村長としての苦悩
皆様、ありがとうございます。この桃太郎、日本一を掲げるのは、鬼ヶ島に行くときだけではございません。村長として、必ずやこの村に日本一旗を掲げてみせましょう。皆様に豊かな時間をお届けします。
それから3年の月日が経った。 全ての村民に豊かな時間をおテーマとして掲げて、桃太郎は当選を果たした。
しかし、初めての姿勢は、なかなか思うようにいかず、焦りを感じていた。 観光業を中心として産業を活発にすることで、村人の収入を増やし、豊かな時間を過ごしてもらおうという計画であった。
村長室には、記事が持ってきた書類を険しい顔で睨みつけている桃太郎がいた。 思ったより観光客が伸びていないな。
桃太郎は書類を机の上に投げ出すと、椅子の背もたれに体重を預けながら、記事に向っていった。
どうしたものか。これでは豊かな時間を届けられない。 黄皮団子の売り上げも右肩下がりだしな。
あれは美味しいものではないですからね。 問題発言だな。その黄皮団子のために命を懸けたはずだろう。
滅相もございません、桃太郎様。 皆まで言わせないでください。
あの年はヒデリが続き、深刻な食糧不足だったではありませんか。 飢えて死ぬよりはましだろうと思っただけです。
犬と猿も同じ気持ちだったと思いますよ。 まあ確かに私も黄皮団子よりおにぎりの方が好きだ。
いずれにせよ観光客が増えなくては話にならん。 桃太郎は村長として打ち出した目玉政策、それは鬼ヶ島の観光地下だった。
鬼ヶ島を制圧した彼ならではの政策である。 しかし珍しさで訪れる客はリピーターにはならず、鬼ヶ島ツアーと銘打った規格の客足は伸び悩んでいた。
鬼丸の訴えと桃太郎の怒り
何か他に目玉が欲しいところだな。 そこへかつての鬼ヶ島の死、鬼丸が憔悴しきった様子でやってきた。
鬼たちは桃太郎との戦いに敗北した後、財宝をすべて返し、村人たちに謝罪をして許しを得ていた。
桃太郎は鬼たちの犯罪の要因を貧困にあると見ていた。 火山があり土地が痩せている鬼ヶ島は作物が育ちにくい土地だったのである。
そこで桃太郎は鬼ヶ島そのものを観光地化することで、鬼たちに新たな収入源を与えようと考えたのだ。
鬼丸にとって桃太郎はライバルであり恐ろしい存在であり、そして恩人でもあった。 武力では到底かなわないことを彼は身をもって知っている。
桃太郎の前でふかふかと頭を下げ、おずおずと口をあいた。 桃太郎様、近頃の観光客の振る舞いですが
少々目に余るものがございまして、 ゴミの不法投棄、深夜の騒音、挙句の果てには鬼たちの家に無断で入り込むものまでいるという、
鬼丸は対策を講じてほしいと必死に訴えた。 しかし桃太郎の反応は冷ややかだった。
現状の収入では注意を促すポスターを貼るのが責の山だ。 それよりももっと客を呼び込む方法を考えろ。
赤字続きでは話にならん。 うむを言わせぬ口調に鬼丸は唇を噛みしめるしかなかった。
打ちひじされてとぼとぼと尊重筆を後にする彼の背中から、かほ細い声が漏れた。 まるで鬼じゃ。
その言葉は桃太郎の心の奥底に突き刺さった。 かつて命を懸けて戦った鬼という存在に自分が名ぞらえられることへの屈辱が、
彼の理性を焼き切った。 貴様、いま何と言った。 桃太郎は近くに飾られてあった棚に手をかけて鬼丸にずりかかろうとした。
ひ、ご勘弁を。 鬼丸は腰を抜かし地面を這いつくばって逃げようとする。
お待ちください桃太郎様。 生地が桃太郎の目の前で羽を広げてその視界を遮った。
その隙に異様な雰囲気を察知して駆けつけた犬とされが鬼丸を必死に外へ連れ出す。 そこをどけ、叩き切ってくれるわよ。
桃太郎様、お話をお聞きください。 ここで鬼丸殿をずりったら再び鬼たちとの戦いになります。
それは桃太郎様が目指す豊かな時間とはかけ離れてしまいます。 それに、今は桃太郎様がいらっしゃるから良いものの、もしあなた様がいなくなれば、
この村は再び鬼たちに蹂躙されかねません。 騎士は冷静に桃太郎を悟した。
そこへ犬と猿も戻ってきて加勢し、三匹の家来は夜を通して主君を説得した。 翌日桃太郎は現状視察の名もとに鬼ヶ島へ謝罪を行くことを渋々ながら受け入れたのでった。
鬼ヶ島での和解と鬼太鼓
