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#154 やまなし/宮沢賢治【にーこるぶっく📚】
2026-03-30 11:16

#154 やまなし/宮沢賢治【にーこるぶっく📚】

【にーこるぶっく📚】Book1

やまなし
宮沢賢治

#にーこるぶっく
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00:01
【山梨】 宮沢賢治作
小さな谷川の底を写した、2枚の青い弦頭です。
1 五月
2匹のカニの子供らが、青白い水の底で話していました。
クラムボンは笑ったよ。 クラムボンはカプカプ笑ったよ。
クラムボンは跳ねて笑ったよ。 クラムボンはカプカプ笑ったよ。
上の方や横の方は、青く、暗く、鋼のように見えます。
その滑らかな天井を、つぶつぶ、暗い泡が流れていきます。
クラムボンは笑っていたよ。 クラムボンはカプカプ笑ったよ。
それなら、なぜクラムボンは笑ったの? 知らない。
つぶつぶ泡が流れていきます。 カニの子供らもポツポツポツと、続けて5、6つぶ泡を吐きました。
それは、揺れながら水銀のように光って、 斜めに上の方へ上っていきました。
ツーッと、銀の色の腹をひるがえして、 一匹の魚が頭の上を過ぎていきました。
クラムボンは死んだよ。 クラムボンは殺されたよ。
クラムボンは死んでしまったよ。 殺されたよ。
それなら、なぜ殺された? 兄さんのカニは、その右側の四本の足の中の二本を、
弟の平べったい頭に乗せながら言いました。 わからない。
魚がまた、ツーッと戻って、下の方へ行きました。 クラムボンは笑ったよ。
笑った。にわかにパッと明るくなり、 日光の金は夢のように水の中に降ってきました。
波から来る光の網が、そこの白い岩の上で、 美しくゆらゆら伸びたり縮んだりしました。
泡や小さなゴミからは、まっすぐな影の棒が、 斜めに水の中に並んで立ちました。
魚が、今度はそこら中の金の光を、まるっきりくちゃくちゃにして、 おまけに自分は鉄色に変にそこびかりして、またカミの方へ登りました。
03:09
お魚は、なぜや行ったり来たりするの? 弟のカニがまぶしそうに目を動かしながら尋ねました。
何か悪いことをしてるんだよ。取ってるんだよ。 取ってるの?
うん、そのお魚が、またカミから戻ってきました。
今度はゆっくり落ち着いて、ヒレも尾も動かさず、 ただ水にだけ流されながら、お口を輪のように丸くしてやってきました。
その影は、黒く、静かに、そこの光の網の上を滑りました。
お魚は、その時です。にわかに天井に白い泡が立って、 青びかりの、まるでギラギラする鉄砲玉のようなものが、いきなり飛び込んできました。
兄さんのカニは、はっきりとその青いものの先が、 コンパスのように黒く尖っているのも見ました。
と思ううちに、魚の白い腹がギラッと光って、いっぺんひるがえり、 上の方へのぼったようでしたが、それっきりもう青いものも魚の形も見えず、
光の金の網はゆらゆら揺れ、泡はつぶつぶ流れました。
二ひきは、まるで声も出ず、いすくまってしまいました。
お父さんのカニが出てきました。
どうしたい?
ぶるぶる震えているじゃないか。
お父さん、今、おかしなものがきたよ。
どんなもんだ?
青くてね、光るんだよ。
端がこんなに黒く尖ってるの。
それがきたら、お魚が上へのぼっていったよ。
そいつの目が赤かったかい?
わからない。
ふーん。
しかしそいつは鳥だよ。
カワセミというんだ。
大丈夫だ、安心しろ。
俺たちは、かまわないんだから。
お父さん、お魚はどこへ行ったの?
魚かい?
魚は、こわいところへ行った。
こわいよ、お父さん。
いいいい、大丈夫だ。
心配するな。
そら、カバの花が流れてきた。
ごらん、きれいだろう。
泡といっしょに、白いカバの花びらが、天井をたくさんすべってきました。
06:05
こわいよ、お父さん。
弟のカニも言いました。
光の網はゆらゆら、のびたり縮んだり、花びらの影は静かに砂をすべりました。
2
12月
カニの子供らは、もうよほど大きくなり、
そこの景色も、夏から秋の間にすっかり変わりました。
白い柔らかな丸石も転がってき、
小さな霧の形の水晶の粒や金雲母のかけらも流れてきて止まりました。
その冷たい水の底まで、ラムネの瓶の月光がいっぱいにすき通り、
天井では波が青白い火を燃やしたり消したりしているよう、
あたりはしんとして、ただいかにも遠くからというように、
その波の音が響いてくるだけです。
カニの子供らは、あんまり月が明るく、水がきれいなので、
眠らないで外に出て、しばらくだまって泡を吐いて、天井の方を見ていました。
やっぱり僕の泡は大きいね。
2
3
わざと大きく吐いてるんだい。
僕だってわざとならもっと大きく吐けるよ。
吐いてごらん。
おや、たったそれきりだろう。
いいかい、兄さんが吐くから見ておいで。
そら、ね、大きいだろう。
大きかないや、おんなじだい。
近くだから自分のが大きく見えるんだよ。
そんならいっしょに吐いてみよう。
いいかい。
そら。
やっぱり僕の方大きいよ。
ほんとうかい。
じゃ、もうひとつ吐くよ。
だめだい、そんなに伸びあがっては。
また、お父さんのカニが出てきました。
もう寝ろ寝ろ。
遅いぞ。
あしたイサドへ連れて行かんぞ。
お父さん、
僕たちの泡、どっち大きいの?
それは兄さんの方だろう。
そうじゃないよ、僕の方大きいんだよ。
弟のカニは泣きそうになりました。
そのとき、とぶん。
黒い丸い大きなものが天井から落ちてずっと沈んで、また上へのぼって行きました。
キラキラと金の縁が光りました。
09:05
カワセミだ。
子供らのカニは首をすくめて言いました。
お父さんのカニは遠眼鏡のような両方の目をあらん限り伸ばしてよくよく見てから言いました。
そうじゃない、あれは山梨だ。
流れて行くぞ。
ついて行ってみよう。
ああ、いい匂いだな。
なるほど、そこらの月明かりの水の中は山梨のいい匂いでいっぱいでした。
三匹はぼかぼか流れて行く山梨の跡を追いました。
その横歩きと底の黒い三つの影帽子が合わせて六つ、踊るようにして山梨の丸い影を追いました。
まもなく水はさらさらなり、天井の波はいよいよ青い炎をあげ、山梨は横になって木の枝にひっかかって止まり、
その上には月光の虹がもかもか集まりました。
どうだ、やっぱり山梨だよ。
よく熟している。
いい匂いだろう。
おいしそうだね、お父さん。
待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んでくる。
それから一人でにおいしいお酒ができるから。
さあ、もう帰って寝よう。
おいで、親子のカニは三匹、
自分らの穴に、
帰って行きます。
波はいよいよ青白い炎をゆらゆらとあげました。
それはまた金剛石の粉を吐いているようでした。
わたくしの幻灯はこれでおしまいであります。
11:16

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