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スピーカー 2
それでは、紐解いていきましょうか。まずは、あの衝撃的な70%っていう数字の裏側から見ていきたいんですが。
スピーカー 1
そうですね。コロナ禍が落ち着いてから、経営人がやっぱり顔を合わせて働くのが一番生産性が高いぞって言ってオフィス出社を再開する、いわゆる出社回帰の動きが進んでいますよね。
ええ、よくニュースでも見ます。RTO、Return to Officeってやつですよね。
スピーカー 1
はい、まさにそれです。でもその結果何が起きたかというと、子育て世代の7割以上がこの出社回帰をきっかけにして、転職を検討し始めているんですよ。
スピーカー 2
7割って異常な数字ですよね。
スピーカー 1
さらに驚くべきことに、なんと5.2%の人は検討にとどまらず、すでに転職を実行してしまっているんです。
スピーカー 2
うわあ、もう辞めちゃってるんですね。企業からすれば、生産性を上げようって号令をかけた瞬間に、エース級の人材がごっそり抜けようとしているわけで大損失じゃないですか。
スピーカー 1
おっしゃる通りです。そしてこれがさらに深刻なのが、IT業界なんですよ。女性のIT人材に限って言うと、実に3人に1人が出社回帰を理由に本気で転職を考えているというデータがあります。
スピーカー 2
3人に1人。なんでそんな極端な反発が起きているんですか。
スピーカー 1
背景にはですね、日本のIT業界が長年放置してきた働き方の構造的な欠陥があるんです。
スピーカー 2
構造的な欠陥ですか?
スピーカー 1
ええ。そもそも日本のIT業界における女性エンジニアの比率って、18.8%から19.5%程度なんですね。
スピーカー 2
2割にも満たないんですね。
スピーカー 1
はい。これ、主要国の中でも最下位レベルなんです。その上で、情報通信業の所定外労働時間、つまり残業ですね。これが月平均で16.5時間にも出していて、全産業で2番目に長いんですよ。
スピーカー 2
なるほど。長時間労働がデフォルトになっているんですね。
スピーカー 1
そうなんです。この長時間労働が当たり前っていう環境に、教員に毎日出社しろっていうルールを掛け合わせたらどうなるか。
スピーカー 2
いや、育児との両立なんて物理的に不可能になりますよね。これって例えるなら、フルマラソンを走るのに最初の1キロだけとにかく全力疾走しろって命令して、
スピーカー 1
ええ。
スピーカー 2
ランナーの足にできたひどい靴擦れを完全に無視しているようなものじゃないですか。
スピーカー 1
全くその通りです。しかも、靴擦れを無視するどころか、キザンコウが欲しいならもう走るのをやめろってコースから追い出しているような状態なんですよ。
それはひどい。
目先の稼働率っていう名のタイムを縮めようとした結果、長期的にはランナーそのものがいなくなってしまう。
スピーカー 2
つまり、リテンション、人材の定着が完全に破壊されているわけですね。出社を強制して目先の効率を上げようとした結果、優秀な人材が70%も離脱を考えるなら、それって本当に生産的と言えるんでしょうか。
スピーカー 1
いや、全く言えないですよね。しかもこれ、単なる個人の頑張りとか気合の問題じゃなくて、ビジネスモデル自体が足枷になっているケースもあるんですよ。
スピーカー 2
と言いますと。
その典型がSES、つまり客先常駐と呼ばれる働き方です。
スピーカー 2
ああ、エンジニアが別の会社に常駐して働くシステムですね。
スピーカー 1
はい。ここで産休や育休を取ろうとすると、クライアントの承認という巨大な壁にぶつかるんです。
スピーカー 2
え?ちょっと待ってください。自分の会社の社員なのに、お客様の許可がないと休めないってことですか?
スピーカー 1
事実上、そういうふうに機能してしまっているんです。
営業担当者は、現場から人が抜けるなら契約を打ち切るぞってクライアントに言われるのを恐れて、エンジニアに給食を思い留まらせようとするケースがあるんですよ。
スピーカー 2
うわあ、それはきついですね。
スピーカー 1
さらに恐らしいのは、復職時です。元のプロジェクトはすでに別の人で回っていることが多いので、戻る場所がないという事態が起きるんですね。
スピーカー 2
じゃあどうなるんですか?
