ボスの楽園と快楽
ボイスドラマ、ボス快楽の園。
風の心地よい午後、美術館のベンチに座るマリアとトミー。
二人はヒエロニムスボスの傑作快楽の園の前にいます。
トミーは目を閉じ、静かにマリアの声に耳を傾けています。
マリアはトミーの手を取り、指先で手のひらに円を描きながら、
トミー、今ね、目の前にボスの快楽の園があるの。
すごく大きくって、三枚のパネルからなる大きな絵なのよ。
三つの世界が描かれているの。
うん、どんな世界なんだろう。
マリアの声から、とても不思議で美しい絵だと感じるよ。
マリアは絵を見つめ、少し声を弾ませて、
最初にね、左のパネルから説明するわね。
ここはエデンのソノ。
画面の中央に一際大きく開かれた神様がいるの。
白い長い髪と髭をたくわえて、まるで大きな岩のようにどっしりとして見えるわ。
神様のすぐそばにイブがいるの。
金色の長い髪を肩まで垂らしていて、顔を少し伏せているから、
どんな表情かは見えにくいんだけど、とても穏やかな顔をしているように見えるわ。
イブ?
そして、そのイブの少し後ろにアダムがいるの。
アダムは神様の方を向いていて、
神様とイブがどうしているかじっと見つめているわ。
アダムもイブも白い肌をしていて、金髪なの。
背景は緑豊かで、色どりどりの鳥や奇妙な動物たちがたくさんいるの。
象やキリン、それからユニコーンもいるわ。
動物たちはみんな穏やかな表情をしているから、平和な世界のように見えるわ。
マリアはトミーの手を取り、中央のパネルへとゆっくりと移動します。
少し興奮したように。
次は真ん中のパネルよ。
ここが一番この絵で有名な快楽の園と呼ばれる場所。
左のパネルとは全く違って、もっと不思議で賑やかな世界なの。
画面全体を彩るように裸の男女がたくさん描かれているわ。
裸の男女が裸で?
そう、みんな若くて白い肌をしているわ。
黒髪の人もいれば、赤毛の人、金髪の人もいる。
みんな思い思いにもしそうに過ごしているわ。
お互いを見つめ合ったり、微笑んであったり。
まるで夢の中みたいだね。
本当に、このパネルの中心には丸い大きな池があって、
その周りを男女が取り囲むように座っているの。
池の中にはたくさんの女性たちがいるわ。
みんな楽しそうに水に浸かっている。
池の真ん中にはピンク色の噴水があって、そこから水が湧き出しているの。
空にはたくさんの鳥たちが飛んでいて、みんなすごくカラフル。
マリアが少し恋をむそめて。
そして、このパネルで一番奇妙なのはフルーツなの。
イチゴやサクランボ、ブドウなんかが人間と同じくらいの大きさで描かれているのよ。
みんなそのフルーツに乗ったり食べたりしているのよ。
大きなイチゴ。なんだか美味しそうだね。
そうね。まるでみんなが楽園で無邪気に遊んでいるように見えるわ。
そしていよいよ最後のパネル。
マリアの声のトーンが少し変わります。
マリアは少し神妙な声で。
そしてこれが最後のパネル。
地獄の世界。
ここだけ今までとは雰囲気が全く違うの。
全体的に暗くて赤や黒の色が多いわ。
左のパネルや真ん中のパネルが昼の世界だとしたら、ここは夜の世界ね。
地獄。
そう。真ん中にものすごく大きな人の耳の形をした楽器があるの。
まるで巨大な生き物みたい。
その上には人間が何にもたらわられて苦しそうな表情をしているわ。
許しそうな表情。
地獄の中は服はボロボロで肌の色もくすんで見える。
目もうつろでどこか遠くを見つめているような感じがする。
そして奇妙な楽器もたくさん描かれているの。
ルートやハープが描かれているんだけど、
それらが人間をとらわれていて苦しめているの。
マリアが少し怖がったように。
右下の方にはウサギがいるの。
このウサギもなんだか怖い表情で人間をとらわれている。
楽園の後に地獄があるんだね。
マリアはトミーの手をそっと握りしめて。
そう、この絵は楽園、快楽、そして地獄と三つの世界が描かれているの。
トミー、目を閉じているとこの絵の彩色や形がどんな風に感じる?
トミーは少し考え込むように。
うーん、マリアの声を聞いていると、
左のパネルはまるで穏やかな緑の風が吹いているようだ。
真ん中のパネルは甘いフルーツの香りが漂って楽しい声が聞こえてくるみたい。
そして右のパネルは耳元で共和音のような音が鳴り響いて、
少しだけ冷たい風が吹いているような感じがするよ。
と、僕の描きたかった世界がトミーの中にもちゃんと見えているんだね。