騎士が先に鬼ヶ島へ向かい、戦いのためではないことを伝え、犬と猿は港までの船を漕ぐに留め、桃太郎は一人で鬼ヶ島へ向かった。
鬼丸の家を飛べしたものの謝罪の言葉は容易に出てこない。 互いに視線を合わせることもできず、おも苦しい飽き牛が二人の間に漂う。
桃太郎がわずかにみじろぎしただけで鬼丸の肩がびくりっと震えた。
何か言葉を探して室内を見渡した桃太郎の目に、ふと部屋の隅に置かれた大きな太鼓が止まった。
これは鬼太鼓と呼ばれるものでございまして、この島の片域に何十にもした獣の皮を張って作られておりまして、波の力では音も出ません。
桃太郎殿の号機なれば、あるいは音が出るかもしれません。よろしければお試しください。
桃太郎は吸い寄せがれるように太鼓に近づき力いっぱい鉢を振り下ろした。
ドーーン、腹の底にひび散らたるような重くてもそれでいてさやかな一音。 その音色に桃太郎は心を奪われた。
すごいなあ、これは。 純粋な寒炭を声を漏らす桃太郎を見て鬼丸が提案した。
もしお気に召されたのでしたら 明日島の人たちで演奏会を開き
ましょう 翌日鬼ヶ島の広場には大小さま
ざまな太鼓が並べられていた 鬼たちがその前に立つと狂犬な
落台が岩のようにそそり立ち視察 に来た村人たちの間に緊張が走る
桃太郎も腕を組み厳しい表情で その様子を見つめていた
鬼招が巨大な鉢を天に掲げ静かに 振り下ろした
つううう大地が震え空気が揺れた それは単なる大きな音ではない
島の奥深くから響き出してくる 魂を揺さぶる中低音だった
それを合図に他の鬼たちも一斉 に鉢を振るう
ある鬼は荒々しくある鬼は軽 やかにそれぞれのリズムが時に
ぶつかり時に絡み合いながら一 つの巨大なうねりとなっていく
汗をひからせ歯を食いしばりながら もその表情には苦痛ではなく純粋
な歓喜が満ちあふれていたそれは 抑圧された魂の叫びであり生命
そのものの酸化だようだ桃太郎 はいつの間にか組んでいたあれ
をほどいたかつて鬼ヶ島で聞いた 時の声とは全く違うそこには憎しみ
もあんがともないただ生きる喜び を全身で表現するひたむきな姿
があった村人たちも当初の恐怖 を忘れてその圧倒的な迫力と併
熱感にただ引き込まれていたや がて演奏がクライマックスを迎
え全ての音が一つに重なり嵐の ような轟音となって広場を包み
込みそして最後の人高打ち鳴ら されると全てを飲み込みような
静寂が訪れた誰も息を呑んで立ち 尽くす中桃太郎から
無意識に拍手がこぼれたそれを 皮切りに村人たちからも熱狂的な
喝采がまき起こる桃太郎は鬼丸 の音へやってきた
鬼丸殿鬼ヶ島ツアーはやめだ鬼 太鼓ツアーにしようこの太鼓
をこの島の新しい名物にするんだ それはまことにございますか
ぱっと顔を輝かせる鬼丸に桃太郎 は続けた
私は間違っていた経済が豊かになれば 豊かな時間が得られるものだと思
っていたがそうではないのだ鬼 太鼓を聞いている間とても豊かな
時間だった豊かな時間とは金と 関係のないところにあるのかもしれない
改めて鬼丸の方を迎え直して深く 頭を下げた
昨日は申し訳ありませんでした 私が間違っておりました
いいえ元を垂らせば私の出現が 原因です私こそ申し訳ございません
でした鬼丸は一度言葉を切って 静かに続けた
もし桃太郎様がただの武人であれば われわれは最後の一人まで抵抗
したはずでしょうしかしあなたは われわれに生きる道を与え許し
を下さいましたその恩を忘れた ことは一度もございませんだから
こそ昨日のあなた様はまるで本当 の鬼のようにお見えになったの
です桃太郎は静かにもう一度深く 頭を下げた
そしてけっし落とした顔をあげ 鬼丸の目をまっすぐに見つめた
鬼丸殿もう一つ頼みがある何で ございましょう
新たな師弟関係
俺にその対抗を教えてもらえない か
予想外の言葉に鬼丸は目をまる くした
桃太郎様鬼に鬼醍醐を習うということ は何を意味するかお分かりになります
でしょうか もろんだ俺は鬼になりたい承知
いたしましたこの鬼丸く力の 限りを教えいたします師匠と
呼んで下さい 鬼丸が少し得意げにそういうと
桃太郎は一心驚いた顔をしたが すぐに覇願した
ああよろしく頼む師匠 その様子を犬猿騎児が遠くから
微笑みを浮かべて見守っていた 晴れた空の夕焼けが新たに生まれた
施計の斜下を長く伸ばしていた