スピーカー 1
次のアサイン先が決まるまで待機となり、その間は言及され、最悪の場合は退職に追い込まれるディスクすらあるんです。
スピーカー 2
それは怖すぎますね。そんな状況でキャリアを休むなんて決断簡単にはできませんよ。
スピーカー 1
実際に年収による格差のデータも衝撃的でした。
年収500万円以下の層と1000万円以上の層の比べると、育休取得の心理的ハードル、つまり取りにくさに最大8.8倍もの格差があるそうです。
スピーカー 2
8.8倍ですか。生活の余裕がない層ほど、キャリアへの悪影響とか、復職後のポジション喪失への恐怖を強く感じてしまうわけですね。
スピーカー 1
ええ。とにかく止まず長く働くことが生産性だっていう従来型のモデルが完全に限界を迎えている証拠ですね。
スピーカー 2
なるほど。では、出社を強要して無知を打つアプローチが人材を破壊しているとしたら、その逆をやっている企業はどうなっているのか。ここからが本当に面白いところなんですが。
スピーカー 1
はい。先進的な企業のアプローチですね。
スピーカー 2
社員の人生の都合、つまりライフイベントに徹底的に寄り添うことで、逆にものすごいパフォーマンスと定着率を叩き出している会社があるんですよね。
スピーカー 1
そうなんです。極端の成功例として有名なのが細胞図ですね。2005年当時は28%という高い離職率に悩んでいましたが、現在ではなんと4%にまで低下しています。
スピーカー 2
28%から4%って劇的な変化ですよね。この細胞図の精度、最長6年も育休が取れるんですよね。
スピーカー 1
ええ。それに加えて、一度退職しても6年以内なら復職できる育児分休暇制度なんてものまであるんです。まさに100人100通りの働き方を実現しています。
スピーカー 2
さらに、メルカリのマーシーボックスという制度も桁違いでしたようで、女性は約8ヶ月、男性は8週間の給与を会社が100%保障する。
スピーカー 1
はい。それだけじゃありません。認可外保育やゼロ採取保育には月10万円を上限に補助を出して、病児保育は無制限で1時間1500円補助してくれるんですよ。
スピーカー 2
すごいですよね。そこに加えて、不妊治療には上限200万円、卵子凍結の費用まで補助するようになっていると。
スピーカー 1
そうなんです。個人のライフイベントにそこまで踏み込んで支援しているんです。
スピーカー 2
いやいや、ちょっと待ってください。あの、ちょっと意地悪な聞き方をしますけど、最長6年も休ませたり、卵子凍結とか不妊治療に数百万円の補助金を出したりするのって、経営者から見れば莫大なコスト、つまりお金の垂れ流しに見えませんか?
スピーカー 1
まあ、一見すると過剰な出費に見えますよね。
スピーカー 2
はい。これがどうして生産性の向上なんていうプラスの結果に結びつくんですか?
スピーカー 1
ここで興味深いのは投資対効果のメカニズムなんです。これらの制度は、社員に対するダウンサイドリスクの排除として機能しているんですよ。
ダウンサイドリスクの排除ですか?つまり、働く上での最悪の事態への不安を取り除くということですか?
スピーカー 1
その通りです。例えば、優秀なエンジニアを新たに市場から採用しようとすれば、エージェントへの報酬や教育コスト、さらにその人がチームに馴染んでパフォーマンスを発揮するまでの時間を考えれば、数百万から数千万単位のコストがかかります。
スピーカー 2
確かに採用コストってバカにならないですよね。
スピーカー 1
だとすれば、社員が子供が熱を出したらどうしようとか、将来の妊娠と今のキャリアをどちらを諦めるべきかっていう不安で頭の容量を奪われている状態を、会社がお金を出して事前に解決してあげる。
なるほど。
スピーカー 1
そうすることで、社員は心理的な安全性を得て、目の前の仕事に100%のエネルギーを注げるようになります。
結果的にエンゲージメントが高まり、離職率が劇的に下がって採用コストも浮く。長期的なスパンで見れば、これほど利にかなった生産性向上策はないんです。
スピーカー 2
個人がライフイベントで抱えるコストや不安を会社が肩代わりすることで、圧倒的なコミットメントを引き出しているんですね。
スピーカー 1
ええ。その結果として、個人側も単に休むだけじゃなく、会社に還元しようと自ら成長するんです。
スピーカー 2
いや、ここまで聞くと、じゃあ福利構成を手厚くしてどんどん休めるようにすれば万事解決だと思いたくなるんですが。
そう簡単にはいかない部分もありますね。
スピーカー 2
リスナーの皆さんも、きっと頭の片隅で引っかかっている問題がありますよね。そう、誰かが休んだ時、その人の仕事をカバーする周囲の人たちの負担です。
スピーカー 1
いわゆる子持ち様批判と言われるような職場内の摩擦ですね。
はい。独身の人や子供がいない人にばかりしわ寄せがいく。いくら制度が立派でも、現場の人間関係がギスギスしてしまったら、結局その制度は誰も使えなくなりますよね。
スピーカー 1
その通りです。先進的な企業は、このしわ寄せを個人の善意に頼るのではなく、システムとして解決しているんですよ。
スピーカー 2
システムですか?
