯖江市のCode for Sabaeの取り組みです。
- ああ、日本のシビックテック、つまり市民によるテクノロジー活用の最前線にして象徴的な場所ですね。
スピーカー 1
- ええ。この鯖江市の事例、読めば読むほどワクワクするんですよ。
自分たちの街は自分たちで作るというDIY精神が爆発しているんです。
スピーカー 2
- 具体的にはどんな取り組みがあるんですか?
スピーカー 1
- 例えば、地元の女子高生たち、通称JK課が発案して作った図書館の空席状況がわかるアプリ、サボタとか。
- 女子高生がアプリのアイディアを出すんですか。素晴らしいですね。
スピーカー 1
- それから、福井市のオープンデータを活用して作ったAEDナビやPM2.5時計まであるんです。
行政からのサービスを口を開けて待つんじゃなくて、市民が自分の欲しいものを自らの手を動かして作っているんですよ。
- 本当に素晴らしいです。重苦しいDX推進計画会議からは決して生まれない、非常に軽やかでアジャイルなエネルギーを感じますね。
スピーカー 1
- 極めつけは子供用パソコン、いちごジャムを使ったプログラミングスクールです。
これ子供向けかと思いきや、シニアのおじいちゃんおばあちゃんも一緒に学んでいるんですよ。
スピーカー 2
- 世代を超えた学びの場になっているんですね。
スピーカー 1
- ええ、しかも単なるパソコン教室じゃありません。
シニアの方々が日常の不満をベースにして、それを解決するためのオリジナルアプリのプロトタイプを自ら作って発表会までしているんです。
スピーカー 2
- このシニアたちの行動は極めて本質的ですね。
丸投げから市民開発者の時代へ
スピーカー 1
- 本質的と言いますと?
スピーカー 2
- 彼らはただプログラミングというスキルを学んでいるんじゃなくて、自らの手で地域の課題をハックするシビックプログラマー、つまり市民開発者へと変貌を遂げているんです。
スピーカー 1
- なるほど。前半で話したベンダーに全てを委ねる丸投げとは完全に逆の世界ですね。
困ったことがあれば、ベンダーに発注するのではなく、自分たちでコードを書くという。
スピーカー 2
- その通りです。そしてもう一つ見逃せないのが、鯖江市が導入しているコーポレートフェローシップという制度なんです。
スピーカー 1
- コーポレートフェローシップ?
スピーカー 2
- ええ、SAPジャパンやヤフージャパン、富士通といった日本を代表する大企業の社員が、外部のコンサルタントとしてではなく、臨時職員として鯖江市役所の中の人になっているんですよ。
- ちょっと待ってください。それってつまり、大企業のプロフェッショナルが発注者とか受注者という垣根を取り払って、市役所の職員や先ほどのシニアや高校生といった地元エンジニアたちと完全にフラットな立場で協働しているってことですか?
- まさにそこが確信なんです。これこそが先ほどの低位安定という呪縛を完全に破壊するオープンイノベーションの形なんですよ。
スピーカー 1
- ああ、なるほど。
- 市民、行政、そして外部のプロフェッショナルがフラットに混ざり合うことで、レガシーなシステムだけじゃなくて、古い企業風土やしがらみそのものを飛び越えてしまっているんです。
スピーカー 1
- ここまで深掘りしてきて、ようやく点と点がつながりましたよ。DXやレガシーシステムからの脱却というのは、決して古いコンピューターを新しいクラウドに入れ替えるといったIT業務の話ではないんですね。
スピーカー 2
- ええ。システムの入れ替えは単なる結果論にすぎません。
スピーカー 1
- 重要なのは、誰かがやってくれるだろうという丸投げ体質からの脱却。経営層が逃げずに、自らリスクを取ってコミットすること。
スピーカー 2
- はい。
スピーカー 1
- そして何より、鯖江市の人たちのように、自らの手を動かして自分たちの社会を作るというマインドセットへの移行。つまり、企業文化や組織風土そのものの変革なんですね。
スピーカー 2
- そういうことです。
スピーカー 1
- あなたがもし日本の組織で働いているなら、自社のDXがなぜ進まないのか、その理由が少し見えたのではないでしょうか。屋根の修理から目を背けていないか、外部に丸投げしていないか、ぜひ一度振り返ってみてほしいと思います。
スピーカー 2
- はい。最後に、リスナーのあなたに一つ、少し刺激的な思考の種をお渡しして終わりたいと思います。
スピーカー 1
- お、何でしょうか。
スピーカー 2
-今回の鯖江市の事例のように、シニアから子どもまで、誰もがプログラミングやデータ活用を日常のツールとして使いこなす市民開発者の時代が、社会全体に本格的に到来した場合を想像してみてください。
スピーカー 1
- はい。
スピーカー 2
- これまで企業や行政の中に当たり前のように存在した情報システム部門という閉鎖的な専門部署は、そもそも将来的に消滅する運命にあるのではないでしょうか。
スピーカー 1
- えー、情報システム部門がなくなるんですか。
スピーカー 2
- はい。一部の専門家だけがITをブラックボックス化して握る時代は終わり、営業も人事も現場の市民も全員がシステム開発の当事者として自律的に課題を解決していく。
スピーカー 1
- なるほど。
スピーカー 2
- それは、私たちが知っている組織の形が根底から全く新しいものへと進化していくことを意味しているのかもしれません。
- それはちょっとゾクッとすると同時に、とてつもなく希望のある未来ですね。私たちが向き合っているDXの泥沼は、実は組織の進化の過渡期に過ぎないのかもしれない。
スピーカー 2
- えー、そういう捉え方もできますね。
スピーカー 1
- 今日深掘りしてきた事実をつなぎ合わせると、見えなかった構造の輪郭が確実に見え始めている気がします。
- それでは、今日の深掘りはここまでです。また次回お会いしましょう。
16:31

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