二地域居住の促進と子育て世代の家族環境に関する調査報告書
エグゼクティブ・サマリー
日本におけるライフスタイルの多様化に伴い、都市部と地方部の両方に生活拠点を設ける「二地域居住」への関心が高まっている。特に20歳代の若者層では地方移住への関心が約半数に達し、子育て世代を中心に、自然豊かな環境での生活や教育機会の創出を求める動きが顕著である。
本報告書は、国土交通省の資料に基づき、二地域居住が子育て世代にもたらす意義、直面する課題、および自治体による先進的な支援事例をまとめたものである。二地域居住は、個人のウェルビーイング向上や学びの機会創出といった「個人的意義」に加え、地域の担い手確保や消費創出という「社会的意義」を併せ持つ。政府は「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律」の改正(令和6年11月施行)等を通じて、住まい・なりわい・コミュニティの三側面から支援を強化しており、子育て環境の整備や移動費用の軽減が今後の普及に向けた鍵となっている。
1. 子育て世代における二地域居住の意義とメリット
二地域居住は、特に子育て世帯において、従来の「移住」よりも柔軟な選択肢として注目されている。
個人的・教育的意義
- 自然環境での育児: 都市部では得がたい、豊かな自然の中での生活や子育てを通じて、子供の感性や創造性を育む。
- 新たな学びの機会: 地域の文化活動や体験学習への参加により、学校教育以外の多様な学びの機会を子供に提供できる。
- ウェルビーイングの向上: テレワークや副業を活用した「新たな働き方」の実装により、家族と過ごす時間の質を高め、生活全体の満足度を向上させる。
社会的・地域的意義
- 関係人口の深化: 二地域居住者は単なる観光客ではなく、地域の担い手(ボランティア、副業、自治会参加等)としての役割が期待される。
- リダンダンシーの確保: 自然災害や感染症などの突発的な危機に対し、複数の生活拠点を持つことで家族の安全を確保する冗長性(リダンダンシー)を高められる。
2. 家族生活における具体的な課題とハードル
普及に向けたニーズは高いものの、子育て世帯が継続的に二地域居住を行うためには、以下の「ハードル」の克服が必要である。
| カテゴリ | 具体的な課題内容 |
| 経済的負担 | 高速道路料金、新幹線等の地域間移動費、滞在施設費、二重のインターネット環境維持費。 |
| 生活環境 | 地域交通の不足、買い物・医療・福祉サービスの持続可能性。 |
| 教育・育児 | 滞在先での保育園・学校の受入体制(デュアルスクール等)、学習環境の継続性。 |
| コミュニティ | 地域住民との関係構築、ゴミ収集などの行政サービスの利用、二地域居住者への理解促進。 |
3. 自治体による先進的な取り組み事例
多くの自治体が、子育て世代や若年層をターゲットにした先導的な施策を展開している。
教育・育児支援に重点を置く事例
- 山形県高畠町: 首都圏の送り出し地域と連携した「デュアルスクール」の実証。地域交流を強化し、子供が二つの学校を行き来できる環境を整備している。
- 島根県江津市: 株式会社キッチハイク等と連携し、保育園の受入環境を実証。子育て世帯が滞在しやすい仕組みを構築し、全国展開モデルを目指している。
- 埼玉県横瀬町: 教育・保育・交通費負担軽減をパッケージ化した施策を展開。官民連携プラットフォームにより、新しいチャレンジを町全体で支援している。
- 広島県庄原市: 教育とビジネスの両面から二地域居住を促進。特に保護者層のスキルを地域で活用するモデルを模索している。
利便性向上と負担軽減の事例
- 福島県磐梯町: 「デジタル住民票」を活用した階層化された第二住民登録制度を整備。地域交通の利用など、二地域居住者の利便性を向上させている。
- 和歌山県・香川県三豊市等: 日本航空(JAL)等と連携し、マイレージ活用による航空移動費の負担軽減策を試行。広域事業者との連携で移動のハードルを下げている。
- 北海道浦河町: 公共ライドシェアの導入や教育関連の受入環境整備手法を検証。移動と教育の不安を同時に解消するアプローチを取っている。
4. 国による支援体制と制度的枠組み
令和6年の法改正により、二地域居住を促進するための公的支援が強化されている。
法的措置(特定居住促進計画)
- 市町村計画の創設: 市町村は「特定居住促進計画」を作成し、二地域居住者向けの住居整備やコワーキングスペースの開設、就業機会の創出を行うことができる。
- 特定居住支援法人の指定: NPO法人や民間企業(不動産会社等)を支援法人として指定し、空き家情報の提供や地域住民とのマッチングを委託できる制度が創設された。
予算措置と重点項目(令和8年度当初予算案等)
二地域居住の促進に向けて、多岐にわたる予算が配分されている。
- 空き家再生等推進事業: 二地域居住に資する住まいの確保に向けた重点支援(5,900百万円等)。
- 地方移住促進テレワーク拠点施設整備支援: 特定居住促進計画区域内でのコワーキングスペース等への個別補助(45百万円)。
- 地域未来交付金: 二地域居住の促進に資する取組を重点的に支援(160,000百万円の内数)。
- 特別交付税措置: 自治体が行う相談窓口の設置、体験セミナーの開催、コーディネーターの設置、お試し居住施設の整備等に対する財政措置を創設。
5. 今後の展望と検討課題
二地域居住をより持続可能なものにするため、国および自治体は以下の課題に継続的に取り組む必要がある。
- 負担軽減のサブスクリプション化: 移動費や滞在費の定額化・低廉化に向けた交通事業者・宿泊事業者との連携。
- 地域生活圏の形成: 医療・買い物・教育などの日常サービスが維持される拠点形成の支援。
- 「ふるさと住民登録制度」の検討: 納税や住民票のあり方を含め、二地域居住者が行政サービスを円滑に受け、地域に広く受け入れられるための環境整備。
- 官民連携プラットフォームの活用: 令和6年10月に設立された「全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム」を通じ、成功事例の共有とマッチングを加速させる。
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サマリー
日本において、都市と地方の両方に生活拠点を設ける「二地域居住」が、特に子育て世代の新たな選択肢として注目されています。テレワークの普及やリスク分散の観点から関心が高まる一方で、経済的負担やインフラの課題も存在します。茨城県境町は子育て特化戦略で、北海道厚沢部町は既存資源と「旅先納税」を活用した「保育園留学」でこれらの課題を克服し、成功モデルを確立。国も法改正を通じて二地域居住を国策として推進し、「定住人口」から「関係人口」へのパラダイムシフトを促しています。この動きは、将来のライフスタイルやアイデンティティ形成に大きな影響を与える可能性を秘めています。