スピーカー 1
例えば、スマートHRでは、尿乳を特定の人しかできないという俗人的な状態から徹底的に抜け出させています。
スピーカー 2
リスナーの皆さん、ちょっとご自身の今の仕事を想像してみてください。もし、明日自分が急に熱を出して1週間休むことになったら、関わっているプロジェクトは止まらずに進みますか?
スピーカー 1
なかなか難しい方が多いんじゃないでしょうか。
スピーカー 2
おそらく、自分がいないと回らないという方が多いと思います。スマートHRはこれを防ぐためにモブプログラミングを取り入れているんですよね。
はい。一人の天才がコードを書くのではなく、複数人で同じ画面を見ながら同時にコードを書いていくんです。
スピーカー 2
みんなで一緒にやるわけですね。
スピーカー 1
ええ。さらに、議事録やミーティングの動画記録を徹底的に残すことで、情報が一人に偏る状態を排除しています。だからこそ、誰がいつ休んでもプロジェクトが滞らないフルフレックスやリモートワークの環境が成立しているんです。
スピーカー 2
業務の非俗人化。仕組みを変えるのはよくわかります。でも私が一番驚いたのは、お金で解決するアプローチなんです。
スピーカー 1
経済的インセンティブですね。
スピーカー 2
はい。三井住友会場では、育休を取った社員の業務をカバーした同僚全員に最大10万円の応援手当という祝金を支給しているそうですね。
スピーカー 1
ええ。札幌ビールでも最大約6万円の手当が騙し、NZTドコモではカバーした業務そのものをマイワークプラスという仕組みで順次評価にプラスしているんです。
スピーカー 2
つまり、これって思いやりや共感をお金や評価という具体的なシステムで買い取っているということですか?
スピーカー 1
その表現まさに本質をついていますね。心理学に公正理論というものがあるんですが。
スピーカー 2
公正理論ですか?
スピーカー 1
はい。人間は自分が組織から公平に扱われている、正当な見返りをもらっていると感じて初めて他社に協力する欲を持つんです。精神論ではなく物理的な報酬で葬ることが重要なんですね。
スピーカー 2
私たちはこれまでチームワークやカバーし合うことって思いやりとかお互い様という精神論で乗り切るものだと教わってきましたよね?
スピーカー 1
ええ。日本の職場ではよくある光景です。
スピーカー 2
でも、この企業たちが証明しているのは、その善意に頼り続けると現場が疲弊して崩壊するということなんですね?
スピーカー 1
おっしゃるとおりです。ある熊本県の社会保険労務士の分析資料でも指摘されていましたが、重要なのは育児中の社員だけを優遇することではないんです。
スピーカー 2
と言いますと?
スピーカー 1
独身社や子供のいない社員にも、週1回のリモートワークやバケーション制度といった柔軟な働き方を提供し、あくまで成果ベースで公正な評価を行うことが不公平感の解消には不可欠なんです。
スピーカー 2
なるほど。休む人を支える側にも明確なメリットを提示する。制度を利用する人とそれをカバーする人の間の不公平感をなくすことが、結果的に組織全体のパフォーマンス低下を防ぐ最大の防波堤になるんですね?
スピーカー 1
ええ。制度を作り、カバーする人を評価する仕組みも整える。これだけでもかなり先進的ですが、今回の資料を読み込んでいくと、この生産性を支える基盤が、もはや会社の中だけでは完結しなくなっていることに気づきます。
スピーカー 2
つまり、それはどういうことなんでしょうか?企業単体の枠を超えて、地域社会やコミュニティとのエコシステム、村のようなつながりを作り出すフェーズに入っているということですか?
スピーカー 1
まさにその通りです。より大きな視点で捉えると、社会全体でのサポートが必要になってきているんです。例えば、アズママの子育てシェアというサービスがあります。
スピーカー 2
子育てシェアですか?
スピーカー 1
はい。これ、保育園でも会社でもなく、近所に住む人同士で子供を預け合うコミュニティなんです。特にエッセンシャルワーカーの方々にとって、コロナ禍の急行パニックの時など、この地域のつながりが仕事を続けるための文字通り命綱になっていました。
スピーカー 2
福岡県大野城時のプロモーション動画もまさにそれでしたよね。ママが選んだ大野城というキャッチコピーなんですが。
スピーカー 1
ええ、あの動画は印象的でした。
スピーカー 2
アピールしているのが施設の豪華さとかじゃないんですよね。カフェの店員さんや助産師さんが街全体で温かく見守ってくれるという空気感、この心理的安全性が働く親にとってどれだけ背中を押してくれるかっていう。
スピーカー 1
会社の中のつながりも同様です。孤立を防ぐためのネットワークが重要視されています。
スピーカー 2
確かに。一人で悩みを抱え込むのは辛いですもんね。
スピーカー 1
NTT東日本では育児中の社員同士が悩みを共有できるコーチャージプラスというコミュニティを運営していますし、NTTグループ全体で男性の育休に関するパネルディスカッションを開いてナレッジを共有しています。
スピーカー 2
さっき出てきたリスキリングの資格、G検定の合格者が集まるCDLEというコミュニティもそうですよね。一人で黙々と勉強するんじゃなくて仲間とつながることでモチベーションを維持する。
そうなんです。これらが示唆しているのは非常に重要なポイントです。社員を決まった時間に稼働する労働力という名の機械の部品として扱う時代はもう終わったということです。
スピーカー 2
なるほど。彼らは地域社会で暮らし、複雑な人間関係を持ち、予測不可能な人生を歩む人間なんですよね。
スピーカー 1
だからこそ会社の都合に個人の人生を合わせさせるんじゃなくて、会社が個人の人生のエコシステムの一部に組み込まれていく必要があるんです。
スピーカー 2
そういうことですね。さて少し視野を広げて今回の最初の問いに戻ってみましょうか。今の企業はどこまで生産性を第一に考えるべきなのか。
スピーカー 1
結論から言うと企業である以上生産性は第一に考えるべきです。しかしその生産性の定義を混沌から書き換えなければ生き残れません。
スピーカー 2
出社させて労働時間をサクリ取るような目先の効率を生産性と呼ぶのはもう古いと。
ええ。個人のライフイベントを支えカバーする同僚には正当な評価とお金を払い地域コミュニティという外部の力とも連携する。
スピーカー 1
そうやって人が壊れずに持続できるエコシステムを作ることこそが現代における本当の意味での究極の生産性向上なんです。
スピーカー 2
まさに個人の人生の波を受け入れる余白をシステムとして組み込んでいる組織だけが結果的に高いパフォーマンスを出し続けることができるんですね。
リスナーのあなたはどう感じましたか。
スピーカー 1
ご自身の職場環境と照らし合わせてみると見えてくるものがあるかもしれませんね。
あなたが今働いている環境は個人の事情を無視して目先の効率だけを吸い上げる場所になっていますか。
スピーカー 2
それとも人生の変化を支え合うエコシステムの一部になれているでしょうか。
スピーカー 1
一度足元を見つめ直してみる価値のある問いだと思います。
最後にここまでの話を踏まえてもう一つ刺激的な考えをお渡ししておきたいと思います。
スピーカー 1
何でしょうか。
スピーカー 2
これから先、AIの技術がもっと進化してタスクの効率化や最適化を完全に機械がやってくれる時代が来たとしますよね。
スピーカー 1
ええ、遠からずそういう未来が来そうですね。
スピーカー 2
その時、企業が持つ本当の価値を決めるのは、いかに早くミスなく作業をこなすかではなくなるはずです。
むしろ病気や育児、介護といったAIには絶対に計算しきれない、人間の複雑で予測不可能な人生を組織としていかに優しく包み込みサポートできるか。
スピーカー 1
なるほど。効率の良さから人間らしさの需要へとシフトするわけですね。
スピーカー 2
そうなんです。それこそが人が集まる最強の企業の条件になるのではないでしょうか。
あなたはそんな未来の組織でどんなふうに働いていたいですか。
今回の深堀はここまでです。次回もお楽しみに。